「憂慮すべき」偽ケタミンが登場

ある使用者がVICE World Newsに語ったところによると、使用時の感覚はケタミンに近いが幸福感は少ないという。専門家は、短期的、長期的な影響は全くわかっていない、と警告する。
Gavin Butler
Melbourne, AU
AN
translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
CanKet-MalcolmMcLeod copy

今年の10月中旬、オーストラリアの科学者たちは、国内での検出は初めてとなる嗜好用薬物が発見されたと発表した。それはケタミンに似た化学的性質をもつ薬物だが、効果は異なるとされる。

この解離性麻酔薬が初めて検出されたのは今年8月中旬。首都キャンベラにある、オーストラリア初の政府が支援する薬物検査サービス〈CanTEST〉に、白い結晶と粉末が入った小さな袋が持ち込まれたのがきっかけだ。持ち込んだ人物は元々、その物質をケタミンと思っていたそうだが、「期待していたものと全く異なる」効果が出たと述べ、施設での詳細な検査を求めた。

「ケタミンと予想されたので、現地にある検査機器にかけました」とVICE World Newsに語ったのは、オーストラリア国立大学化学研究院(Research School of Chemistry)のマルコム・マクラウド准教授だ。

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しかしその初期検査で、その白い粉がケタミンである可能性は早々に除外され、その後の研究所での検査で、構造的にはケタミンに類似しているが、どこかでゼロから合成されたものであることが明らかになった。研究者たちはそれを謎の新しい合成麻薬だと結論づけ、キャンケット(CanKet)と名付けた。

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「その段階で何であるかを正確に知ることは少々困難です。なのでそういう意味では未知のものですね」とマクラウド准教授は説明する。「ケタミンとは全く異なる、かなり新しい化学物質です。ここ最近になってようやく記録されるようになったもので、私たちが把握しているかぎりでは、オーストラリアでは初めて検出されました」

キャンケットの検査が行われたのと同じ頃、中国の研究チームが「新しい3種の向精神薬の特定」と題した研究論文を発表。そのなかでチームが「2F-NENDCK」と呼んでいる薬物がキャンケットである。論文の筆者たちはケタミンに似たこの新しい薬物について、薬物を禁止する法律をかいくぐるために製造されたものだろう、と指摘する。この薬物はNENKというデザイナードラッグに構造が似ており、NENKもケタミンと類似した性質を有していると考えられ、中国の違法薬物リストに入っている。

ケタミンに似ているためオーストラリアでは違法となるキャンケットは、薬物規制が比較的ゆるい別の国から「輸入されたものである可能性が非常に高いのではないか」とマクラウド准教授は語る。彼によれば、最初に発見されてから2か月間で、検査施設で「4〜5回」見つかっているそうだ。

「そのまま手元に置く依頼者もいれば、破棄するひともいます。ケタミンでないことに驚くひともいます」とマクラウド准教授。また彼は、「効果についてはよくわかっていない」とも指摘する。使用者からの報告も多岐にわたっており、「往々にして主観的で、何が起きているのか正確に解明するのが少々難しい」そうだ。

「この薬物がどんなものかということについて、明快に答えることはできません」とマクラウド准教授は述べる。「人体にどのような影響を与えるのか。どんな効果をもたらすのか。全くわかっていない、というのが正直な答えです」

匿名を条件にVICE World Newsの取材に答えてくれた使用者は、その感覚について「ケタミンにかなり似ているけど、ケタミンに比べてディープでも、内省的でもない」と表現する。

「これまで3回続けてケタミンを買ったんだけど、それが2F-NENDCKだったんだ」と語るのはキャンベラ在住のハンター(仮名)。彼は毎回CanTESTのサービスを利用し、ケタミンとして売られていたものの真の姿を突き止めた。「ケタミンより劣るかな、という感じだけど、本当に少しだけ。幸福感はちょっと少なかったかも。ケタミンを鼻から吸ったときは、効きはじめに顔に笑みが浮かぶんだけど、2F-NENDCKにはそれがない。効いてきたなと思ったら、ふわふわするけど普通の精神状態が続く」

ハンターは、2F-NENDCKとケタミンでは違う感覚を覚えるものの、「解離性麻酔薬の初心者には違いがわからない」ほどには似ているとも指摘する。また、2F-NENDCKが専門家たちにより確認されたのは今のところキャンベラだけだが、すでに他の州にも広がっているという。

「キャンベラに限らず、他のマーケットにも広がってる」とハンター。「俺はニューサウスウェールズ州のブルーマウンテンズで行われたフェスみたいなとこで、(ビクトリア州の)メルボルンから来たヤツから買った。いろんなところで流通してるんだ。キャンベラだけじゃない」

潜在的な危険についてはまだわかっていないが、専門家はすでに、研究もされていない謎の薬物を消費者が容易に手に入れられてしまうことについてのリスクへの懸念を表明している。薬物分類において比較的安全とされるケタミンだと思って購入した消費者は特にそうだ。

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VICE World Newsに提供された声明では、オーストラリア国立大学のデヴィッド・カルディコット准教授がこう述べる。「ケタミンについては我々がよく知っている薬物だと言えるのですが、この類似物質が及ぼすかもしれない短期的・長期的な影響については文字どおり何のデータも持っていません。これは憂慮すべき事態です」

「ケタミンに似ているように見えるからといって『安全』だと決め込むのは判断ミスだといえるでしょう」

マクラウド准教授も同様の懸念を述べる。薬物の化学構造の違いが一見微々たるものであったとしても、人体に与える影響は大きく異なる可能性があるのだ。マクラウド准教授は、ADHDの治療に広く使われるアデロールやデクセドリンをはじめとする、比較的広く普及・研究されている薬物であるアンフェタミンを例に挙げ、この薬物の化学構造を「たった少しだけ変える」だけでPMAができてしまうと説明する。PMAとは「ドクター・デス」と呼ばれるデザイナードラッグで、エクスタシー(MDMA)と似た効果を発揮するが陶酔感は少なく、より毒性が強い。低容量でも命を落とす可能性がある。

「実に微細な変化が非常に大きな影響を与える可能性があり、だからこそ我々は懸念しているわけです」とマクラウド准教授。「このような比較的新しい薬物が実害をもたらすというシナリオもありえますから」

その危険を軽減するための最善の方法は、CanTESTのような薬物検査サービスをより多く設置し、違法薬物を服用しようとするひとびとがそのサービスを簡単に利用できるようにすることだ、と多くの専門家が口をそろえる。CanTESTは開設されて1か月でさまざまな薬物のサンプル58件を検査した。研究者たちはその結果から、コカインだとされたサンプルのうち実際にコカインを含んでいるのは60%、MDMAの場合は65%強にとどまることを確認。また、多くの薬物にはジメチルスルホン、砂糖、タルクなどの混合物が加えられ、純度が落とされていた。検査結果を受け取ったひとのうち18人が薬物を破棄した。

「実際、この問題に取り組む方法は、使用者に情報を提供することだと思います。それにより情報を元にした決断ができるようになるので」とマクラウド准教授は語る。「国境などで押収されているという話もよく聞きますし、それはすばらしいと思います。ただ、当然ひとつ残らず押収できるわけではないですからね」

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