sex toys
Photo: GREG BAKER / AFP

アンダーグラウンドで花開くパキスタン・セックストイ市場

パキスタンではセックストイの売買は違法だが、販売業者の証言によれば、パキスタン国民はインターネットで購入しているらしい。パキスタン製のセックストイもある。
Rimal Farrukh
Islamabad, PK
AN
translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP

エティシャム・カマール(Ehtisham Qamar)は大学在学中、故郷であるパキスタンのシアールコートで友人たちとスモールビジネスを始めた。金属製のアナルプラグを製造、輸出する事業だ。

「僕たちはこの業界への参入が比較的早かったので、すぐにかなりの額を稼ぐようになりました」とカマールはVICE World Newsに語る。

「こういった事業をシアールコートで行うことができるなんて、想像もしたことがなかったです」とカマール。「僕らは秘密裏に営業していました。同業種のメーカーの多くが、事業内容を尋ねられたら『外科用器具の製造を行なっている』と答えるはず」

パキスタンではセックスに関する話題はタブー視されており、性的快感のための玩具の製造、販売は法律で禁止されている。各地方の当局は、植民地時代に定められた「わいせつ物」を禁止する古い法律に基づき、国内のセックストイ業界の取り締まりを行なっている。 

Advertisement

現在、カマールはセックストイの製造、販売から手を引いている。セックストイ事業を興した9年前はまだ自分も若かった、もうセックストイ業界には関わらない、と彼はいう。

パレスチナ製セックストイの大半は、シアールコートで作られている。この街は金属製外科用器具の製造で有名で、皮革製サッカーボールの一大生産地でもある。

皮肉にも、皮革製品、金属製品製造におけるこの卓越した技術こそが、パキスタンが米国、オーストラリア、英国の消費者に向け、金属製セックストイや皮革製フェチグッズを秘密裏に輸出、オンライン販売するに至る道を開いたのだ。

パキスタンのわいせつ物禁止法の下では、セックストイの売買、宣伝、販売は罰金、および3ヶ月以上の禁固刑が科される犯罪だ。

しかしこの法律は、国内に実際の店舗を構えず、100%オンライン取引を行うセックストイの貿易業者や地元製造業者の妨げになっているわけではないようだ。

「巨大な産業です。収益から1年分の借金を完済できるほど。ビットコインや暗号通貨と同じですよ」と語るのは、カラチを拠点とするセックストイ・サプライヤーのナシール・クレシ(Nasir Qureshi:プライバシー保護のため偽名を使用)だ。

クレシは受ける国内注文は月100件以上。収益については明かしてくれなかったが、販売価格から計算すると、彼はパキスタンの平均月収の5〜10倍もの収益を得ていることになる。「国内取引には問題があります。パキスタンのインターネット政策で、僕ら業者がGoogleやFacebookに広告を出すのが禁止されているんです」とクレシ。

しかし、それでもSNSでセックストイを販売している個人販売業者はおり、セックストイの開封動画で人気を博し、Instagramで9000人ほどのフォロワーを抱える人気アカウントもある。そのアカウントの動画で紹介されるセックストイの価格は100〜300ドル(約1万1000〜3万3000円)。拠点はイスラマバードのようだ。動画を見て興味を持った買い手のために、動画内で業者の名前や連絡先を紹介している。VICE World Newsは当該アカウントに取材を申し込んだが断られた。

sex toys pakistan

パキスタン、イスラマバードを拠点とするセックストイの売り手のInstagramアカウント。最高額は3万2850パキスタン・ルピー(約2万3000円)。

Amazonは今年5月、パキスタンを出品者登録ができる対象国に加えた。それにより今後、クレシのような業者はAmazonで出品できるようになる。スモールビジネスにとって大きな僥倖のように思えるが、パキスタンのセックストイ販売業者たちは慎重だ。「パキスタンのAmazonで出品できるものについての規則や規制は全く別問題なので」とクレシ。

実際、彼の懸念するとおりだ。2017年には大学生がセックストイを販売して逮捕された。取扱業者たちは、当局が秘密裏に行うおとり捜査にも直面してきた。

Advertisement

「警察は顧客として商品を注文し、こちらが配送すると調書を提出し、法的な捜査を始めるんです」と語るのはイスラマバードでセックストイ業者を運営するアブドゥラ・チョダリー(Abdullah Chaudhary:プライバシー保護のため偽名を使用)だ。

