カンボジアの建設業界は好景気に沸いているが、建設作業員の命は危険にさらされている。安全装備もなければ、安全に対する規則もない。事故の報告も提出されない。作業員は使い捨ての機械のごとく扱われる。作業員の転落事故は、毎月のように起きている。政府が定期検査を実施するわけではないので、基本的に業界の自主規制にゆだねている状況だ。私がプノンペンで、初めて建設作業員のひとりと出会ったのは、現地の新聞社に勤務していた2004年。それ以来、高層ビルが続々建設されるなかで、彼らを写真に収めてきた。余った木材を使って、建設現場に小さな住まいを作り、そこで暮らす一家とも出会った。11階の高さで、安全ベルトもヘルメットも着用せず、サンダル履きで作業する労働者にも出会った。彼らは家族を養うため、あるいは借金返済のために、自らの命を危険にさらしている。アメリカにある労働者の権利団体、ソリダリティーセンター(Solidarity Center)は、カンボジアの建設業界の労働者数を30万人強、単純労働者の平均日給を約7ドルと見積もっている。そして、起こるべくして起こる大事故でもないかぎり、長年の懸案である労働環境に変化はないとみている。これらの高層ビルが次々と建設されていくペースを考えると、そのような事故は、おそらく回避できないだろう。
「大惨事が起こるまでは、この状況が改善されないでしょう」。ソリダリティーセンターのディレクター、ウィリアム・コンクリン氏は語る。「建設現場で大事故が起き、多くの人が命を落とさなければ、変わらないでしょう。変わったとしても、それが持続するかどうか、わかりません。こんな、悲惨な現状を公表しなければならないのは悲しいです」。