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Photo courtesy of Oli London

トランスレイシャルとは?BTSジミンになるため整形を繰り返すインフルエンサーから考える

BTSのメンバー、ジミンの等身大パネルと結婚したことで有名になったオリー・ロンドンは、ジミンのような容姿に近づくためこれまでに18回もの整形手術を受けている。ロンドンは〈トランスレイシャル〉を自認しているが、ロンドンの発言には批判も多い。

英国在住の白人インフルエンサーで、昨年BTSのメンバー、ジミンの等身大パネルと結婚したことで有名になったオリー・ロンドンは、自らが「トランスレイシャルでノンバイナリーの韓国人」である、と〈カミングアウト〉した。ロンドンは、愛してやまないジミンの容姿に近づくため、これまでに17万5000ポンド(約2700万円)を美容整形に費やしてきた、とVICEの取材に語った。

ロンドンが世界に自らの「トランジション(移行;本来、トランスジェンダーの性別移行を指す言葉として使われる)」について「カミングアウト」したのは、6月19日、Twitter上でのことだった。そのツイートには、赤、青、黒の代わりにレインボーカラーとなった韓国の国旗の画像が添付され、「これがノンバイナリーで韓国人である自分の、正式なフラッグ」と書かれていた。

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その2日後の6月21日、ロンドンはYouTubeに「ノンバイナリーの韓国人です」と題された動画を投稿し、ウォーク(woke:社会問題への意識が高いこと)なひとたちが、自分を「キャンセル」しようとしている、と語った。

「これがノンバイナリーで韓国人である自分の、正式なフラッグ。みんな、温かい応援をありがとう。Them/they/kor/eanとカミングアウトするのは簡単なことじゃじゃなかった」

6月26日には「韓国人であること」というタイトルでまた別の動画を投稿。そこでロンドンは、自分はもう英国人を自認しないと明かし、「私の代名詞は、they/them、韓国人、ジミン。容姿は韓国人だし、韓国が私の故郷」と語った。しかし動画のコメント欄に寄せられたのは、批判的なコメントばかりだった。

インフルエンサー、ミュージシャンとして活動するロンドンは、現在31歳。自分が韓国のカルチャーに初めて触れたのは2013年のことだった、とVICEのメールインタビューに語った。「英語教師として、1年韓国に滞在しました。その1年で、その後の人生が一変したんです」とロンドンは回想する。

同年ロンドンは、鼻を細くするために韓国で鼻整形をした。しかし手術は失敗だったという。「曲がった変な形の鼻になってしまい、その後4回再手術を行いました」

そんなロンドンだが、ロンドンの動画にコメントをした多くの韓国人が、ロンドンに批判的な立場を示している。

「もしロンドンが韓国をリスペクトしているなら、私たちの国旗を改変なんてしないはず」と指摘するのは、2年前からインドのムンバイに暮らす31歳の韓国人、シン・〈エデン〉・サンファだ。「確かに韓国はLGBT+の権利に不寛容ですが、それでもこのやり方は冒涜にあたると思います」

反対派のひとびとは、ロンドンが韓国文化を盗用しており、BTSのジミンに不健全なかたちで執着している、と批判している。ツイッターでは、ロンドンを「サセン(私生;アイドルの生活を侵害するほどの過激なファン)」と呼ぶユーザーもいる。 

「オリー、本気で言うんだけど、あなたに必要なのはセラピスト」

「あなたがノンバイナリーなのはわかる、でも韓国人には絶対になれないよ」

カナダ、トロント出身で、韓国系カナダ・アメリカ人としてアイデンティティをもつ29歳のJ・スジンは、「これは韓国文化へのフェティシゼーション(盲目的な崇拝)だと思います」と指摘する。「自分が望むように他人に見られたい、という思いは理解できますが、オリー・ロンドンは韓国文化をリスペクトしているとは思えません」

スジンはロンドンについて、韓国文化全体を、K-POPや韓国人の容姿にのみ矮小化しているように見える、という。「韓国文化はその2つの要素だけにとどまらないのに、そうやって矮小化されてバズっているのを見るのは悲しいです」

スジンは友人からロンドンの「カミングアウト」のことを聞いたという。「最初は混乱しました。深いルーツも理解もないのに、他の文化の一員であると自認することなんてできるのか、と。美容整形をしたい気持ちはわかります。でも、流行りの文化を選んで、自分のアイデンティティがそこにある、と自認するひとのことは応援できません」

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左:22歳当時のオリー・ロンドン 右:K-POPアイドルに似せるために手術をした後のロンドン

〈トランスレイシャル(transracial)〉という言葉は、昔から議論の的となってきた。メリアム・ウェブスター辞典によると、「2つ以上の人種を含む、包括する、または2つ以上の人種まで拡張すること」と定義されている。元々は、別の人種の養親のもとに引き取られる養子に使われていた単語だ。

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しかしロンドンにとって〈トランスレイシャル〉は、自分自身の文化や民族にとらわれていると感じるひとたちを指す言葉だという。「韓国に行って以来何年も、自分が自分の身体の中に閉じ込められているような気分でした」とロンドンは語った。

ネット上には、ごく少数だが、トランスジェンダーとトランスレイシャルは同じだと主張するひとびともいる。保守派のコメンテーター、ベン・シャピーロもロンドンを支持している。

「否定するのは差別者だけ」

>オリー・ロンドン:「トランスセクシュアルもトランスレイシャルも同じ。どちらも、違う身体に生まれてしまったってことだから」

また、Facebookにはトランスレイシャルを自認するひとびとのグループがあり、そこで彼らは、将来の計画について話し合っている。彼らの選択肢のひとつとなっているのが美容整形だ。

