2016年12月15日、ミネソタ大学アメリカンフットボール部に所属する選手たちは、大学側から、性暴力に関わった疑いで処分されていた10名の仲間をかばうためストライキを宣言。今後、部としての活動や試合をボイコットする、と発表した。しかし、9月に起きた事件の凄惨な詳細を記載した80ページにもおよぶ報告書を確認した部員たちは、12月17日にこの宣言を撤回した。
関係者が『Star Tribune』紙に語ったところによると、部員たちはその報告書に目を通した瞬間、ボイコットに対する姿勢を大きく変えたという。17日土曜日の朝、フットボール部は、大学側からの譲歩がないにもかかわらずボイコット終息を宣言し、12月27日に開催されるホリデーボウルに備える練習を再開する、と発表した。チームはもともと、処分を受けた10名全員が部に戻るまでボイコットを続ける予定だった。50年以上の歴史で、抗議のためにボウルゲームを棄権しようとしたチームは彼らが初めてだった。
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「チームとして、この数日に起きた出来事を理解しました。そしてミネソタ大学を代表してフットボールすることの重みを理解しました」。最高学年でワイドレシーバーを務めるドリュー・ウォリタースキー(Drew Wolitarsky)は、あらかじめ用意された声明を発表した。
その報告書は、「機会均等・差別撤廃(Equal Opportunity and Affirmative Action:EOAA)」事務局によるもので、地元メディアにより、12月16日に公開された。その報告書には、2016年9月2日、ひとりの女子学生が、「計10~20人の男に性暴力を受けたと思う」と調査員に語ったと記載されていた。彼女は酒に酔っていたため記憶が定かではなく、「ひとりにつき、数回の性行為があったか否か」については、はっきりと把握していない。しかし、性行為中、「肩を押さえつけられていた」、「いち度にふたりに犯されたことが数回あった」と述べている。
また、現場には見物人が大勢いて、「歌ったり、笑ったり、はやしたてたり、〔彼女〕を犯す順番を争ったりしていた」と記載されている。更に見物人のなかには、携帯電話で現場を録画をしていた男もいたという。彼女は、「犯す順番を争ってケンカしていたのを覚えている」と話している。ただし、「男たちが彼女に話しかけてきたかどうかはよく覚えていない」そうだ。
調査の結果、大学側は、被害者と性行為に及んだ疑いのある5名のフットボール部員、レイ・ビュフォード(Ray Buford)、カールトン・ジャム(Carlton Djam)、キアンテ・ハーディン(KiAnte Hardin)、ディオール・ジョンソン(Dior Johnson)、タマリオン・ジョンソン(Tamarion Johnson)を退学処分にし、事件に関わったであろう他の部員4名、セス・グリーン(Seth Green)、コービー・マクラリー(Kobe McCrary)、マーク・ウィリアムス(Mark Williams)、アントワーヌ・ウィンフィールド・ジュニア(Antoine Winfield Jr.)を1年間の活動禁止処分、最後のひとりアントニオ・シェノルト(Antonio Shenault)を保護観察処分とした。
ミネアポリス警察も、この事件に関係した疑いのある部員4名を取り調べたが、検察は不起訴とした。サイト『Twin Cities』の記事によると、ミネソタ大もミネアポリス警察も、初めは合意のうえでの性行為だった、と認識しているが、その後「大勢の男による性行為はレイプだった」と女子学生が証言した事実を把握していたようだ。彼女は調査員に対し、男たちに行為をやめるよう何度もいった、とも証言している。「現在、自分が巻き込まれている行為に彼女が気づき、何度も男たちを押しのけようとした」と報告書には記載されている。「男たちの腹部を押し、自分から引き離そうとしたのを彼女は記憶している」
フットボール部の他のメンバーは、警察がチームメイトを不起訴処分にしたのならば、彼らは無実であり、大学当局の下した処分は「不適当」であると考えていた。
しかし17日にウォリタースキーは、部全体としての、性暴力についての認識に「誤解」があった、と発表した。「女性への性的いやがらせや、性暴力は、この大学内、このチーム内、この社会においても存在すべきものではなく、決して許されるべきものではありません。全ての女性、全ての男性に接するには、たったひとつの方法しか認められていません。常に最大限の敬意を払わなくてはならないのです」
「全国反暴力アスリート連合(National Coalition Against Violent Athletes:NCAVA)」の創始者キャシー・レッドモンド(Kathy Redmond)によると、部員たちの学内レイプ事件への反応は、性暴力の本質を見逃したり誤解したりする体育会系文化に、どっぷりはまった若者のよろしくない傾向を表しているそうだ。「そういう若者は、『本当はどのように行動すればよかったのだろう』『ここから自分は何を学ぶべきだろう』と想像できません。なぜなら集団思考の文化のなかで生きているので、自らを省察する必要がないからです」と彼女は分析する。「チームメイトがOKとさえいえば、それはOKなんです。彼らは家族同然であり、支援するのが当然なんです」
大学内での性暴力抑止につとめている団体「エンド・レイプ・オン・キャンパス(End Rape on Campus:EROC)」の常任理事、アニー・クラーク(Annie Clark)は、学内での性暴力がなくならない理由のひとつとして、早い段階で男子学生たちが〈同意〉について教えられていないからだ、と話す。「同意について、健全な男女関係について、性暴力の防止について、これらの話を大学のオリエンテーションで初めて聞くようであれば、それは遅すぎるのです」
またクラークは、性暴力の被害者に遭った女子学生ではなく、容疑者であるチームメイトをミネソタ大フットボール部が支援したのは「不適切であった」と言明した。彼女は、集団思考がその決定に影響を与えた、とも断言した。「もし、このような行為は許されるか、と各個人に訊けば、皆『そんなわけはない』と答えるでしょう」「でも兄弟のようなチームメイト120人がそれを支持していると知れば、『許される』と答えるのです。そういった判断を止め、正しい行動を実践できるようにならなければいけません」
スポーツ選手たちの行動により、学内での性暴力についての議論は転換するとレッドモンドは語る。ミネソタ大のこの出来事は「集団文化がどれほど根強いかを示すいい例でした。残念ながら、ネガティブな事態、有害な事態に根強く浸透しているのです」と彼女は懸念を示しつつも、こう続けた。「もしポジティブなものに対して、その集団的結束力が発揮されたらどうですか? 想像してみてください」
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