2018年、夏に開催された新日本プロレス最強リーグ決定戦〈G1クライマックス〉で棚橋弘至が優勝し、飯伏幸太が準優勝という結果は、プロレスファンの記憶に新しい。他にも、大仁田厚が7度目の現役復帰を発表したり、11月の大日本プロレス両国国技館大会など、プロレスに関する話題は事欠かない。
プロレスラーを、応援したくなる気持ちが芽生えるのはどんなときだろう? もちろん、試合内容や結果もあるかもしれないが、やはりプロレスラーのキャラクターやマイクパフォーマンスは重要だろう。例えば、ヒップアタックを得意技とする越中詩郎が、握手のついでにファンにお尻を触られていたエピソードを知れば、越中詩郎が可愛く思えてくる。満席の焼肉屋にて、店員に文句をいう横山やすしに対して、マサ斎藤が睨みを利かせ黙らせた逸話を知れば、プロレスラーの頼もしさが感じられる。
そんな、愛すべきプロレスにまつわるエピソードが描かれている、4コマ漫画『味のプロレス』はご存知だろうか? 80年代、90年代のプロレスファンならば、思わず懐かしくなってしまうエピソード満載の漫画だ。『味のプロレス』の作者である、アカツキ氏は熱狂的な昭和プロレスファン。今回はアカツキ氏にプロレスの魅力と自身の描くプロレス漫画について語ってもらった。
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いつから、プロレスの4コマ漫画を書き始めましたか?
2013年から書き始めました。僕は昔からプロレスが好きだったのですが、総合格闘技がブームになってから、あまりプロレスに注目していませんでした。2013年に、大ファンだった小橋建太が引退するというので、久しぶりにプロレスの試合を観て、気付いたら大号泣していたんです。それで「俺はプロレスが大好きだったんだよなあ」と思い出して、プロレスの漫画を描こうと決意しました。
もともと、プロレス漫画も好きだったんですか?
大好きでしたよ。昭和プロレスファンのバイブルともいわれている、『プロレス スーパースター列伝』『プロレス・スターウォーズ』の2大プロレス漫画はもちろん、『キン肉マン』も読んで育ちましたからね。僕らの世代は漫画でプロレスを知って、プロレスファンになるかたも多かったです。プロレスファンは多かったですね。
4コマ漫画ではコアなネタもありますが、どのように漫画化するエピソードを選んでいるのでしょうか?
僕は今年で43歳ですが、5歳の頃からプロレスが好きで観ていました。その中から印象に残ったエピソードを4コマ漫画にしています。
アカツキさんが、5歳でプロレスを好きになったきっかけを教えてください。
今でもハッキリと覚えているのですが、夜の8時頃に母親が読んでいた新聞のテレビ欄に〈アントニオ猪木〉の文字があったんです。僕は〈アントニオ猪木〉という字面から、ウルトラマンや仮面ライダーに似たインパクトを受けたんです。すぐにテレビを回して観た〈アントニオ猪木 VS スタン・ハンセン〉は衝撃でした。
やはり当時の子供にとって〈アントニオ猪木〉はヒーローだったのでしょうか?
僕が子供の頃はアントニオ猪木が大人気でした。あとは、初代タイガーマスクです。タイガーマスクの試合はプロレスに興味がない子供まで観てましたよ。
ゴールデンタイムに『ワールドプロレスリング』が放送されていたんですよね?
そうですよ。当時は『金八先生』『太陽にほえろ!』に並んで、テレビでプロレスが放送されているくらい人気でした。
当時、テレビ以外にプロレスの情報を得る方法はあったのでしょうか?
テレビでの放送が深夜に変更された90年代から、〈活字プロレスの時代〉といわれていました。テレビで見にくくなった代わりに、週刊プロレスと週刊ゴングというプロレス雑誌にファンが食いついたんです。一時期の週刊プロレスは雑誌のなかで、売上トップともいわれていましたから。
〈活字プロレスの時代〉はどういった選手が活躍していたんですか?
新日本では蝶野正洋、武藤敬司、橋本真也の闘魂三銃士。全日本は三沢光晴、小橋建太、川田利明。まだ、アントニオ猪木、長州力、天龍源一郎、ジャンボ鶴田もバリバリ現役で、プロレスにとって90年代は奇跡の時代でしたね。UWFと新日本の対抗戦のときは、東京に住んでないことを本当に悔やみました。夢のようなカードで、東京ドームのチケットが1時間足らずで完売しましたから。
今では後楽園ホールのチケットが完売して騒がれますもんね。
そうですよ。チケットを入手出来なかったお客さんまで、ドームに集まってしまったんです。その中には、当時のビビる大木さんもいたそうです。
最近はテレビに新日本の選手が出たり、プ女子なんて言葉もありますが、80年代や90年代のプロレスと、現在のプロレスでは何が違うと思いますか?
ひと言でいえば昔のプロレスはダイナミックでした。男同士が本気でやりあって、血しぶきが飛んで、迫力がありました。それに対して今のプロレスは、子供から女性も楽しめるようなエンターテイメントとしてのプロレスだと思ってしまいますね。
今もプロレスは観ていますか?
