2015年、私は『Generation Z: Their Voices, Their Lives』という書籍を上梓した。英国各地でZ世代の若者数千人にインタビューをして完成させた本書では、人種差別、セックス、犯罪、ジェンダーやセクシュアリティの悩み、死、障害や不平等など、多岐にわたるテーマを扱えて、筆者として満足している。限られた文字数に収めることができずに削った証言や、似たような内容だったため、または法に触れる可能性があるために割愛したものもあるが、ひとつだけ、まったく別の理由で本書には掲載しなかったテーマがある。この調査を始めて早々に、私はグレースと出会った。彼女が私に話してくれたのは、メンタルヘルスの悩み、摂食障害について、両親(子どもを育てる権利を与えるべきではないタイプのひとびと)について、そして無能で愛情も注いでくれない保護者たちについて。それらが当時17歳の彼女に与えた付帯的なダメージは甚大だった。深刻な不安障害、強迫性障害、さらに拒食症と過食症も併発し、食べ過ぎで病院に搬送されたことが3度ある。十代初めには何度か自殺未遂をし、無茶なアルコール/ドラッグ摂取やセックスに走ることもあった。
各国で見解は異なるものの、基本的に今の社会はインセストを忌むべきものとしてみているし、それは当然だろう。しかしポップカルチャーでは、インセストが扱われている作品がかなり多い。しかもそれらはニッチな作品ではなく、多くのひとびとが消費し、愛している作品だ。たとえば『ゲーム・オブ・スローンズ』で登場するジェイミーとサーセイという愛し合うきょうだいには、視聴者もかなり盛り上がっていた。SNSにはふたりのプラトニックではない関係に喜んでしまう私たちの気まずさを捉えたミームが溢れていた。また同作では、デナーリス・ターガリエンとジョン・スノウという、叔母と甥のふたりの濃厚なセックスシーンも挟まれている。最終シリーズにおけるみんなの共通見解といえば(このシリーズを好きなひとはいないという事実以外だと)、血縁関係にあるふたりが性交したことが判明しても誰も興味がない、ということだろう。インセストが描かれるのは同シリーズだけではない。小説『屋根裏部屋の花たち』(2014年にはキーナン・シプカ主演で映画化もされた)がベッドの下にヤバい何かを隠すという思春期の女子たち(と男子たち)の通過儀礼の品として長らく選ばれてきたのは、クリスとキャシーという兄妹の、不道徳でドロドロした関係のせいであることは間違いない。そのほかにも『スター・ウォーズ』や映画『クルーエル・インテンションズ』、ドラマ『デクスター 〜警察官は殺人鬼』『ブル~ス一家は大暴走!』などでも、インセストを直接的に描写、あるいは暗示している。しかし、インセストが多くみられるジャンルといえばポルノだろう。〈近親相姦モノ〉は、ポルノのなかでも特に増加の一途を辿っており、人気も高い。ポルノ業界は、本来違法である近親姦を〈義理の兄とのセックス〉〈イタズラ好きの義理の妹におしおき〉などのタイトルを付けてタブー感を拭おうとしているが、視聴者は法的、道徳的な免責があるからではなく、タブー感が強く、禁忌に踏み込むような内容だからこそこれらのコンテンツを観ているはずだ。ポルノは現実世界の行動を正確に映す鏡ではないが、人間の性的な欲望、ファンタジーを反映しているのは確かだ。もしフロイトが今の世に生きていたら、おそらくPornhubをはじめとするポルノサイトの統計を精査することだろう。とにかくインセストは、いくら当事者が同意はあったとはいえど、恐ろしい結末が待っている可能性、大きなダメージを与える可能性がある。それを踏まえると、この先インセストが〈普通のこと〉として社会に受け入れられるとも、人間がその関係性に不快感を覚えることがなくなるとも思えない。社会からのこのような評価は、グレースのようなひとびとの〈社会から逸脱している〉という感覚を強めるが、だからといってグレースの恋人/兄弟への想いは変わらない。グレースとアダムは友人や他人との付き合いも控え、誰かの関心を引かないようにしているという。ふたりの関係が発覚して、排斥されることを恐れているからだ。しかしそれは、このようなインモラルなタブーを犯した代償なのだろう。オックスフォード大学で心理学を教える教授(※匿名希望)は、「不快感を抱かせたり、インモラルだと思うセクシュアリティ(例えばインセストや違法な性的嗜好)に対して、潔癖な倫理観を持ち出して反応することの問題点は、それらを客観的にみられなくなってしまうということです。私たちはそれらの存在を認め、対処法を考えたり、より良い理解に努めるのではなく、彼らを社会ののけ者扱いし、中世の暗黒時代のように、文字通りの、あるいはメタファーとしての〈熊手〉をもって排除するんです。血のつながった近親者と性行為をするひとびとはいる。そしてそこには、単純に片付けられない、あるいは私たちがうろたえずにはいられないような内情がある場合もあるのです」※本記事では仮名を使用しています。@WriteClubUK / lilylambiekiernan.comThis article originally appeared on VICE UK.