1965年以来、ウォダベを記録してきた人類学者/映像作家メッテ・ボヴィン(Mette Bovin)によると、「ウォダベの若い男性が朝起きて最初にするのは、小さな手鏡を見つめ、自分の顔をチェックし、きれいに整えることである(中略)。家畜の世話も、その朝の儀式を済ませてからだ」。ウォダベの男性は毎日、目の周りに黒いメイクを施す。目をより大きく白くみせるためだ。そして精巧なジュエリーと甘い香水を身につけ、長い髪をブレイズにし、ビーズで飾り、それを背中のほうに垂らす。長く豊かな髪の男性は、特に美しいとみなされる。ウォダベ文化において、超絶ハンサムだとみなされた男性は〈kayeejo naawdo(〈痛みを伴うひと〉の意)〉と呼ばれる。かっこよすぎて、見つめていると痛みを感じる、という意味だ。〈ウォダベ(Wodaabe)〉とは〈People of the Taboos(タブーの人びと)〉という意味。彼らの文化には数々の守るべき規範があり、それが彼らの生活を構成している。例えば、ウォダベの人びとは愛する者を下の名前で呼ばない(人混みに紛れてしまったらきっと大変だろう)。ウォダベでは、愛する者に過剰な愛情を注ぎすぎないことが敬意の印であり、相手の下の名前を呼ばないこともそれに含まれるのだ。さらに、衛生、食事、そしてセックスについても厳しいタブーがある。ウォダベの女性も男性も、初婚の相手は幼い頃に親が決める。しかし彼らの文化は、一夫一妻制ではない。既婚者で恋人がいても何ら恥じることではないのだ。ただ、重婚は固く禁じられている。ウォダベの社会は家父長制だが、セックスに関しては女性が主導権を握る。それを如実に示すのが年にいち度の〈ゲレウォール〉。男女の出会いの場となる祭りで開催される〈美男子コンテスト〉だ。そこでは男性が競い合い、女性が審査する。参加する男性たちは何日もかけて準備をし、当日も最大6時間かけて入念に着飾る。頭の前方を剃り、ブレイズにした髪は貝で飾る。アイメイクはもちろんのこと、顔全体にサフランや黄土を塗り、顔を黄や赤に染める。唇は、歯の白さを際立たせるために黒く、頬と鼻筋は白く塗る。ウォダベは、キム・カーダシアンなどよりもずっと前からコントゥアリングを実践してきたのだ。衣装は、精巧な刺繍が施されたローブ、鮮やかなフェザー、そして色を塗った貝殻でつくったジュエリー。みんなの準備が整ったら、ダンスの時間だ。ゲレウォールで踊るダンスは〈ヤーケ〉と呼ばれる。40℃の気温のなか、男たちは目と歯をむき出しにしながら何時間も踊り続ける。真珠のように白くきれいな目と歯で、女性審査員に強い印象を与えるためだ。彼らは大声で歌い、ぴょんぴょんと飛び跳ねてスタミナを見せつける。高齢の男性や女性たちは、ダンサーの列を端から端まで走りながら応援し、より複雑でエネルギッシュな動きを見せるよう発破をかける。ナンパをしようと意気込んでいるところを母親に応援されている、という感じだろうか。