「彼らが整形を声高に叫んでいるのは不思議です」と語るのは、カナダ、トロント在住の29歳の韓国人、シャロン・キムだ。「K-POPのアイドルが美容整形をするときは目立たないようにやるし、しているとも公言しません」

ロンドンの大規模な整形は、韓国で美容整形市場が拡大し続けていることのひとつの帰結であるとキムは考えている。「ロンドンが韓国人みたいになるために美容整形をしているなんておかしな話です。私の場合、二重まぶたにする手術の代金を、おばが卒業祝いに払ってくれたのに」

韓国は、国民1人あたりの整形手術件数が世界1位で、もはや通過儀礼の一種だと考えるひともいる。韓国で鼻整形や美肌施術と並んで特に人気なのは二重まぶた手術。まぶたに線を入れ、目が大きく見えるようにする。

ロンドンが最近受けた施術は、おでこや頬のリフトアップ、美肌注射、目の切開、歯のクラウンの交換など。今後さらなる手術も予定されているという。「私のアイドルであるジミンの容姿に近づけるまで、整形をやめません」とロンドンは語る。

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2018年8月、英国・ロンドンでフィラーによる目の周りの施術を受けているオリー・ロンドン。写真:MARCUS HESSENBERG / BARCROFT MEDIA VIA GETTY IMAGES

〈トランスレイシャル〉を自認する人間はロンドンが初めてではない。2015年には、活動家のレイチェル・ドレザルが、実際は白人であるにもかかわらず、自らを黒人女性と偽っていたことで非難された。

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2020年には、歴史家のジェシカ・A・クラッグが、〈Medium〉に投稿したエッセイで、長年黒人を詐称してきた、と告白した

2人とも、白人家庭に生まれながら、黒人を自認していたのだ。しかもドレザルは全米黒人地位向上協会(NAACP)の支部長で、クラッグはジョージ・ワシントン大学のアフリカン・アメリカン研究の教授だった。

また2014年には、韓国に1年暮らしたブラジル人男性が、自らの目を「もっとアジア人っぽく」するために整形手術をしている。

しかし、ロンドンがいくら容姿を韓国人に近づけても、世界中に暮らす韓国人、アジア人と同じ経験をすることはない。ジャーナリストのサンドラ・ソンは〈Paper Magazine〉の記事で、ロンドンの行動は、韓国人が直面させられているトラウマ、人種差別、困難を認識することにはならない、と指摘。「ロンドンがしていることは、K-POPや食文化などのおいしいとこどりにすぎず、私たちの生活が、西洋世界によってもたらされた差別的、抑圧的、歴史的な負の遺産にどれほど苦しめられているかを知らない」。「つまり、自分は韓国人だと主張する白人は、どうしたって信用ならない」、そう彼女は語る。

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2018年8月、英国・ロンドンにて昔の自分の写真と並ぶオリー・ロンドン。写真:MARCUS HESSENBERG / BARCROFT MEDIA VIA GETTY IMAGE

米国では、アジア人へのヘイトクライムが増加し続けているのが現状だ。

米国内のアジア系米国人、太平洋諸島出身者のコミュニティに対する暴力や差別の実情を追跡調査するNPO団体、Stop AAPI Hateは、2020年3月から2021年3月までに6603件ものヘイトクライムを報告している。そのうち一番多い被害は暴言(65%)だ。被害の報告者として最多なのが中国人(43.7%)で、その次に多いのが韓国人(16.6%)となっている。

また、トランスジェンダーとトランスレイシャルは全くの別物であり、両者は「比べられるものではない」という批判もある。

「オリー・ロンドンはトランスジェンダー排除派に、トランスジェンダーのひとびとの存在を認めない口実を与えているね」

フィリピン系米国人のジャーナリスト/作家で、トランスジェンダーのメレディス・タルサン(Meredith Tulsan)は、『The Guardian』に寄せた記事で、ドレザルが黒人を詐称するために肌を黒くしたのは自発的な選択だったが、トランスジェンダーのひとびとがトランジションを選択するのは、本人の意図によるものではない、と指摘。「私たち人間の基本となっているジェンダーという見地が、出生時から何度も何度も押し付けられ、しかもそれは、本人のジェンダー的体験とは一致しない。その結果、トランジションを選ぶことになる」と彼女は記している。

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ロンドンはそれについて、「ウォークなひとたち」が戦争を仕掛けてきている、と考えている。

「ウォークなひとたちや荒らし屋たちは、社会の基準に当てはまらないとみなした人間を攻撃します」とロンドン。「私は唯一無二の存在で、規範からは外れている。だからそういうひとたちは私を標的にして、いじめるんです。私を侮辱し、私が私自身を嫌いになるようにしむけている。私のことを〈差別主義者〉と呼ぶひとたちこそ差別主義者です」

人種、ジェンダー、セクシュアリティについての議論がどんどん活発になっていっても、ロンドンは自らの立場を変えていない。「私はこの4年間、自分は韓国人だと自認してきたし、2年前からはトランスレイシャルだと思っています。最近になって、ようやくカミングアウトする勇気が湧いたんです」

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2019年、ソウルの街中でのオリー・ロンドン。写真:DANIEL SMUKULLIA / BARCROFT MEDIA VIA GETTY IMAGES

今回VICEが取材した韓国人たちは、ロンドンがこういうことをしているのは、SNSでの知名度や影響力を得るためだ、と考えている。「私はこの2年インドで暮らしていますが、もし私がボリウッド俳優の顔に近づけるために整形をしたら、インドのひとたちは侮辱されたと感じるはず。それはもっともな意見です」とシンは語る。「ロンドンは、ただ注目されて有名になりたいだけだと思う。10年後にもまだロンドンがジミンになりたいと思っているかは甚だ疑問です」

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