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ジャネット・イワサ博士、分子を3Dアニメ化するソフトを開発

ユタ大学の細胞生物学者、ジャネット・イワサ博士は、医学研究のための3D分子アニメーションを発表している。そのアニメ化ソフトはMolecular Flipbookといい、無料でオープンソースであることが特徴だ。習得しやすいソフトのため、医療研究に役立つと期待されている。
15.5.14

画像とビデオはジャネット・イワサ博士の承諾により使用

アメリカ・ユタ大学の細胞生物学者であるジャネット・イワサ博士が、ソフトウェアを積極的に活用して、疾病を3Dアニメ化している。疾病を3Dアニメにするのは「Molecular Flipbook」というソフトウェアで、医学用の映像化に大きな革新をもたらしている。

「Molecular Flipbook」は、医療の研究実験に役立つだけではない。非常に習得しやすいソフトなので、医療関係者はこれまでのソフトよりも簡単に使うことができる。しかも、ソフトウェアは無料で、ソースコード(※1)は公開されている。

TED(※2)特別研究員でもあるイワサ博士は先日、TED2014でプレゼンを行い、映像化技術に関する発表を行った。テーマは、「3D アニメを用いた映像化による、疫病に対する理解や治療向上への重要性」についてである。

そこで我々は、3Dアニメに関して、ジャネット・イワサ博士へのインタビューを行った。

Chromatin remodeling: ATPase : Vimeoonemicron illustration より

INTERVIEW:Creators Project/ジャネット・イワサ

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Creators Project(以下、CP):博士は専門性の高い講義を毎日のように行っていますが、TED用に話す内容を調整されましたか? あれは、普段行っている講義とはまったく違うものですか? ジャネット・イワサ(以下、JI):TEDのプレゼンと、いつも分子生物学者に行っている講義との一番の違いは時間でした。たった4分間のプレゼンにまとめるのには苦労しましたよ!普段の(長時間の)講義では、これまで作成したアニメ―ションの例をたくさん提示し、仮説について教えたり、模索したりするのに映像化がいかに重要な役割を果たしているかを説明しています。 また、細胞生物学の博士号取得に向けて勉強している時期に、いかにしてアニメーターになったのか、事情を説明することもあります。生物学の専門家以外の方には、まず加工前のデータがどんな風に見えるのかを示します。そして、細胞中で興味深いプロセスが進行している分子の映像を単に撮影するだけではなぜ駄目なのかを説明します。

また、細胞生物学の博士号取得に向けて勉強している時期に、いかにしてアニメーターになったのか、事情を説明することもあります。生物学の専門家以外の方には、まず加工前のデータがどんな風に見えるのかを示します。そして、細胞中で興味深いプロセスが進行している分子の映像を単に撮影するだけではなぜ駄目なのかを説明します。

CP:Molecular Flipbookはまさにそのような面で助けになるわけですが、これは撮影した動画ではなく3Dアニメですよね。とても複雑なものだと思うのですが、素人にも分かるように解説していただけますか?

JI:アニメーションのパッケージソフトはたくさんありますが、そのほとんどはハリウッドやエンターテイメント産業を想定して開発されたものです。私がアニメーション制作に主に使用しているのはAutodesk Maya(※3)です。操作方法は3か月間のコースでみっちり学びました。内容は素晴らしいものでしたが、身についたのはアニメーションの作成に必要最低限のことだけでした。

私も生物学の研究者たちにMayaを教えていますが、1、2週間使わないと必ずと言っていいほど操作方法、例えばカメラの回転のやり方などを忘れてしまいます。分子生物学者が、分子の3Dアニメを作るための特別なソフトを設計するにはどうしたらよいかと思っていました。

CP:Molecular Flipbookは、研究者が実験計画を改善するのにも使用できますか?幅広い層と研究を共有する目的での使用は?

JI:直観的に使用でき、ゆるやかに習得できるソフトウェアをつくることが大きな目標でした。詳しく言うと、研究者がアニメーションを作成してから、数週間から数ヶ月実験を行った後に、アニメソフトの使い方を再度学び直すことなく、すぐにアニメーション作成を続けられるようなソフトが理想でした。また、研究者がソースファイル(ある場面のファイル)を共有できるオンラインのデータベースを確立し、他の研究者がそのソースファイルをダウンロードし、それぞれの仮説を反映させるためにアニメーションを変更可能な仕様にすることも目標でした。そして各々のアニメーションやソースファイルをアップロードすれば、仮説が時間とともにどのように発展し、個々の研究者でどう違うのかということも理解できるようになります。

entry draft Vimeoonemicron illustrationより

このプロジェクトのために国立科学財団から助成金を受け、Molecular Flipbookを実現するために、生物学者とプログラマーのチームを立ち上げました。それから数年たち、大変満足のいく成果をあげられています。私たちの検証では、生物学者は、5分間の説明を受けた後に5~10分で簡単な分子の3Dアニメをつくることができます。データベースの構築も進んでおり、夏前には稼動予定です。