チョダリーは、最も売れ筋の商品はディルドやバイブ、ペニスバンドで、顧客の大半が男性だと言う。「国じゅうから注文を受けます。スワートやペシャワル、ムルターンなど、より保守的な傾向の強い地域からの注文もあります」とチョダリーは言う。

彼が扱うのは主にパキスタン製のセックストイなので、国内の取り締まりについて懸念しているが、海外から輸入している販売業者にとって障壁となっているのは税関だ。

2020年、クレシは6500ドル(約72万円)分の在庫を税関に押収された。クレシによれば、事業を続けたければ賄賂を払え、と税関職員に言われたという。彼はそれを承諾し、今年に入ってようやく輸入を再開できた。

事業主たちがぶつかっている壁は法的な問題だけではない。性的快感がパキスタン社会全体でタブーになっていることも大きな障壁だ。

「こんなビジネスは間違っている、と言われたこともあります。うちは徐々に皮革製品の製造に移行して、セックストイの販売は一切やめました」とカマール。彼は学生時代に興した事業を2年も経たないうちに畳んだ。

パキスタンではセックストイ業界が表に出ることができないため、多くの潜在顧客が業界の存在自体を知らず、結局中国製品を購入している。

「地元ではセックストイなんて見かけません。バイブレーターなどベーシックな商品でさえ見つからない。どこで見つけて注文するかというと、AliExpress。注文後もかなり気を張っていないといけません」とカラチ在住でセックストイ使用者のルビーナ・アフメド(Rubeena Ahmed:プライバシー保護のため偽名を使用)は語る。

アフメドのような女性たちは、AliBabaAliExpressなどといったオンライン・マーケットプレイスで売られている中国製のセックストイを購入するか、あるいは信頼できる男性を通して注文する。「前に、男友達を通してひとつ購入しました。彼の職場に送ってもらったんです。無事に届くかどうかリスクがあったので」とアフメド。 

Chinese manufactured sex toys available in Pakistan through AliExpress.

AliExpressを通してパキスタンで購入可能なセックストイのスクリーンショット。アナルプラグの値段は285パキスタン・ルピー(約200円)で送料無料。商品到着までには最長3ヶ月かかる可能性も。

パキスタンの、特に女性達にとって、性的快感や女性のセクシュアリティにまつわる社会的なスティグマは、セックストイの購入・所有への壁がより高くなる原因となっている。

ライターでアクティビストのザラ・ハイダー(Zarah Haider)は、VICE World Newsの取材に対し、旅行でカナダからパキスタンへと入国するとき、怖くてセックストイを持っていけなかった、と語った。「もし空港や家で誰かにスーツケースを開けられたら、と考えたら怖くなって、バイブレーターを持っていくリスクを冒すのはやめました。とにかく恐怖で」

しかしそんな状況には変化が必要だ、と彼女は考えている。「パキスタンのような家父長制が根強い社会では、男性の快楽ばかり追求され、女性の快楽は軽んじられています。女性だってオーガズムに達してもいいはず。セックストイはその頼れる一助になってくれるんです」

Advertisement

しかし、それを実現するための道のりは遠そうだ。

パキスタンのブロガー、ウジャラ・アリ・カーン(Ujala Ali Khan)によると、パキスタンにはオープンにセクシュアリティを語れる場はオンラインにもほとんどない。稼働している場も、自己検閲により表現が薄められてしまっているという。

そうなってしまう理由を、彼女は身をもって学んだ。2020年、彼女はFacebookの非公開女性限定グループで、セックストイの開封動画をライブ配信した。しかし誰かがグループの決まりを破り、そのスクリーンショットを外部に公開。それがSNS上の他のグループに広まってしまった。その後、カーンのもとにはレイプ予告や殺人予告がいくつも届いたという。

「貧困や政治の腐敗、テロリズム、虐待、レイプ、暴行といったもの以上に、セクシュアリティを語る女性に怒りをぶつけるひとはいるんです」とカーン。

「私はセックストイについて話しているだけで、誰の身体も傷つけていない。そんな無害な行動に対しても、容赦ない、度を過ぎた反応が届くんです」

リマル・ファルクのTwitterはこちら