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新型コロナで休業を余儀なくされる米国ミニシアターの窮状

Plaza Theatre Atlanta

3月に入ってから、米国のほぼ全ての独立系ミニシアターは新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大防止のため休館している。市や町の自治体、州政府の命令で休業を強いられた劇場もあれば、自主的に休業を選んだ劇場もある。当初は一時的な休館の予定だったが、休館は数ヶ月続く見通しで、米国各地のミニシアター経営者たちは廃業を危惧している。

「数週間の休館なら大したことないんですが、多くのひとがそれ以上、つまり1ヶ月とか数ヶ月の休業を予測しています。それが現実になればかなり厳しいです」とVICEの取材に語ったのはNY・ロングアイランドにあるシネマアーツセンター(Cinema Arts Centre)の共同支配人、ディラン・スコールニックだ。「日曜にイベントを開催していたんですが、またイベントをできる日がくるのか、営業再開できる日がくるのかはわかりません」

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休館しても、賃料、固定資産税、保険、光熱費、その他設備費や固定費などはかかる。また多くのミニシアターでは、たとえば役員やプログラマーなどフルタイムで働く正社員、そしてチケット売り場や売店などで働くパートタイムの従業員の給料の支払いを続けている。

「休館が1週間長引くごとに、数万ドル(日本円で数百万円)を失います。数ヶ月続けば、10万ドル(約1000万円)の損失になるでしょう」と証言するのはシカゴのミュージックボックスシアター(Music Box Theatre)の総支配人、ライアン・オストライクだ。「その損失の100%を取り戻すためにはどうすればいいのか分かりません」

The Music Box
Photo courtesy of the Music Box Theatre

多くのミニシアターにとって、今回の休館は初めての体験だ。たとえばNYのシネマアーツセンターは、第二次世界大戦中も2001年のアメリカ同時多発テロ事件のときも営業していたし、ミュージックボックスシアターも、1929年から一度も休館したことはない。3月19日には、アトランタ最古かつ唯一のミニシアターであるプラザシアター(Plaza Theatre)が無期限休館を決めた。1939年の創立以来初めてのことだ。そして、プラザシアターが営業再開できる保証はない。

「もし休業が本当に2ヶ月続いたら、いったいどうすればいいのか見当もつきません」と吐露するのは同館のオーナー、クリストファー・エスコバルだ。「アトランタで唯一の歴史ある単館系の映画館なんです。先人たちが注いだ愛や、流した血と汗と涙、それら全てが僕にかかっている。諦めず、営業を続けていく方法を見つけないと」

支配人や従業員によると、ミニシアターが生き残る唯一の方法は、映画館へ足しげく通う映画ファンたちのサポートしかない。多くのミニシアターは非営利組織なので、サポートするには寄付が最良だ。ほぼ全てのミニシアターで、一定額を払えばチケットが割引価格で購入できたり、無料上映に招待されたり、特別イベントの参加権を得られたりなどするメンバーシッププログラムが用意されているので、新規会員になったり、メンバーシップを更新すると映画館にとってありがたいという。また、映画館で使えるギフトカードの購入なども力になる。どんなに少額でもいい。小さな支援が重要なのだ。

このように寄付やメンバーシップ加入を促したり、上映キャンセルになった回の購入済みチケットを寄付に充てる支援を呼びかけるミニシアターがあるいっぽう、多くのひとびとが経済的に苦しんでいるなかで、サポートを求めるのも申し訳ない、という経営者もいる。

「関係者にとってこれは自分たちの生死にかかわる問題で、すごくつらいのは確かですが、より大局的にみれば、私たちが特別扱いされるべきじゃない。それは自分に言い聞かせてますね」と語るのはアラバマ州モンゴメリーのカプリシアター(Capri Theatre)の支配人、マーティン・マキャフリーだ。「感染し苦しんでいるひとがいて、彼らは私たち以上にお金が必要。この危機的状況に乗じてお金を稼ぐことは、私たちはしてはいけないと思っています」

