イギリスで最も小さな町、セント・デイビッズの日常

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イギリスで最も小さな町、セント・デイビッズの日常

ウェールズの最西端にあるイギリスで最も小さな街、セント・デイビッズ(St. David’s)。まるで、デヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』を想起させるが、殺人などの事件とは無縁。とても美しく、温和な日常を、この町出身の写真家、アレックス・イングラムが写し出す。

セント・デイビッズ(St. David’s)とはウェールズの最西端にある小さなコミュニティーである。人口わずか1891人、イギリスのなかでもで圧倒的に小さい町だ。セント・ジョージ海峡に面した美しい土地だが、都市部からはかなり距離があり、夜遊びとは縁遠く、クリエイティブな人々からは人気がない場所である。とても興味をそそられる土地でありながら、これまで、あまり取り上げられなかったのは、少し残念な話である。

もちろん、〈つい最近までは〉である。アレックス・イングラム(Alex Ingram)は昨年、『デイビッズ・ハウス(David's House)』シリーズのために多くの時間をセント・デイビッズで過ごし、大都市から遠く離れた場所で生きる選択をした面々を撮影した。

イングラム氏はセント・デイビッズで育ったので、彼にとっては、かなり特別な、ゆかりの深い場所だ。彼の言葉を借りれば、「セント・デイビッズには民間伝承、伝統、歴史、地球外生命体の目撃談がたくさんある」という。いずれも興味深いテーマだが、イングラム氏の作品は、はるかに静的で、より地域的な事象を対象としている。

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われわれは彼を形成したこの町について、そして、どのように恩返しをしようとしたか、本人から話を聞いた。

非常に素朴な質問から始めます。なぜイギリスで最も小さい町を撮影の舞台に選んだのですか?

セント・デイビッズは私が育った街です。したがって、今回の作品は、この場所についての考察であると同時に、自分自身や故郷を、どれほど理解しているかを確認するプロジェクトでもありました。すべては近所に住む知人のダイから始めました。彼はこれまでの人生すべてを、自分が生まれた農場から3マイル(約5キロ)以内で過ごし、そこから出た経験がありません。セント・デイビッズには、彼の人生に必要なものすべてが存在していたんでしょう。私の場合は、求めるものが、ここにある気がしませんでした。もっと若かった頃は、美しい海岸線、海、生活様式、親しみやすい人々、すべてが何の変哲もない退屈に思えたんです。この4年間、大学で勉強しながら大都市で生活し、私の故郷から切り離されたかのような感覚を抱きました。

セント・デイビッズの人口は、私の高校の全生徒と、ほぼ同じです。社会的生態系も高校と似ていますか?

みんながみんなを知っているような、ちょっと変わった小さな土地ですから、とても安心感があります。それと同時に、このような小さな土地では、得てしてそうでしょうが、住民全員が何をしているのか把握しているので、噂話は山火事のように、あっという間に広まります。正直に言って、生活が単調で、みんな退屈しています。確かにセント・デイビッズにも様々なコミュニティーがありますが、互いに張り合ったりはしないでしょう。現在のイギリスでは人種、性別、貧富、社会的背景などで、大きく分断されている感じがしますが、セント・デイビッズでは、ほとんど問題にはなっていないはずです。みんなが住民に対して思いやりを持っています。

多様性と寛容といえば、イギリスのEU離脱問題において、地方の有権者が注目されているようです。彼らは、国から見過ごされている、つまり、不当に扱われている、と感じているとの見方が一般的です。セント・デイビッズの人々はどうですか?

EU離脱は、現代において、わが国を襲った最も大きな問題でしょう。同意しようが反対しようが、残念ながら離脱は避けられないはずです。EUから巨額の補助金を受け取っていながら、ウェールズの田舎町の大勢は、EU離脱に賛成票を投じました。人々はすぐに十把一絡げに、田舎のコミュニティーは人種差別的だ、というレッテルを貼りますが、私はそう思いません。EU離脱の賛否を問う国民投票が行われた頃、私は実際にセント・デイビッズにいて、このプロジェクトのために撮影をしていました。離脱に投票した人たちとも話をしましたし、残留に投票した人たちとも話をしました。どちらに投票した人であれ、彼らは自分の家族、友人、未来の世代にとって、正しいと信じられるほうに票を投じたんです。

セント・デイビッズに戻り、撮影していた時の話をもっと聞かせてください。

昨年の今頃から撮影を始めました。まずは、近所に住むダイからです。しばらくすると、多くの人が、写真を撮って欲しい、と声を掛けてきました。このような体験はフォトグラファーにとって、とても稀な出来事です。

私の両親は、まだ、セント・デイビッズに住んでいるので、実家が、このプロジェクトの拠点になりました。夕食の席で、今日は誰と会ったか、どんな話を聞いたか、両親に報告していました。「そうだ、草原のむこうに住んでいるパーキンスさんと話をしてきなさい」と両親からアドバイスされると、翌日、車に飛び乗り、訪ねて挨拶をしました。非常に有機的な撮影過程を経て、このプロジェクトは広がったんです。

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私は、この若い男性の写真がとても好きです(以下参照)。彼は、田舎者の雰囲気が全くありません。これは、インターネットの影響でしょうか?また、セント・デイビッズで青春時代を過ごすのは、孤独なんでしょうか?

セント・デイビッズで思春期を過ごしても、決して孤独ではありません! 同じ年齢の仲間と、とても親密な友情を築けます。僕の中学校には、生徒が500人もいませんでした。実家のまわりには、同じ年齢の子どもが25人しかいなかったので、とても親しい関係のまま齢を重ねるんです。サーフィンをしたり、崖から海に飛び込んだり、森の中や川で時間をつぶす以外、あまり遊べる場所もありませんでしたから。同じ小さなグループと、一年中、毎日一緒に過ごすので、とても強い絆が生まれます。

先ほど話題になった写真ですが、彼は学校の旧友のリースです。彼の母親とおじさん、ふたりもこのプロジェクトで撮影させてもらいました。彼らは皆、生まれてからずっとセント・デイビッズに住んでおり、他の土地で暮らしたいなんて思ってもいません。将来はわかりませんが、私も人生のある時点で戻ってくるかもしれません。

Text By Isabelle Hellyer(イザベル・ヘルヤー)