赤坂陽月は、瞑想用の音楽を制作している日本人の禅宗僧侶だ。しかしそのスタイルは、一般的に想像されるようなものではない。YouTubeにアップロードされた動画を観てみると、真っ白な背景の前に立った彼は、マイクを握り、ループマシンを駆使し、自らの声を多重録音して、即興的に音楽を奏でている。
赤坂は現在37歳。彼が注目を集めるきっかけとなったのは、今年5月に公開した〈般若心経ビートボックスRemix〉。ASMR動画のようなリラックス効果がありながら、DJセットを観ているのと同じくらい夢中になってしまう不思議な動画だ。ただひとつの楽器、すなわち自身の声だけで数々のサウンドやお経を奏で、ループマシンを使用してそれらを重ねていく。公開から2ヶ月経った現在、この動画の視聴回数は20万回を超え、世界中からコメントが届いている。
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赤坂自身、袈裟に身を包んだ僧侶がビートボックスを披露することの意外性は自覚しているが、意識して意外性を演出したわけではないという。「〈おもしろさ〉で注目を集めたかったわけではないんです。単純に、音楽への情熱を生かしたかっただけで」と彼は語る。「他のギタリストやドラマーと同じです。普通のパフォーマーですよ」
彼は、出家する前からビートボクサーとして活動していた。「友人から、AFRAという日本のビートボクサーのCDをもらって、このひとは自分の口だけでパフォーマンスをしている、と聞いたんです。人間ってこんなことができるんだ、と衝撃で。それで、自分でもやってみようと思い立ち、実際にやってみたら、自分に才能があることに気づいたんです」と赤坂はビートボックスを始めた経緯を説明する。
それが15年前、彼が20代前半のことだった。2015年に彼は出家し、父の跡を継ぎ僧侶となる。「日本では、実家がお寺だから自分も僧侶になる、というひとが多いんですが、僕の父の場合は、一般人から僧侶になったんです」と赤坂は語る。「僕はその父の決断に感銘を受け、岩手のお寺で住職をやっている父の跡を継ぎたいと思うようになりました」
僧侶になる前はビートボックスで生計を立てており、ストリートミュージシャンとして、日本国内のみならずオーストラリア、米国など世界をまわった。また、舞台俳優としても活動した。
「音楽はずっと好きだったので、出家したあとも音楽は続けたいと思っていました。それでこうやって、再びビートボックスをやることにしたんです」
彼は、出家前の人生と今の新しい人生とを融合する方法を見いだした。それが、音楽に乗せて読経をする、というスタイルだ。そうすることで、自身の音楽への想いを再燃させ、さらに世間が仏教に抱いている誤解を解こうと考えたのだ。彼は動画を投稿するだけではなく、毎日YouTubeでパフォーマンスをライブ配信している。
「日本では、仏教といえばお葬式だし、お経はそんなに良くないイメージ、悲しいイメージが持たれていると思うんです」と赤坂。しかし彼にとって仏教は、苦しむことなく平穏に暮らすための教えであり、お経や仏典は、ひとびとの心を癒してくれるものだという。
「僕のビートボックスの動画で安眠できたとか、リラックスできた、と言ってくれるファンのかたもいます。それはすごくうれしいことですね」
「音楽への愛と信仰とを融合でき、さらにこの活動が世界中のひとびとへと届いている。それは本当にありがたいことだと思っています」
This article originally appeared on VICE ASIA.