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BURGER KING〈ヘルシンキ・サウナ店〉

日本とタメを張るサウナ大国、フィンランド。首都ヘルシンキには、なんと、サウナを併設するバーガーキングがある。いくらサウナ大国とはいえ、常軌を逸した高温の中でワッパーを頬張るとは、いささか行き過ぎではなかろうか。しかし、いざバーガーキング・サウナを体験してみると、味とは関係ないにせよ、おもわぬ満足感に満たされる。

私は、大量の汗で、メークが顔の両側からゆっくり流れ落ちてしまうのも気にせず、裸で座っている。タオルで顔を拭うと、落ちたマスカラがタオルのロゴにべっとりと付いた。そして、バスルームのひんやりした石の壁にもたれながら、感動に浸るのである。「今までいったバーキンの中で最高の店だ」

テレビのレポートならここで撮影を止めて、次のショットではバーガーキングのバスタオルに身を包み、「こんにちは。どうして私がこんな状況になったのか、不思議に思ってらっしゃるかもしれませんね」なんて、カメラに向かって喋るのだろう。どうしてこうなったか。私は、ヘルシンキの、木材と石材でアクセントをつけた上品なダイニングエリアの下に、フルサウナが完備されているバーガーキングにいるからだ。この店は、ただ普通に食べていても汗がしたたり落ちる夏になる前、昨年の春にオープンした。まさしく世界で唯一のファーストフード・サウナである。

「なぜこんな店ができたのか?」という問いに対する答えは簡単。フィンランドだからだ。おそらくそれが最も的確な答えだ。「フィンランドでは、サウナは私たちの生活のいち部です」とバーガーキングの従業員イブ・トゥルネン(Eve Turunen)は、店内を案内しながら説明してくれた。「この国では、友達や家族とともにサウナに入ります。クリスマス・サウナ、サマー・サウナ、いつでもどこでもサウナがあります」

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彼女は正しい。人口550万人のフィンランドには、国中に推計2百万ものサウナが散らばっている。フィンランド人がサウナを発明した、という説が本当か否かは議論の余地があるが、禁欲重視、アカの他人と目を合わせない、という国民性と同じく、サウナはこの国のアイデンティティを形成する重要な要素だ。フィンランド国民のほとんどは、少なくとも週1でサウナに入り、そのあとは1年中冷たいバルト海に飛び込む。街の中心にあるバーガーキングのように、バルト海から離れたところで、汗まみれになってバーガーを食べたあとは、家の冷たいシャワーで我慢しなければならない。

バルト海は遠いものの、ここにはサウナがある。シャワーがある。もちろんバーガーもある。私は、龍のケツの穴にでも入り込んだような気持ちになりながら、ワッパー、フレンチフライ、コーク、ミルクシェイクを平らげた。サウナのうだるような熱さを楽しめたらよかったのだが、おもいの外、たいへんだった。むき出しの腿にケチャップの塊を落としながら、ワッパーを頬張った。数日前に入った公共のサウナには、〈フルサウナの後は、生まれ変わったような気持ちになります〉とポスターが貼ってあったが、ワッパーを半分ほど食べた時点で、少なくとも二度、確実に心臓が止まったような気分になった。

トゥルネンの話によると、バーガーキングサウナは、ホスピタリティ系企業〈レステル(Restel)〉のCEOであるミカエル・バックマン(Mikael Backman)の発案だという。レステルは、バーガーキングを含め、フィンランド中に数百の店舗を展開するレストラン・チェーンを運営している。「前のテナントの頃から、サウナが下のフロアにあったのです。フィンランド特有の間取りです。そこでCEOは、『やってみる価値がある』と考えたようです」とトゥルネンは語る。

「オープン以来、主にフィンランド人と日本人にすごい人気です。フィンランドのホッケーチームが世界ジュニア選手権で金メダルを獲ったあとも、ここでパーティをしました。汗だくの大男でいっぱいでしたよ」。彼女は、サウナのプライベート・ダイニングエリアのテーブルの上に飾られたチーム写真を指しながらいった。フィンランドのスポーツ選手にとって、トロフィーをサウナに持ち込むのは当たり前らしい。2007年には、米国のホッケーチーム〈アナハイム・マイティダックス(Anaheim Mighty Ducks)〉に所属していたティーム・セラニ(Teemu Selänne)も、スタンレー・カップを抱え、サウナで忘れられない午後のひと時を過ごしたそうだ。

更に、サウナからほんの少し歩くだけで、シミひとつない清潔なブースとテーブルがあり、側にはビールやソーダがストックされた2台の冷蔵庫、55インチのフラットスクリーンテレビ、そしてPS4も設置されている。「ここでは誕生日パーティもよく開かれています」

「子供の?」と尋ねると、「いいえ、大人も子供も。すべての人の誕生日パーティですよ」と彼女は答えた。

その目新しさもあって、バーガーキング・サウナの人気はうなぎ登りであるが、フィンランドのバーガーキング自体も好調だ。このバーガー・チェーンはフィンランドで、1980年代に直火焼バーガーを提供しようとしたが失敗。2013年に再興を試みて見事復活。成功を収め、現在フィンランドには27店舗のバーガーキングがある。マクドナルドや、この国最古で最大手のファストフードチェーンであるヘスバーガー (Hesburger)と競合しているほどだ。

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ここで余談だが、フィンランドとエストニアは、ヘルシンキからタリンに就航するフェリー〈タリンクスター(Tallink Star)〉のトップデッキで、世界唯一の海上バーガーキングを共同所有している。このバーガーキングは、300席のキャパシティを誇るレストランで、フィンランドでは最大、エストニアでは唯一のバーガーキングである。しかし実際に行った私からすると、ここが世界で最も陰鬱なバーガーキングであるのは、まあ間違いない。

話を戻す。私が限界を迎え、サウナを出たのは15分後であった。私は、普段でも約20ドルのファースト・フードを食べるたびにシャワーを浴びたい気持ちになる。私の気持ちに応えてくれるレストランに初めて出会った。冷たいシャワーを浴び、裸でバスルームの壁にもたれて汗が引くのを待った。まぁ、普通のバーガーキングで食事をしたあとも、私はいつも汗が引くのを待つ。なんにせよ、最高の体験だった。

この独特で刺激的な気持ち悪さを思う存分体験したいなら、サウナを数時間、ロックアウトできる。最大15名までのグループ利用が可能であり、3時間で250ユーロ(約3万円)、プラス食事代と飲み物代だ。豪遊したい人なら、一着60ユーロ(約7200円)で、バーガーキングの刺繍付きバスローブも購入できる。

やっと汗が引き、階段を上って店を出ると、フィンランドの新商品〈アングリーワッパー〉のポスターが窓に貼ってあるのに気づいた。バーガーもリラックスして、怒りから解放される場所があればいいのにと、ふと考えた。