最近はほとんど見ていませんね。理由はわからないのですが、試合を観ていても感情移入できないんですよ。でも、そういう意味では新日本で飯伏幸太の試合を観たときは衝撃を受けましたね。当時、武藤敬司を観たときと同じ気持ちになりました。あとは、柴田勝頼もいいですよね。飯伏と柴田は昭和のファンが好きな選手だと思います。
先日、テレビで棚橋弘至選手の試合を観て号泣するファンのかたを目にしました。アカツキさんにとって、プロレスの魅力はどんなところにあるのですか?
選手が逆境から這い上がる姿ですね。もちろん棚橋の魅力もそこにあると思います。ファンは選手が這い上がる姿に、自分を照らし合わせて応援しているんです。辛いときに、最高の試合を思い出して、自分を奮い立たせたりすることは、プロレスファンなら誰でもありますよ。
プロレスが好きで良かったと思ったことはありますか?
例えば、仕事をしていても「今日は仕事したくねえな…」っていうときがあるじゃないですか。そういうときに好きな選手の言葉を思い出して、モチベーションを上げられるときですかね。
具体的にどんな言葉か教えてください。
現役時代の天龍源一郎は、どんな会場でも手を抜かずに全力でファイトすることを貫いた選手でした。田舎の体育館でも、東京ドームでも同じテンションで試合をしたんです。「今はお客さんが少なくても、一生懸命試合をすれば、お客さんが増えるかもしれない。どうせ痛い思いをするんだから、お客さんに本気で伝えるんだ」って。このスタイルは後に〈天龍革命〉と呼ばれました。これは本当に素晴らしい考えですし、プロレス以外の仕事にも当てはまりますから。
『味のプロレス』天龍イズム ©︎Akatsuki
プロレスの4コマ漫画を描いていて、どんなところにやりがいを感じますか?
僕は根っからのプロレスファンなのでマニアックなネタが浮かんでくるんですよ。それを上手く4コマで表現できたときも嬉しいのですが、誰かが気が付いてくれたときが一番嬉しいですね。
こちらも具体的にどんなネタなのか教えてください。
プロレスの試合は、静かに始まって、徐々に盛り上がることが多いのですが、初っ端からかましにいく選手もいるんですよ。ジャンボ鶴田選手は、試合の序盤に対戦相手から大技を出されて、起き上がるときに、反則でもないのにレフェリーに抗議をするんですよ。その、ジャンボ鶴田選手の抗議の漫画を描いたら、「わかる! わかる!」という反響をいただきました。
『味のプロレス』必ず見せる鶴田 ©︎Akatsuki
すごいマニアックですね(笑)。
僕の4コマ漫画は、プロレスファンには伝わる、あるあるネタと、プロレスを知らないかたでも楽しめる、プロレスラーの面白エピソードのふたつを盛り込んでいるんです。それもあって、全然プロレスを知らないかたでも、4コマ漫画を楽しんでくださっているかたがいて、とても嬉しいですよ。
今後のプロレス業界に期待することはありますか?
キング・オブ・エンターテイメント・プロレスを目指して欲しいですね。
それはどういうことですか?
僕のように昔は熱狂的なプロレスファンでも、今はプロレスに興味がないというかたも夢中になれるようなプロレスが観たいです。
どうすれば実現するんでしょう?
2016年に天龍源一郎は引退をしたのですが、最後の対戦相手は、若くて現役バリバリのオカダカズチカでした。天龍は腰も悪いし、ほとんど動けずにボコボコにされている姿を見て、僕は悔しくて号泣していました。だって、僕は全盛期のえげつないくらい強かった天龍を見ていましたから。昔のファンからしたら「天龍が現役だったら、オカダなんてボコボコだぞ」と。でも、オカダを引退試合の相手に選んだのは、昔のファンも取り込むための狙いだったんです。実際、その試合がきっかけで昔のプロレスファンはオカダを覚えましたから。試合後、リングで大の字に倒れている天龍に対して、普段はふてぶてしい態度のオカダが深々と礼をしたんですよ。その瞬間に昭和のプロレスファンはオカダのファンになってしまいましたよね。
アカツキさんが4コマ漫画を描くのも、誰かがプロレスに興味を持つきっかけになったり、昭和のプロレスファンがプロレスを見直すきっかけになってほしいという想いも込められているのでしょうか?
プロレスを知らない人に、プロレスの魅力や奥深さを伝えていきたいという想いは、大いにあります。あとは昭和のプロレスファン達も、僕の漫画を読んで懐かしがってくれて、ファンの輪が広がればいいなと思いますね。
アカツキ
札幌在住のイラストレーター。
80~90年代のプロレスを題材にした4コマ漫画『味のプロレス』がインターネットで大人気に。
今年ついに書籍化され、第1弾の『闘魂編』は発売即重版。
9月末には第2弾の『王道編』が発売された。
andMade×味のプロレス コラボ企画
場所:andMade
会期:2018年10月2日(火)~10月8日(月)
住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷3-34-3
入場無料