画像提供 032c
アップルマップに見出すグリッチアート
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チューリッヒ出身の歴史家、ジャーナリストおよびアーティストであるレギュラ・ボクスラー(Regula Bochsler)が雑誌『032c』(※1)のインタビュー(英字)にて語った言葉は、さながらデジタル時代のマルコ・ポーロのようだ。
「私は中毒的に夢中に3Dの世界を旅しながら、グリッチ(※2)によって生まれる見たこともないような美しい写真を、いつも探し回っているの」と、グリッチアートを求めてアップルマップ(※3)を探索する自らの営みについて述べる。
漫画のような3Dの木々が飛び出したひと気のない通りや、ダリの砂漠の絵にも似た陰鬱なスラム街といった航空写真のスナップは、現実であると同時に非現実でもあり、人の心を捉えて離さない。
「フォトグラファーが、カメラを手に街を歩き回るように、フレーミングを決めたり、プログラム依存のアングルによって生じたスクリーンショットの歪みを補正したりしながら、いつも写真を探しているのよ」と、同インタビューにおいてボクスラーは語る。
ボクスラーの新書『The Rendering Eye: Urban America Revisited』
チューリッヒ大学の近代史教授および作家であるフィリップ・サラシン(Philipp Sarasin)と共著したボクスラーの新書、『The Rendering Eye: Urban America Revisited』では、アップルマップの(機能的ではあるが完全に精密とは言い切れない)レンズを通し、忘れ去られたアメリカの風景を探索することが出来る。
以下に、同書からの画像数点と、302cの同インタビューからのボクスラーの台詞を引用した。
「私が魅せられているのは、フランスの写真家であり気球のパイオニアであるナダール(※4)が魅せられたのと同じもの。歴史上初の空中写真を撮ったナダールは、自らの命を危険に晒し、結果として奥さんに気球の事故で酷い怪我を負わせてしまった。それと比べて私は、気楽にソファに座って、アップルマップの新しい世界観を楽しんでいられる」
「ドイツのメディア評論家、故フリードリヒ・キットラー(※5)の格言に倣えば、全てのメディアは”軍事設備を乱用している” のだから、アップルマップのレンダリング(※6)が軍事技術に密接に関わっていても驚きではない。だけどそれと同時に、最初の気球が作られて以来、空中からの景色は常に私たちを魅了し続けているわ」と、ボクスラーは語る。
以下に掲載する、ボクスラーの見事な作品の数々もぜひ楽しんでほしい。
ボクスラーの作品についてより詳しくは、彼女のウェブサイトから見ることができる。
脚注:
(※1)『032c』:ベルリンを拠点とする、半期刊行のファッション、アートマガジン(英字)。1999年創刊。
(※2)グリッチ:デジタルにおけるコードやデータの崩れ、または電子機器が物理的にいじくられたことにより生じる不具合。これから派生して「グリッチ・アート」とは、デジタルで起こる美しいエラーを利用して制作されたアートのこと。
(※3)アップルマップ:アップルが開発したiOS対応の地図サービスアプリケーション。
(※4) ナダール:ナポレオン3世の時代のパリで数多くの文化人や重要人物を撮影し肖像写真家として名を馳せたほか、風刺画家、ジャーナリスト、小説家、気球乗り・飛行技術研究家としても活躍した。(一部Wiki引用)
(※5)フリードリヒ・キットラー:ドイツの文芸・メディア評論家。2011年死去。
(※6)レンダリング:ここでは、3次元グラフィックスで数値データとして与えられた物体や図形に関する情報をコンピュータプログラムで処理して画像化すること。画像だけでなく、映像や音声の生成もレンダリングと言うことがある。