〈True Colors DIALOGUE ママリアン・ダイビング・リフレックス/ダレン・オドネル『私がこれまでに体験したセックスのすべて』〉が2021年4月より上演される。

セックスの体験を他人と共有すべきか?〈私がこれまでに体験したセックスのすべて〉

〈True Colors DIALOGUE ママリアン・ダイビング・リフレックス/ダレン・オドネル『私がこれまでに体験したセックスのすべて』〉が2021年4月より上演される。
1.4.21

インターネットの登場以降、グローバル化による〈均一性〉と、アイデンティティーに起因した〈多様性〉という矛盾した価値観の狭間で揺れている。どちらも重要な概念だが、統一するもの、違いを認めあうもの、この境目がみえづらい。さらには、何を基準にどう均一にするのか、何をどこまで認めあうのか、という問題までのしかかり、閉塞感に苛まれているのが現代社会の特徴のひとつだろう。

 そんななか〈True Colors Festival 超ダイバーシティ芸術祭 2021〉なるイベントが行われている。その名の通り、多様性とアートが結びついたイベントだが、上記で示した通り、単純に多様性を推し進めるだけで良いのだろうか?

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〈パフォーミングアーツを通じて、障害・性・世代・言語・国籍など、個性豊かな人たちと一緒に楽しむ芸術祭〉をテーマに開催される〈True Colors Festival〉(主催:日本財団)。これまでに、ダンス、演劇、音楽など、さまざまな表現方法でアウトプットされてきた。

そして、2021年4月、性をテーマにしたドキュメンタリーシアター〈True Colors DIALOGUE『私がこれまでに体験したセックスのすべて』〉が開催される。カナダを拠点に世界各国で活動するアート・チーム〈ママリアン・ダイビング・リフレックス〉によるこの企画は、60歳以上の人々に、これまでの性的(セックス)体験を舞台上で語ってもらい、観客とシェアしようというもの。

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創立者のダレン・オドネルは、〈社会の鍼治療〉と語るように、社会に対し、ピリリと突き刺すメッセージ性を特徴としたパーフォマンスアートを行なっている。今回開催される〈私がこれまでに体験したセックスのすべて〉は、2012年のドイツ公演を皮切りに、ヨーロッパ、アメリカ、アジア、計14カ国22都市で上演されてきた作品だ。
※同演目は2020年6月に実施予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大予防の観点から中止。この取材は2020年に実施したものだが、演目の再開決定を受けて再編集したものになります。

ダレン・オドネルさんは「以前、ドイツの小さな街で、年老いた女性が元気に自転車に乗っている姿を見て、とても驚いたんです。私の母国であるカナダでは、自転車に乗るのはせいぜい50代くらいまで。だからこそ、何が彼女のバイタリティとなっているのか好奇心が湧いたんです。同時に、別の公演を行なっていたときに観客から『性の問題について、どのような問題意識を持っていますか?』と質問されたことがありました。そのふたつの体験が、年老いた人々の性をテーマにしたプロジェクトについてアイデアが湧いてきたんです。性的関心や性体験が、年を重ねるにつれて、どのように変化し、人生がどう変わったのか、に焦点を当てています」

最初の顔合わせで、日本公演に参加するスタッフ、出演者など、すべての人が、First(最初)、Last(最後)、Best(ベスト)、 Worst(ワースト)の性体験を告白し共有する、といったワークショップからスタート。「〈人々とのシェア〉をひとつのコンセプトとして掲げています。側からみたら平凡な人間で、普通の人生を送ってきたように思う人たちにも、それぞれに最良と最悪な出来事があり、アップダウンがある。人生とはとても興味深いものであることを感じてもらいたいです」

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プロジェクトが上演される際に、司会とサウンドデザイナーを担当するシンガーソングライターの入江陽さんは「最初に話を聞いたとき、どんなことが起きるのか想像がつきませんでした。もちろん恥ずかしさもあったのですが、出演者やダレンと、自分たちの性体験をシェアしたり、みんなでカラオケにいったり、稽古をしているうちに、不思議と大切な仲間って思えるようになってきたんです。これまで、見知らぬ、しかも国籍も世代も異なる人々と、そのような一体感を感じたことがなかったので、自分自身も、この公演をやり遂げたあと、つくる音楽も含め、どう変わるか楽しみにしています」

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〈性の解放〉をテーマにしたイベントやSNSを通じた活動を行っている大学生の中島梨乃さんは「想像している以上に性で傷ついている中高生が多くて。適切な性の知識を持ってもらえるよう、高校生のとき同年代に向けて性教育の発信をはじめました。このプロジェクトは、年配の人の性がテーマということで、一般の人々がどれくらい関心があるのか、ちょっと未知なところはあります。こういった内容のイベントを楽しむためにはある程度のリテラシーが必要だと思うので、どんな人たちが参加するのかとても興味深いです。」


