インスタグラムで蘇った70’s ニューヨーク・パンク

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インスタグラムで蘇った70’s ニューヨーク・パンク

ジュリア・ゴートンは、70年代を象徴する主要人物たちの姿を、CBGBで何百枚も記録した。そして現在、彼女は、自らのインスタグラムに、膨大な作品群を少しずつアップしている。

悪名高いモーターサイクル・ギャング〈ヘルズ・エンジェルズ〉御用達のバーからスタートし、その後は世界的に有名なライブハウスになったニューヨークのCBGB。ポラロイド・カメラを片手に、CBGBに入り浸っていた写真家のジュリア・ゴートン(Julia Gorton)は、70年代を象徴する主要人物たちの姿を、CBGBで何百枚も記録した。そして現在、彼女は、自らのインスタグラムに、膨大な作品群を少しずつアップしている。ゴートンが写真を撮り始めたのは高校生のとき。レクリエーション活動の指導者が、レンジ・ファインダー・カメラを20ドル(70年代当時のレートで約5000円)で売ってくれたこと、そして卒業アルバムの担当教員が現像方法を教えてくれたのが、写真にのめり込むきっかけだった。そして1976年、生まれ育ったデラウェア州からニューヨークへ移り、急成長していたパンク・シーンを象徴するアーティストたちをポラロイド・カメラで撮り続けた。「私には写真の才能がある、と彼が見抜いていたかどうかはわかりませんが、私は一生感謝し続けます」。最初のカメラを格安で譲ってくれた指導者について、ゴードンはいう。「あのとき人生が変わりましたから」

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当時のボーイフレンド、リック・ブラウン(Rick Brown)は、ゴートンよりも1年先にニューヨークへ移住していた。彼は、ニューヨークのクールなクラブから、ホットなアーティストまで、あらゆるダウンタウン・シーンの状況を、故郷の彼女に手紙で伝えていた。ゴートンがニューヨークに移ると、ふたりはいっしょにライブハウスに通った。彼らが気に入っていたのはTELEVISION。というのも、TELEVISIONのトム・ヴァーレイン(Tom Verlaine)とリチャード・ヘル(Richard Hell)は、ゴートンの実家からほど近い、デラウェアの予備校に通っていたからだ。「ウィルミントンのフリーマーケットで、トムの母親を見かけたこともあります」とゴートン。「彼女は、折りたたみテーブルを広げて店を出していました。そしてステーション・ワゴンの後部にカセット・プレイヤーを乗せて、TELEVISIONのシングルを流していたんです。息子を誇りにおもっているようでした」

ゴートンはお金を貯めて、手が届く最高のポラロイド・カメラを購入した。引っ越してから1年目は、それ以外のカメラを使用していない。パティ・スミス(Patti Smith)も、デビー・ハリー(Debbie Harry)も、デヴィッド・バーン(David Byrne)も、そのポラロイド・カメラで撮影した。「その場で現像できるバカでかい変なカメラを持っていたから、アーティストに近づくのも簡単でした」とゴートンは語るが、「最初はかなりシャイだった」そうだ。「CBGBのなかは、とても暗かったし、写真がちゃんと出てこないこともありました。フィルムも結構な値段だったので、被写体ひとりにつき数枚しか撮れませんでした」

近年、自分の作品を見返し始めたゴートンは、現在の技術を使えば、暗い写真のなかに隠れている被写体の姿をもっと顕わにできる、と気づいた。「捨てずに取ってあったトム・ヴァーレインの、露出不足の写真があったんです。ほぼ真っ暗で、トムの影だけがなんとか見えるものでした。しかしPhotoshopを使ったら、何十年も影に埋もれていたトムの姿が現れました」。その写真は、米国人写真家のエドワード・スタイケン(Edward Steichen)のような作風だという。

Tom Verlaine. Photograph by Julia Gorton, courtesy of the photographer.

70年代に活躍したミュージシャンのなかには、音楽教育をまったく受けていない面々もいた。だからこそ、彼らの鳴らす音は、荒削りで生々しかった。「始める前から完璧である必要はない。当時の音楽やアートのそういった部分が、感情レベルでみんなを惹きつける魅力だったのでしょう」とゴートン。当時の彼女も同じように、駆け出しの写真家だった。キャリアも短く、ちゃんとした教育も受けていない彼女自身の経歴に苛立ったりもしたそうだが、「皮肉なことに、私が〈うまく撮れた〉と感じた写真より、〈失敗した〉写真のほうが、当時の特徴をリアルに、力強くとらえていました」

特にゴートンは、〈NO WAVE〉のカリスマ・シンガー、リディア・ランチ(Lydia Lunch)との仲を深めた。ゴートンはランチについて、「私が撮りたい魅惑的なモノクロ写真にうってつけのキャラクター」と語る。ランチのおかげで、実験的な撮影が可能になり、作品のレベルが上がった。「彼女は私の真のパートナー」とゴートンは評しており、実際、被写体としての登場回数は誰よりも多い。

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Billy Idol. Photograph by Julia Gorton, courtesy of the photographer.

ペースは遅いが、インスタグラムでアーカイブ作品の公開を始めた結果、ゴートンの作品は少しずつ広まっている。彼女の写真は、ロサンゼルスのストリートウェア・ブランド〈Midnight Studios〉を手がけるシェーン・ゴンザレス(Shane Gonzales)の目に留まり、パンクをテーマとした2017年の春夏コレクション〈Safety Pins〉で、コラボレーションが実現した。ゴートンの写真がプリントされたTシャツなどのコレクションは、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)が最新ツアーで着用し、大きく注目された。ちなみに現在、彼女は、パーソンズ美術大学でグラフィックデザインを教えるほか、自身の作品をもとにジンを編集し、限定出版している。

「現代の若者は、70年代を必要以上に美化しているか?」と尋ねると、彼女は口をつぐみ、しばらくしてから答えてくれた。「メディアはきれいごとばかりを並べ、細かい点ばかりにフォーカスを当て、歴史を改ざんしています。そのなかで生きたひとでないと、100%の真実を知るのは難しい。私たちの当時の生き方を知ったら、今の若者はビックリするでしょう」

「当時、私たちが享受していた〈静かなる自由〉は、どんな写真でも撮らえられません」とゴートン。「私たちの存在や行動なんて、誰も気にしませんでした。私たちはほとんど何も持っていなかった。だけど、確固たる〈自分自身〉がいたし、ダウンタウンには、毎晩集う場所がありました」

Debbie Harry. Photograph by Julia Gorton, courtesy of the photographer.