パラレルワールドにおける人間の存在をデジタルスカルプトで表現

ギリシャのデジタルスカルプター(※1)、3Dアーティストのアダム・マルティナキス(Adam Martinakis)のCG画像は、ダイナミックに五感に訴えかけてくる。どんな媒体でも題材にしてしまうマルティナキスが、いち早く注目すべきデジタルスカルプターの1人となった所以だ。

下に掲載した最新シリーズからの画像「Lightbreak」は、マルティナキスの他の作品群と同様、人間とは何かを熟考させるものであり、彼の作品の特徴をよく表している。The Creators Projectは今回、マルティナキスにインタビューし、制作手法について詳しく尋ねた。また、「まだ母親の子宮の中にいるように感じる」という、宇宙についての彼なりの思索についても話を聞いた。以下インタビューにおいてのマルティナキスの回答は、宇宙への驚異を秘めている。

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Lightbreak, 2014 画像提供

あなたの作品は、(もしどちらかを選ばなければいけないとしたら)人間の形状と状態、どちらを表現しているのでしょうか?

もちろんその両方なんだけど、どちらかと言えば人間の状態と意識について、より深く考察したものと言えるね。よく見てみると、作品の中で表現されている人の形は概ね同じような構成になっていて、内部にはそこまでのディテールは無いんだ。人間の形状の参考としてこの基本的な形を採っているんだけど、僕にとってより重要なのは、それらが表現するストーリーなんだ。

Last Kiss, 2011

作品を表現するのに、コンピュータが最適な方法だと気付いたのはいつですか?

デジタルコンテンツに初めて関わった1999年のことだったね。皮肉な話なんだけど、28歳になるその年までコンピューターの使い方を全く知らなくて、ハードとソフトの違いさえ分かっていなかったんだ。正直、アート制作にコンピュータを用いることに強く反対さえしていた。手作りのアートワークこそが、唯一の芸術作品だと思っていたからね。自分の全く知らない未知なる世界、コンピュータに挑戦するのが怖かったんだ。

でもそれ以来ずっと、素晴らしいデジタルの世界で、作品を作ったり新しいことを試して遊んでいるよ。永遠に子供時代にいるようで、とても楽しいよ。

Roots of the Beginning, 2013

制作手法について教えてください。着想から完成まで、一つの作品にどれくらいの時間がかかりますか?使用しているソフト、作業手順についても聞かせてください。

基本はAutodesk 3ds Max(※2)を使っているけど、他にもDaz3D(※3)、Mudbox(※4)、Photoshop、After Effects(※5)、その他たくさんの3ds Max プラグインを使って制作しているよ。

まず最初に、メインとなるひな形を作る。いつも人間とは限らない。同時に、その周囲の環境も考慮に入れるよ。僕にとって、その関連性がとても重要だからね。

次に、素材と照明デザインを色々試してみるんだ。と言うのも、(作品を創る過程の作業では、)全てがまるで劇場の舞台のようだからね。3D作業の最終過程は、構図に対して適切なカメラアングルを設定してレンダリング(※6)すること。レンダラーは、V-Ray(※7)を使っているよ。

プロジェクトの複雑さにもよるけど、数時間で完成することもあれば数週間かかることもある。普通は大体、2〜3日といったところかな。

あなたのfacebookページで、ご自身の作品を描写するのに「パラレルワールドからの3次元ビジョン」という表現を使っていますが、とてもよく要約されていると思います。あなたの「パラレルワールド」の定義について、詳しく説明してもらえますか?

「パラレルワールド(または多元的宇宙)」とは、無限の可能性を秘めた宇宙論だ。僕のはごく幼少の頃から、常にこの理論に対する答えを探し求めていた。「もしあの時ああしていたら、どうなっていただろう?」「いや、もししていなかったら?」なんて、色んな可能性をあれこれ考えていたよ。この理論は今や、科学界や哲学界で定説になっているけどね。

僕はこの言葉を、自分のアートの本質を表現するために使っているよ。3次元空間で作業していると、本当に、創造の限りない可能性を感じるんだ。媒体そのものがインスピレーションを与えてくれて、制作過程を導き出してくれたことが何度もあるよ。いつだって、全く新たな自然界の法則によって、全く新たな世界を一から創り上げることができるんだ。

マルティナキスの多次元宇宙についての見解(Materialized v02)

この無限宇宙の魅力は、どこから来るのだと思いますか?

宇宙論と自然科学の功績は本当に素晴らしいと思う。我々は何者か、この世界は何であるかという永遠の質問に対する新たな見解を与えてくれるからね。

僕たちは、その答えをもうすぐ見つけ出せそうなところまで来ていると思う。人類は常に進化し続け、現代社会は既に完全なSF世界のように思える時さえある。3000年前の人々からしたら、まるで異星人の文明のように見えるだろうね。でも、人間がこれほどの進化を遂げた期間でさえ、宇宙時間にしてみればほんの一瞬でしかないんだ。

宇宙の形成の初期段階が見られる次世代望遠鏡の画像を見ると、自分はまだ母親の子宮の中にいるような気がするよ。全てのものは、我々人類を含む全てのものを超えたレベルで完全に繋がっているんだ。

Rehabilitation, 2014

こうしたことから、私たちは何を学べるでしょうか?

日々の生活の中で、常にオープンな状態で、何でも受け入れることが大切だと思う。1人の人間として、また社会として、同時に進化していかないとね。いずれにおいても、探求して、変えていかなければいけない点がまだたくさんある。

僕たちは、未知なる神秘的な時代に突入したんだ。アートの世界では、デジタルコンテンツによって、表現したり、理解したり、感覚、感情や知識をシェアするための新たな方法が可能になった。こんなに素晴らしい方法に出会えて本当に幸せだし、人々にも、人生の新たな道を探す希望を与えたいと思っているよ。素晴らしい冒険の最初のステージを体験することが出来て、僕たち現代人はすごくラッキーだと思うね。

The Waiting Hands, 2010

マルティナキスの作品についてより詳しくは、彼のブログfacebookページで見ることができる。

脚注:

(※1)デジタルスカルプター:専用ソフトウェアを用い、デジタルの世界で粘土をこねるようにして直感的に形を作って表現するアーティストのこと。

(※2)Autodesk 3ds Max:オートデスク社による、ハイエンド3次元コンピュータグラフィックスのソフトウェア。キャラクターアニメーション、映像、CAD製品との連携に関して意識されており、それらの分野に使用されることが多い。(一部Wiki引用)

(※3)DAZ 3D:米DAZ 3D Inc.による3DCGソフトウェア。

(※4)Mudbox:オートデスク社による、3Dスカルプティング及びペインティングツールソフトウェア。 ペイント感覚でモデリング可能。

(※5)After Effects:アドビシステムズによる、映像のデジタル合成やモーション・グラフィックス、タイトル制作などを目的としたソフトウェア。

(※6)レンダリング:ここでは、3次元オブジェクトから3DCGを描画すること。また、レンダリングを行うソフトウェアをレンダラーと呼ぶ。

(※7)V-Ray:ブルガリアのChaos Group Ltdによるレンダラー。プラグインとして動作し、非常に高速でフォトリアルなレンダリングができる。