夢と現実の双方向コミュニケーションが実現

国際科学者チームが、明晰夢を視ている人間とのコミュニケーションに成功。夢研究における新たなアプローチとして期待される。
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
Image: Tara Moore via Getty Images​
Image: Tara Moore via Getty Images

月、深海、地球の極地など、これまで人類は遠く離れた場所へと到達してきたが、今回、全く異なるタイプのフロンティアに科学者たちが触れた。そのフロンティアとは、夢の中の摩訶不思議な世界だ。

国際科学者チームは、明晰夢の真っ只中にある人とリアルタイムで会話を交わすことに成功した。2021年2月18日に学術雑誌の『Current Biology』に掲載された論文によると、これは〈インタラクティブ・ドリーミング(双方向の夢見)〉と呼ばれる現象だそうだ。

本研究の参加者は、レム睡眠の最中に、簡単な算数の問題などの質問に正確に答えることができた。この研究により「比較的知られていないコミュニケーションチャネル」が明らかになり、それは「夢の実証的な研究に使用できる新たなアプローチ」となるだろう、と報告されている。

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「明晰夢を見ている人たちが、夢の外側にいる人たちとやりとりができたり、やらなければいけないタスクを覚えていることに関しては、これまでも研究がされてきました」と説明するのは、本論文の筆頭著者で、ノースウェスタン大

学の博士課程の学生、カレン・コンコリーだ。「しかし、明晰夢の“中”に刺激を与えることに関する研究の数は、かなり限られています」

「私たちが驚いたのは、(夢の中にいる人に)文章を伝えることができたこと、そして彼らがそれを正確に理解したことです」と彼女は言う。

コンコリーのチームは、36名の被験者を、米国、フランス、ドイツ、オランダの各国にある研究室に集め、就寝させた。目的は被験者を明晰夢状態にすること、つまり、夢を見ている本人が夢を見ていることを自覚している状態におくことだ。被験者の中には、ナルコレプシー患者など、明晰夢の経験者も数人いたが、あまり経験がない者もいた。

被験者がレム睡眠に入ったことを研究者たちが確かめられるように、目の周り、頭皮、あごに電極が装着された。脳波や眼球の動きなどの活動を計測することで、被験者が深い睡眠状態に入ったかどうかを睡眠専門家が判断できる。レム睡眠だと判断されると、夢の中にいるということを被験者本人が示すため、あらかじめ決めておいた、眼球を左右に動かす規定の動きをするよう指示される。

睡眠中のセッションでは、眼球の動きによる反応、表情の歪みなどがコミュニケーションの手段として使われた。例えば、明晰夢を見ている19歳の米国人被験者に〈8引く6〉の計算問題を出すと、彼は左から右へ眼球を2回動かし、〈2〉という正しい答えを示した。同じ問題を再度出すと、再び正しい答えを示したという。

この実験で、夢を視ている人から上記のような明瞭かつ正確なコミュニケーションが発信された割合は18%だった。17%が不明瞭な答え、3%が誤った答えを発信し、60%は全く反応がなかった。

「研究室で数多くの質問を投げかけて、その質問への答えが得られるのはすばらしいことです」とコンコリーは語る。「その場で報酬が得られるタイプの実験です。採取したデータを分析する必要はない。被験者が寝ている間に、結果を目撃できるんです」

さらに、被験者の多くが、夢の中で研究者と交わしたやりとりを目覚めた後も覚えていた。その中には、外部からの刺激について、ボイスオーバーのナレーション、あるいはラジオの語り手のように、明らかに夢の外から流れてきているように聞こえた、と述べる被験者もいた。

明瞭な夢から覚めると、頭が冴えていくにしたがって、夢の断片的なディテールが急速に消えていき、最終的には内容を全く思い出せなくなる、という経験は、誰もがしたことがあるはずだ。

今回の被験者の中にも、目が覚めた後、夢の中で受け答えをした質問や答えとは異なるかたちで記憶していた人がいた。これは、一度目を覚ましてしまうと、夢を正確に再構築することが困難になることを示している。

科学者チームは、この研究を足がかりとし、さらに実験を重ねていくことで、明晰夢の中にいる人たちとの双方向のコミュニケーションの可能性を証明していくことを計画している。

「たくさんの研究案が出されています」とコンコリー。「どうやって手順の最適化を図れるか、コミュニケーションの確率を上げるにはどうすればいいか、明晰夢をより多くの人に見せるにはどうすればいいか、どうやってコミュニケーションの精度を高められるか…。今、私たちはそういった問題を解決しようと取り組んでいます」

「アイデアは豊富にあるんです」とコンコリーは語る。「それを実験で試すのが楽しみです」