An illustration of a young woman talking about a globe on fire to her parents.
Illustration by Cathryn Virginia

ミレニアル世代が親の環境意識を変える 私たちがとるべき6つの行動

スウェーデンの少女、グレタ・トゥーンベリによる学校ストライキなど、近年世界的な広がりをみせる温暖化への抗議運動。いっぽうで、彼らと親世代との意識の差も指摘されている。私たちの親に危機感を持たせ、実際に行動を起こしてもらうにはどうするべきか、アクティビストや心理学者に話を聞いた。
Cathryn Virginia
illustrated by Cathryn Virginia
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translated by Nozomi Otaki

今年のイースターの日曜日、ロバート・ポスネット(Robert Possnett)は、ロンドンで〈エクスティンクション・レベリオン(Extinction Rebellion:非暴力的手段で気候変動を訴える英国市民による抗議運動)〉のデモ中に逮捕された。3人の息子をもつ59歳の父親が抗議デモ中に逮捕されるのは、これが初めてではない。そして、おそらく最後でもないだろう。警察沙汰を起こせば前科がつき、米国にも渡航できなくなるが、活動に全力を注ぐ彼は、特に気にする様子もない。彼は10月に公判を控えていて、刑務所行きになる可能性が高いという。

「他にどんな人生の目標を持てばいいんだ?」とポスネットは訴える。「私たちにとって、これは史上最大の闘いだ。第二次世界大戦よりもずっと大きい。できるだけ大きな声を上げて騒ぐことくらいしか、私にできることはないんだ」

彼の世代、すなわち私たちの親世代で、服役を覚悟してまで気候変動の危機を訴えようとするひとは、ほとんどいない。米国では、地球温暖化への意識に、若者と年配者のあいだで大きな差がある。若者の関心は高く、18〜34歳の70%が「気候変動を心配している」と答えたが、同じ回答をした55歳以上は56%に留まった。もし若者たちが全世界のひとびとに行動を起こしてほしいと願うなら、政治権力の大部分を保持する年配者を説得し、しかるべき対応を促すことが、大きな課題となる。

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出版業界で働く29歳の気候変動アクティビスト、ナイェリ・ヒメネス(Nayeli Jimenez)は今年7月、こんなツイートを投稿した。「どうしたら母の〈会うひと全員にプラスチックストローの使用を控えるように伝える〉活動を、〈化石燃料業界の権力を支えるシステムを破壊しよう〉に変えられるんだろう。母はとても熱心だし、私も誇らしいけど、私が訊きたいのは、どうすれば親をもっと急進的にできるのか、ということ」

ヒメネスがツイートしたきっかけは、彼女の母親が出席した結婚式で、飲み物のグラスに最初からプラスチックストローを入れるのはやめてほしい、とケータリング業者に頼んだことだった。「母からこんな話はめったに聞かないので、純粋に誇らしかった」とヒメネスはインタビューで語った。「でも同時に、私たちはいまだに〈自分にできるのは個人的な活動だけ〉という思いに囚われてる」

このツイートは、瞬く間に大きな反響を呼んだ。彼女と同じように感じるひとは大勢いるのだ。気候変動対策を求める闘いで、両親が危機感を声高に訴えるようにするには、どうすればいいのだろう(ちなみに、ヒメネスが気に入っている親へのひと言は「システムが変わるまで孫は産まない」だそう)。

また、社会・行動心理学者たちも、過去10年に渡ってひとびとの環境意識を高める戦略に取り組んできた。彼らの研究結果によると、両親があからさまな気候変動否定派でも、あと一歩のところで踏み止まっているだけでも、彼らの行動を促す方法はあるという。彼らを説得して気候変動への危機感を高めるにはどうするべきか、以下6つの方法を紹介する。

親子ならではの関係を活かす

今年5月、科学誌『Nature Climate Change』に掲載された論文で、ノースカロライナ州立大学博士課程のダニエル・ローソン(Danielle Lawson)率いる研究チームは、中学生に気候変動についての授業を実施すると両親の考えかたにも影響する可能性がある、と発表した。特に影響が顕著だったのは保守的な父親たちだった。保守的な白人男性は気候変動への関心レベルがもっとも低かったという調査結果を踏まえると、この研究は非常に重要だ。

