“見捨てられた”アフガニスタン人 タリバンからの命がけの逃走

密入出国斡旋業者に命を委ね、国外脱出を試みる最中、銃撃に遭った元英軍通訳に話を聞いた。
Taliban members stand guard at a checkpoint around Hamid Karzai International Airport​.
ハーミド・カルザイ(カブール)国際空港付近の検問所で見張りに立つタリバン戦闘員。PHOTO: HAROON SABAWOON/ANADOLU AGENCY VIA GETTY IMAGES

アブドゥラはそのとき、完全にパニックに陥った。ようやくアフガニスタンから脱出できたかと思った瞬間、国境警備隊が彼とその家族をはじめ、密入出国斡旋業者に導かれて国を出ようとしていた難民に向かって発砲したのだ。

「なんとかして国境を越えようとしていました」と彼は語る。「他に道はありませんでした。子どもたちを守らなければ」

彼の身の安全を守るため、この場所の詳細を明かすことはできない。アブドゥラという名前も仮名だ。現在31歳の彼は、2009年から2014年までヘルマンド州で英軍の通訳を務めていたが、上官が彼の部屋でハシシ(※大麻樹脂)を発見したと主張し、職を失った。アブドゥラはこれを否定している。

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彼は4年間にわたって英国への亡命を申請してきたが、解雇によって英国のアフガン第三国定住・援助政策(Afghan Relocation and Assistance Policy: ARAP)の資格を失った。

今年5月、タリバンは9月に計画されていた外国軍の完全撤退を前に、アフガニスタン農村部へと進攻。8月には、全ての州の制圧に向けて動き始めた。クンドゥズ州北部にあるアブドゥラの自宅が破壊されたのも、ちょうどその頃だ。

アブドゥラは妻と4人の子どもを連れてカブールに向かい、英国大使館の担当者に亡命申請のメールを送り続けた。

8月14日、タリバンがカブールの門に到達したとき、アブドゥラはようやく英国への亡命を認められる。彼は不安に苛まれながら、カブール空港から定期的に発つ退避便の搭乗券を待ち続けた。

しかし、最後の英国の退避便がアフガニスタンを発ってから2週間が過ぎても、搭乗券は送られてこなかった。

「家族と一緒に国境を越えるため、斡旋業者にお金を払いました」とアブドゥラは語る。「あまりにも危険すぎて、カブールに留まることはできませんでした。タリバンは僕の親戚にFacebookでメッセージを送り、『彼はどこだ?』と訪ねたそうです。何かしなければ、家族が殺されてしまう」

アブドゥラが報復を恐れたのも無理はない。彼は搭乗券を持たないままカブール空港の英国兵に接触を試みたが、妻とともにタリバン戦闘員に殴られ、パスポートを奪われたという。

英国のボリス・ジョンソン首相は、この20年間、英国のために働いてきた1万5000人近くのアフガン人とその家族を安全に避難させたとして、英軍の「多大な努力」を讃えたが、避難できなかったアフガン人は少なくとも1000人にのぼる。

最後の退避便が発つ前、英国のベン・ウォレス国防大臣は、亡命資格を持つアフガン人に国境へ向かうよう呼びかけ、アブドゥラのような人びとを援助するために、危機対応専門家のチームがウズベキスタン、タジキスタン、パキスタンに派遣されたと報道された。しかし、明確で安全な脱出ルートはなく、亡命申請者は密入出国斡旋業者のような危険な手段を選ばざるをえなかった。

「僕たちは国境を越えようとしていて……(中略)そのとき国境警備隊に見つかりました」とアブドゥラは回想する。「彼らは何か叫んでいましたが、よくわからなかったのでそのまま進み続けました。そしたら発砲を始めたんです」

斡旋業者のひとりが腕を撃たれた。アブドゥラと家族は無傷で逃げ、アフガニスタンへと戻った。「幸運にも国境を越えられた家族も多くいました。でも、彼らは大勢のアフガン人が押し寄せてきたことに気づき、すべての国境を封鎖したんです」と彼は涙ながらに語る。

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「彼らは信用できません。きっと僕たちは殺される。たくさんの通訳者が殺される」とアブドゥラは訴える。「家族を助けなければ。きっと家族も殺される」

アブドゥラは、亡命申請許可の遅れこそが、命がけで家族とともに陸路での国境越えを決意した理由だという。

「もし退避便に乗れていたら、今ここにはいません」とアブドゥラ。「何度もメールを送り、電話もしたのに、一度も返事はありませんでした」

国防省の広報担当者はVICE World Newsに、個人のケースについてはコメントできないと語ったが、最近、ARAPのプログラムの対象者を「重大な違反行為や犯罪などが理由ではない退職者や被解雇者」まで広げたと明言した。

 英国外務・英連邦・開発省は9月初め、難民支援のためにアフガニスタン近隣諸国への資金援助を実施すると発表した。「アフガニスタンにはもう英国人の残留者はいませんが、英国は今もARAPプログラム資格対象者の支援に尽力し続けています」と英国外務・英連邦・開発省は述べた。

「第三国から承認を得た人びとの支援も、できるだけ早く行う予定です。私たちを支えてくれた人びとを支えるためにあらゆる手を尽くし、これからも再定住の資格保持者のために尽力し続けます」

それでも、アブドゥラの立場は不安定なままだ。先に進むことも、後戻りすることもできない。彼が今いる場所からカブールまでには複数の検問所があり、彼が正しければ、首都にいる過激派は彼の動向も正体も把握しているという。

今のところ、第三国への脱出が、アブドゥラ一家のような人びとがアフガニスタンから逃れる唯一の方法だ。彼は別の国境からの脱出も考慮に入れているが、そのためには150キロ以上移動しなければならず、どのルートにもそれぞれ異なるリスクが伴う。

しかし、他に選択肢はないという。

「もし自分の身に何かあったら、子どもたちがどんな目に遭うかわからない。子どもたちを救わなければ」