夭逝したフリーランナーがカメラでとらえた変わりゆくロンドンの姿

ロンドンの中心にある集合住宅の壁を登っているさいに転落し、23歳で非業の死を遂げたジョニー・ターナー。彼が遺したロンドンの写真を紹介する。
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
19.2.20
The Dizzying Final Photos Taken by a Free Runner Who Fell to His Death
All photos by Johnny Turner. 

ジョニー・ターナーは才能のあるフリーランナー/写真家だった。彼が跳び、着地し、細いレールや壁の上で音も立てず優雅にバランスを取るとき、そこには特別な〈タッチ〉があった。また、彼は鉄道の線路や廃墟から、高層ビル、住宅団地まで、あらゆるロンドンの建築物を愛し、取り憑かれたようにその写真を撮っていた。ジョニーはフリーランニングへの情熱と建築への情熱を混ぜ合わせ、ほとんどのひとが見たことのない隠れたロンドンへと足を運ぶ、都市探検(urban exploration)へと結実した。

「ジョニーは、自転車に乗っているだけで自然とパルクールができてしまうようなタイプの男の子でした。幼い頃からこういう景色に触れていましたね」とジョニーの友人、ウィルは語る。「ジョニーはロンドン南部のバラムで育ったから、よくストックウェルとかブリクストン、クラッパムあたりで遊んでました。だから、そういう建築物に惹かれるようになったんだと思います」

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2019年9月、ジョニーはウォータールーの集合住宅の壁を登っているときに転落し、死亡した。23歳だった。

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All photos by Johnny Turner.

都市探検とは〈アーベックス(urbex)〉とも呼ばれ、街なかにある未踏のビルに入り込んだり、登ったりするアクティビティだ。目的地は集合住宅のてっぺんや廃墟となったビル。2012年にザ・シャード(※ロンドンの超高層ビル)の登頂に成功したブラッドリー・L・ギャレットなどをきっかけに、一般的に夜中こっそり行うアクティビティであった都市探検が、世間から注目を集めるようになった。〈探検家〉の多くは、自らが目にした風景を写真に収め、SNSに投稿している。ロンドンを拠点とする都市探検家、ハリー・ギャラガー( @night.scape)はInstagramで24万人のフォロワーを抱える人気インスタグラマーで、ビルの側面やトンネルの中など、様々な景色の写真を公開している。また、YouTubeにアーベックス動画を投稿し、300万人以上のチャンネル登録者を抱えているアリー・ローは、人気番組『Celebrity Big Brother』のセットとなっていた家に侵入した。都市探検がメインストリームのアクティビティとして脚光を浴びたきっかけとしては、人気YouTubeチャンネル〈 On The Roofs〉を運営するヴァディム・マコロフとヴィタリー・ラスカロフによる動画が世界中でバズったことも挙げられる。〈#urbex〉というハッシュタグが付けられたInstagramの投稿は、今や760万件にも及ぶ。

あらゆるエクストリームスポーツ同様、都市探検にもリスクがつきものだ。登る建物によっては、床面の安全性は確保されておらず、崩壊する場合すらある。また、悪天候だと足場が濡れて、滑ることもある。廃墟となったビル内には、いろんなものに足を取られる危険があるが、暗い場所だと見えない。また、許可なく建物内に入れば住居侵入罪にあたり、法律で罰せられる可能性もある。

ジョニーの友人、ローマンによれば、ジョニーは都市探検にかかわるリスクについて熟知していたし、仲間たちからも尊敬されていたそうだ。「(都市探検を)する場合、絶対に危険だというわけじゃない。何をしようと、ある程度のリスクは想定できるから」とローマン。「自分がまだ準備できていないと思うリスクは、冒す必要がない」

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ロンドン南西部、ストックウェルの集合住宅2棟。ジョニーが育った地域に近い。

ジョニーは、誰も見たことがない目線から撮ったロンドンの写真を数多く遺した。たとえばジョニーの育った場所から近い、ストックウェルの集合住宅2棟の写真や、ロンドンの公営住宅ゴールデン・レーンのてっぺんから撮られた写真もある(彼はその場所を、建物の頂上にある「小屋」と呼んでいた)。さらに、パルクールの人気練習スポットであるキャンバーウェルのウィンダム&コンバー・エステートも撮影している(ジョニーの好きなゴールディーの「Inner City Life」のMVでもこの場所がフィーチャーされている)。

「ジョニーは、集合住宅の気骨みたいなものに美しさを感じていた」とウィルは語る。

ジョニーのゴールは、それらの建物が無くなってしまう前に記録しておくことだった。ロンドン議会が発表した報告書によると、2004年から2014年のあいだに完成した再開発プロジェクトの結果、公営住宅は減り、民間住宅が急増。リストに掲載されなかった公営住宅や集合建築の多くが取り壊された。1200戸以上の世帯からなるロンドン南部の有名な公営住宅、ヘイゲート・エステートも、エレファント&キャッスル地区の再開発計画の一環として2011年から2014年のあいだに取り壊された。

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ジョニーが「小屋」と呼ぶ、ゴールデン・レーン・エステートのてっぺん

「ジョニーは、高いところから世界を眺めることが好きだった」とローマンは語る。「休みなしで毎日とはいかないまでも、週6日、1日23時間は(都市探検に)出ていましたね」

ローマンの携帯には、ジョニーから午前2時に電話がかかってくることもザラだったという。電話をとると、イーストロンドンを自転車で周り「新しいスポットの視察」をして興奮したジョニーの声が聞こえてきたそうだ。しかし時に、ジョニーについていくのがしんどいこともあった。「ジョニーは地域のキングだったから」とローマンは回想する。ジョニーの友人たちは、いつかジョニーの写真を集めた個展を開きたいと考えている。

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ジョニーはリスクをもろともせず、都市探検に熱中した。どうしてひとは、危険でありながら刺激的な場所からロンドンを眺めたいと思うのだろう?「それぞれにそれぞれの理由があると思いますが、最大の理由は、単純にその景色はとてつもなく美しいし、とてつもなく圧倒的だから。誰もが納得するような力強さがあります」と語るのは、リヴァプール大学の建築史学者で、『Raw Concrete: The Beauty of Brutalism』の著者、バーナバス・カルダーだ。

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カルダーは、ロンドンの公営住宅は社会史的な視点からみても興味深いという。「(目的は)一般のひとびとの住居を改善し、最低限の住居を、技術的なパフォーマンスやひとびとが暮らせる住居の数という意味において、最高のクオリティへと向上することでした」

ローマンにとって、アーベックスの目的は美しい写真や建築物そのものの意義に留まらない。「景色や風景を求めるだけじゃない。これは使命であり、冒険なんです」

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ジョニーの友人ペドロは、ジョニーの都市探検への愛をこう言い表した。

「他のひとがどう思おうが、ジョニーにとって、それは屋根に登ったり、危険を冒すだけのことじゃないんだ」。「そんなのは全然言い得てない。ジョニーの情熱は、常に変化する街の姿を記録することにあるんだから」

This article originally appeared on VICE UK.