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Molecular Flipbookのソフトウェアがオープンソースで、完全無料である点は自慢です。データベースも、アニメーションやソースファイルの閲覧やダウンロードは誰でもできる予定です。このアニメーションが研究分野だけでなく、教育分野などにも役立てば良いと思っています。

CP:なぜ映像化テクノロジーが重要なのでしょうか?「今見ているのは一体何ですか?」という質問が浴びせられていた、気味の悪い医学図の時代から大きく飛躍しているのは確かですが。

JI:長年に渡って数多くの研究協力を行ってきた経験から、アニメーションはアイデアを模索するための強力なツールになるということが分かりました。生化学や分子生物学の研究者の興味の対象は、複雑な分子の相互作用を理解することにあり、そこには時空間を移動するいくつもの分子との関係が考えられます。しかし仮説を視覚化できる主な(そして通常は唯一の)手段は、平面に描かれたシンプルな分子図であり、矢印で動きを示したものです。それは基本的に分子の棒線画です。

そのように過度に簡略化された図は、既知の情報のわずかな部分しかとらえていません。アニメーションは仮説の映像化だと考えていますが、その作成過程は非常に創造性に富んでいます。例えば、自分の仮説に何が足りないのかを理解する助けにもなります。

Clathrin-mediated endocytosis : Vimeoonemicron illustration より

CP:Molecular Flipbookは将来どのように発展していくとお考えですか?

JI:まだMolecular Flipbookのβ版を発表したばかりです。短期的には(夏までに)、分子モデルの作成に役立つ機能をいくつか追加する予定です。将来的にどのような機能を考えるべきか、ユーザーの意見を募集しているところです。すでに計画に上がっているのは STL(※4)ファイルを作成する機能で、これにより3Dプリンターで具体的な形状に成型することが可能になります。また、動画を他のアニメーションソフトで読めるようなファイル形式にエクスポートする機能も追加されるでしょう。

現在のプロジェクトの資金提供はこの夏に終了するため、将来的な展開のために新たな資金源を探す予定です。さらに追加したいと思っているのは、クラウドベースのレンダリングエンジン(※5)です。データベース上のいくつかの分子アニメーションを同時に組み込んだ「仮想細胞」を想像するとワクワクしてきます。例えば、ユーザーがミトコンドリアの中に入り込んだり、ミトコンドリア生物学の専門家が作成したアニメーションを見ることもできるようになるかもしれません。なんて素晴らしい教材なんでしょう!

CP:Creators Projectでは、アートとテクノロジーの境界に着目しています。Molecular Flipbookは本質的に研究者や科学者のためのメディアであり、それは3DアニメーターにとってのMayaのようなものです。Molecular Flipbookがアート作品の制作に使用されることはあるのでしょうか?

JI:もちろんです!私の作品をアートと評価してくださる方がいることはうれしく思っていますし、ギャラリーや公の場で展示できる機会に感謝しています。同じように、アーティストの皆さんがこのソフトを使って分子アニメを作りたいと思ってくれたり、研究者の作成したアニメーションが科学的な内容を超えたところで評価されるのは素晴らしいことだと思います。分子の世界は美しい驚異の世界で、興味は尽きません。そう思っているのは私だけではないと思いますし、アートを通じてこの世界を知っていただくのは大歓迎です。

CP:まったく同感ですね!最後にアニメの話をしましょう。スタイルという点では私は「トイストーリー」よりも「AKIRA」の方が好みのですが、博士は普通のアニメと3Dアニメ、どちらがお好きですか?お気に入りのアニメ映画はありますか?

JI:アニメは大好きですし、2Dか3Dかで区別することもありません!私にとって大事なのはストーリーであり、共感できるキャラクターの存在です。私が好きなのは宮崎作品(『もののけ姫』、『となりのトトロ』)やピクサー(※6)作品(『WALL-E』)、『Ratatouille』、『Up』)が多いですね。でも3Dアニメの場合は、「わぁ、あのチーズすごくリアル!あの光の当て方……あの質感どうやって出してるのかなぁ」なんてことを繰り返し考えていると、ちょっと苦痛になってきますが。

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CP:Molecular Flipbookを使って日夜努力している研究者の皆さんが、私たちと同じような経験をされているのを知ってうれしくなりました。今日はありがとうございました!

脚注:

(※1)ソースコード:ソフトウェアの設計図。

(※2)TED:TED(テド)とは、アメリカ・カリフォルニアで、年1回大規模な講演会を主催しているグループの名称。テクノロジー(T)、エンターテインメント(E)、デザイン(D)が一体となって、未来を形作るという考えに由来している。1984年にアメリカで始まった。

(※3)Autodesk Maya:3Dアニメーション用のソフトウェア。

(※4)STL:3D形状を表現するデータを保存するファイルフォーマットのひとつ。Standard Triangulated Language(スタンダード・トライアンギュレイテッド・ランゲージ)の略称。

(※5)レンダリングエンジン:画像や画面の内容を指示するデータの集まりをコンピュータプログラムで処理して、適切な形に表現しなおす、ソフトウェア部品のこと。

(※6)ピクサー:正式名称は、ピクサー・アニメーション・スタジオ。CGによるアニメを特異とする、アメリカの映像制作会社。