ローソンはこれを「世代間の学習」、または「子から親への行動と知識の転移」と呼んでいる。彼女によると、このような結果が得られた理由のひとつは、イデオロギーや政治的アイデンティティが気候変動の危機と切り離せなくなっているからだという。子どもたちが親に地球温暖化について話したさいは、他の大人が同じこと話すときのように押し付けがましくはならなかった。

「たいていの親は子どもと話すさい、子どもの言葉の裏を深読みしたりはしません」とローソンは説明する。「それが絶好のチャンスを生み出し、日常的な悩みを打ち明けるように、対話を始めることができるんです」

レクチャーではなく質問を

家族というアドバンテージを、ひたすら事実を並べ立てる攻撃だけに利用してはいけない。親がためらっているならなおさらだ。ローソンはもっと自然なかたちの対話を勧めている。前述の研究で、彼女たちは子どもたちに〈気候変動〉という言葉を一切使わずに両親にインタビューするよう指示した。かわりに、子どもたちは次のように問いかけた。「この10年で、今住んでいる場所の天候に変化はあった?」「海面上昇を目のあたりにしたり、体感したことはある?」「私たちの地域への影響についてどう思う?」

両親の関心が思った以上に高いことに気づく場合もある、と指摘するのはペンシルベニア州立大学の社会心理学者、ジャネット・スウィム(Janet Swim)教授だ。私たちは、重要な問題について話し合わない限り、自分以外は誰もその問題を気にかけていない、と思い込んでしまう。だからこそ、まず対話を始めることが大切なのだ。

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「あなたは自分はひとりぼっちだ、とか、気にしてるひとはほとんどいないと思ってるかもしれません」と教授はいう。「でも、一旦話し始めれば、同じ意見を持つひとは大勢いることに気づくでしょう。こういう対話が、行動を起こすための土台になるんです」

親がためらっている理由を明らかにする

2011年、学術誌『American Psychologist』に掲載された記事で、ヴィクトリア大学の心理学教授ロバート・ギフォード(Robert Gifford)は、ひとびとの気候変動への反応を妨げる心理的障壁の7分野を説明した。これらのカテゴリーのなかで、彼は〈行動抑制のドラゴン〉と称する29のメンタルブロック(何か行動を起こそうとするときに頭に浮かぶ否定的な思い込みや固定観念)を挙げている。

米国のNPO〈American Council for an Energy-Efficient Economy〉の社会・環境心理学者、ルーベン・サスマン(Reuven Sussman)は、自分がどのドラゴンに当てはまるのかを把握するのが重要だ、と述べている。「最大の難関は〈聴き手を理解すること〉でしょう」

例えば、もっとも多いドラゴンのひとつが、私たちの脳は今ここにある明らかな危険に反応するようにできていて、抽象的で遠く離れた脅威には対応しづらい、ということだ。もしあなたの親もそうなら、危機感を抱かせるような映画やドキュメンタリーを観れば彼らの反応が変わるかもしれない、とサスマンは述べた。「その作品の主役の立場になって考えてみるといいでしょう」

上記の方法は、親のドラゴンが〈知識がないこと〉なら効果的かもしれないが、彼らが経済的なリスクを案じたり、現状維持を望む〈システム正当化理論〉に囚われている場合は無意味だ。後者の場合、地球温暖化が環境に与える影響についてはあまり触れず、社会的、経済的な影響に焦点を当てたほうが、彼らに響きやすい。親のためらいの原因さえ特定できれば、自分なりのアプローチを工夫することができる。

行動心理学のトリックを活用する

社会心理学には〈特異性信用理論〉と呼ばれる概念がある。ある集団に属している場合、あなたがその集団の規範を守ることで信用を獲得すれば、その信用と引き換えに新たなアイデアや変化を提案することができる。つまり、あなたが譲歩したり、好ましい振る舞いを見せれば、家庭での立場が向上し、彼らの考えを変えられる可能性が高くなる。

そこで有効なのが〈戦略的立案〉、すなわち議論のテーマを個人の信念に関連づけることだ。最近の研究では、福音派のひとびとに「〈神の創造物〉を守るため」と伝えると、彼らの気候変動への関心が高まることがわかった。宗教以外のアプローチとしては、セレブを通してメッセージを伝える方法もある。両親が最も関心のあるものを探り、それが気候変動とどう関わっているかを説明しよう。