休館を決めてから、寄付やメンバーシップ登録がかなり増えたと語る支配人や従業員もいる。しかし、それが営業継続のために充分な額かはわからないという。

「ギフトカードや会費で損失を補填できるかはわかりません」とオストライクはいう。「でも、どんなに少額だとしても、すごく価値があるのは間違いない。この前、友達のためにメンバーシップをプレゼントしたよ、っていうメールがお客さんから届いたんです。かなり自分の気が滅入っていたときだったので、泣きそうになりましたね」

米国の大手シネコンチェーンであるリーガルシネマ、AMC、アラモ・ドラフトハウス、その他チェーンが休館を決める前から、米国のミニシアターは新型コロナを警戒して休館をはじめていたが、それに先んじて、何百人もの劇場支配人、従業員たちが新型コロナについてメールでの議論を始めていた。それを主導したのは〈Art House Convergence〉という、単館系シアターのための協会である。彼らはウイルス感染の現状、大人数の集まりを減らすための行政の対策についての情報をシェアしあって、収容人数を減らしたり、上映が終わるごとに全ての座席を消毒するなど、映画館に訪れる観客や従業員の安全のためにできることを話し合った。このメールでのやりとりは貴重だった、と参加者たちは語る。情報源としてももちろんだが、自分たちの映画館を守ることが往々にして孤独な闘いとなりがちななかで、仲間がいる安心感を与えてくれたという。

「ミニシアターの支配人はその地域で自分だけ、という状況であることが多いので、すごく孤独なんです」と語るのは、Art House Convergenceの会長、アリソン・コズバーグだ。「Art House Convergenceのネットワーク、コミュニティにより、劇場支配人や従業員が、自分たちとまったく同じ困難を乗り越えようとしている仲間とつながることができるんです。それに、コミュニティ内では助け合いの精神が根付いています」

多くのミニシアターは、劇場は休館しても、インターネットで観客へのサービスを続けている。たとえばボストンのクーリッジコーナーシアター(Coolidge Corner Theatre)は、〈staff picks(スタッフのおすすめ)〉というシリーズで、従業員が家で観られる映画作品を紹介する動画をYouTubeに公開。非営利の映画館であるミシガンシアター(Michigan Theater)での開催を予定されていたアナーバー映画祭(Ann Arbor Film Festival)は、出品作品全てを無料でライブストリーミングした。またメリーランド州のオールドグリーンベルトシアター(Old Greenbelt Theatre)では、毎週行なっていた高齢者のための朝の上映の代わりに、名作映画を家で鑑賞できるようにし、また週に一度、その作品について語ることのできる無料のカンファレンスコールを主催している。

Coolidge Corner Theatre
Photo courtesy of the Coolidge Corner Theatre

彼らのウェブサイトやSNSでは、パンデミックのなかでもどうにか持ちこたえ、不安をみせず頑張っているようにもみえるが、ミニシアターは、この先営業再開できないかもしれない、という深刻なリスクに直面している。今は、ソーシャルディスタンシングと自主隔離が数ヶ月後に解除されたら、きっと地元の映画館にみんな大挙して押し寄せるだろうという希望にすがるほかない。

「みんなきっとこれをきっかけに、映画館での体験によりいっそうの価値を見出すと信じています」とコズバーグは断言する。「映画館は、チャレンジングかつ重要な対話が生まれる場所です。ひとびとが一体となることのできる場所です。コミュニティには、絶対に映画館という場が必要なんです。自宅での引きこもり期間が終われば、きっとこれまで以上にそういう場が必要とされるはずです」

しかし、そもそも新型コロナ危機が終息するまでミニシアターが存続できるのかが問題だ。建物を所有しており賃料を払わなくていい経営者は楽観的だが、そうではない場合、コロナ危機が始まる前から苦しい経営状態だった映画館もある。そういった劇場は、政府から何らかの救済を受けない限り(そしてそれが成されるかは保証されていない)、存続していくのは難しいだろう。

「この映画館は、1933年以来ずっと営業を続けてきました。非営利化したのは1989年。取り壊される予定だった建物を、みんなが〈人間の鎖〉をつくって周りを取り囲み、文字どおり守ったんです」とクーリッジコーナーシアターのプログラムディレクター、マーク・アナスタシオはVICEの取材に語った。「たとえ世界が崩壊しようと、この場所を守ることが最優先です」

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This article originally appeared on VICE US.