自らの性を解放することは、時として必要であり、時として必要がないことのように感じる。つまり、すべてをシェアすることで、気持ちが楽になるのだろうが、かといって周囲からの反応を気にしてしまう人も多いだろう。日本の風習は良くも悪くも、〈他人様の評価〉が自身の社会的地位を、概ね形作ってしまうことから、その枠組みの外に出るには、多くのリスクを伴ってしまう。世間を気にせず我が道をいくのは、想像以上に難しい閉塞感が漂っているのは、常日頃のニュースやSNSからも感じ取れるだろう。よく言えば、社会がつくり上げた規範が尊重され、安心安全風な社会とも言えるだろうが、その枠組みから外れるとコミュニティーから追放されてしまうかもしれない危険性が帯びている。

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では、実際に、このプロジェクトに参加する60歳以上の人々は、どのように捉えているのだろうか?

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尼崎出身のはるさんは「我々の時代は、とにかく隠して、隠して育ってきましたから。小学校5年生のときに、大人の男のひとたちに、男女の性行為の映像を強制的にみせられて、気持ち悪くて仕方なかったことを覚えています。(性について)これまで誰にも話してこなかったことを、人前で話すことによって、この先自分はどう生きていくのかという不安はあります。だけど歳も歳だし、あと何年も生きていられないと思うので……」

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ゲイであることをオープンにしている吉良さんは「ゲイであることで罪悪感を感じることはなかったんですが、女っぽいとイジメられたこともあって、若い頃はクローゼットなゲイとして生きてきました。40歳を過ぎ、ゲイコミュニティーに出るようになり、身体だけでなく、精神的にも解放されるようなセックスの体験をしたり、活き活きとした、いろんなジャンルのゲイの表現者等から刺激を受けて、自分もゲイであることをカミングアウトしました。その直後に舞台に立ったとき、悲しいシーンで毎回、自然と涙が溢れ出てきました。カミングアウトしたことで舞台の上でも解放され、本質的に裸になれたんです。観客の視線の中へ素の自分を放り出し、そこから演劇が息づいていく。快感でした!」

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生まれつき障がいを持ち、長い間施設にいたまさこさんは「仕事でアメリカへ行って、初めて女性として見てもらえていると感じて、あ~ぁ、自分も恋愛できるんだと思えたんです。障がい者の性については、まだまだ語られる機会が少ないので、障がい者として性のことを語るのもいいかなって考え、参加してみようと思いました。ただ、多様性をテーマにするとき、別に〈性〉を題材にしなくてもいいと思うし、障がい者の中にも自分よりも経験豊富な人たちがいるので、自分でなくてもいいかもねっていう思いもあります」

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〈恥〉の概念を根底とした日本文化のなかで、性について他人に公言することが、必ずしも好ましい結果に繋がるとは言い切れないと語るのは、男性として仕事を全うし定年退職を迎えたゆきさん。「私たちの性は、とりわけ女性の場合は他者に対して無防備になるという大きなリスクを負うため、本来とても傷つきやすい。だからこそそれを綺麗に真綿で包みこむように、ひとつひとつ大切に守ってきたのだとも思うんですね。ただ、東日本大震災で被災して、いろいろなシステムが根底からひっくりかえっていく光景を目の当たりにして、それまで自分の性問題、つまり性別への違和感を隠し続けて生きてきたことに、儚さを感じたんです。それで閉じ込めてきた本来の自分を解放して生きていこうと決意しました。このイベントに参加することで、何か自分なりに、よりふっきれたらという気持ちはあります。……でも正直どうなるかわからない。これまで私を支えてくれた人たちに、逆に違和感を押しつけてしまうだろうことがすごく申し訳ない気持ちもありますから」

それぞれが自身の性を解放した体験に基づき、過去の記憶と照らし合わせ、このイベントへの出演を決めたようだ。


現代において、多様性を認めあうことが、重要な価値観であることは間違いない。しかし宗教も、常識も、価値観も、欧米諸国とは異なる日本において、欧米人と同様に多様性という概念について折り合いをつけるのは難しい。グローバル化という名の欧米文化への迎合では、本来いうダイバシティと真逆の概念となってしまい、これまでとなんら変わらない結論となってしまうだろう。

ここで紹介した〈True Colors DIALOGUE『私がこれまでに体験したセックスのすべて』〉を通じて、性の解放、日本文化、さらには自分自身のアイデンティティを再確認してみて欲しい。その先に、個人個人が見つけ出した、それぞれの答えを共有しあえて初めて、多様性の重要性が少しわかるのではなかろうか。

True Colors Festival -超ダイバーシティ芸術祭-
True Colors DIALOGUE ママリアン・ダイビング・リフレックス/ダレン・オドネル『私がこれまでに体験したセックスのすべて』
開催日時:2021年4月8日, 9日, 10日, 11日(東京公演)
会場:スパイラルホール