親たちには、ヒメネスの母親のように再利用できるストローの使用を薦めるなど、まず小さなことから始めてもらうのが大切だ。習慣を変えるのは難しく、慣れ親しんだライフスタイルを断ち切るのを嫌がるひともいる。〈習慣不連続説〉によると、変えにくいものを変えるのに適したタイミングは、生活に他の変化が起こるときだ、とサスマンは説明する。例えば引っ越し、退職、再婚、家族の死などだ。このとき、私たちの習慣は一時的に不安定になる。もし可能なら、このような機会を狙ってより大きな変化を起こすべきだ。

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上記のアプローチがどれも効かなければ、例えば「健康にも良いし、車よりも速いから、職場まで自転車で行ったらどうか」と提案するなど、他の理由で親を説得することもできる、とサスマンはいう。「聴き手によっては、健康、快適さ、お金のほうが環境問題よりも重要なテーマになります」

具体的な方法を教える

私たちは何かひとつ良いことをすれば、その後は何をしても許されるような気分になってしまう(例えば筋トレをした後にジャンクフードをしこたま食べる、など)。この〈モラルライセンス〉という状態こそが、リサイクルや個人的にささやかな取り組みをしているひとが、より大きな問題に注目しなくなる理由だ。

しかし、親に今の取り組みだけでは不充分だと伝えたとして、次のステップを教えなければ、彼らはやる気を失ってしまうかもしれない。ひとは、自分が何をすべきかを理解すれば、自らの行動を改める傾向がある。もし彼らが自らの行動を誇らしく思えば、取り組みを続けるモチベーションもアップする。

この次のステップは、親のスタート地点によって異なる。それは温暖化対策を重視する候補者への投票かもしれないし、浪費癖の見直し、食習慣の改善、近場での休暇、環境問題の取り組みへの寄付、または抗議デモに誘ってみても良いかもしれない。

大切なのは、あなた自身も同じように行動することだ。ローソンの研究でも、手本をみせるのは効果的な戦略だったという。「ある子の親はこんなふうに話してくれました。『子どもが部屋の電気をこまめに消したりしてるから、私も真似して始めてみた』って」と彼女はいう。「他にも、子どもたちが地元の議員に手紙を書いたので、自分も議員たちと話すようにしたという親もいました」

アプローチはたくさんあることを知っておく

同時に複数の行動を少しずつ変えると、彼らの価値観や態度も変わるかもしれない。最初は否定的な反応をみせたとしても、親たちは自分のなかで言われたことを反芻し、最終的には何かが変わる可能性もある。「あなたが求めた最大の変化はなくても、ちょっとした変化は起こるかもしれません」とサスマン。「今すぐに変わってほしい、というひとにとってはすごく苛だたしいでしょう。でも、もっと広い視野で捉えてみてください。長い目で見れば、小さな成功はたくさんあったのでは?」

最終的に、すべての親が街で逮捕されるまでにはならないとしても、今の生活を大きく変えることなく活動をサポートする方法があることを忘れないでほしい。冒頭で触れた英国のアクティビスト、ポスネットは、刑務所に行くような覚悟はなくても、暇なときはいつでも手を貸してくれる同年代の友人が大勢いる、と打ち明けた。「彼らは寡黙な支援者なんだ」とポスネット。「ロンドンの封鎖された道路に座りこんだりはしないが、それでも支援者であることに変わりはない」

ヒメネスも彼に同意する。親たちは、より思い切った行動をとる若者主導の活動を支援するべきだ、と彼女は考えている。たいていの場合、このような若者たちには、彼らが相手取って闘っている企業ほどの資金はない。「私たちの親世代は、みんなお金を持っています」とヒメネス。「苦労してる若者たちの活動に寄付するくらい、何でもないでしょう」

大切なのは、親たちに、子孫に残すもののために行動しようと呼びかけ、子どもや孫たちの記憶に残ることをしているのだ、と伝えること。そして、あなたがどんなに誇りに思うか、どんな変化が生まれるのかを知らせることだ。

「私が育てたのは若くてとてもパワフルな女性で、私も彼女から、全力を尽くすことを期待されてる」とエクスティンクション・レベリオンの抗議デモの参加者、48歳のヘザー・ルナ(Heather Luna)は語る。「だから、私は全力で彼らのリーダーシップを支えてる。今までの人生で、こんなに誰かの役に立ってると実感できたのは、これが初めて」

This article originally appeared on VICE US.