PrEPを始めるための入門ガイド

プレップは、僕の性行為の不安を解消してくれた。HIV感染を予防する薬について、知っておくべき基本情報を紹介する。
Simon Doherty
London, GB
NO
translated by Nozomi Otaki
A man holding PrEP pill in hand 初心者
Photo: Directphoto Collection / Alamy Stock Photo

PrEP(pre-exposure prophylaxis:曝露前予防内服)は、その名のとおりHIV感染を事前に防ぐ画期的な薬だ。これは人類とHIV感染との闘いにおいても、僕自身の性生活にとっても、大きな転換点となった。PrEPは、僕の性行為への不安を解消してくれた。

僕はコンドームを使うことにはなんの不満もなかったが、しばらく前、名前も知らない男性との行為中、コンドームが破れてしまった。僕は絶望的な不安に包まれながら目が覚めた。僕が気づく前にコンドームなしの行為がどれくらい続いていたのかわからなかったからだ。しかも、彼が帰る前にHIVステータスを聞き忘れた。そもそも彼のことは、舐めるのがうまいということ以外(本当にものすごくうまかった)、何も知らなかった。

それから数週間、HIVの検査結果を待つ間ずっと気が気でなかった。当時の僕は、PEP(post exposure prophylaxis:曝露後予防)の存在を知らなかった。HIVへの曝露の可能性がある行為の直後に飲めば、ウイルスの活性化を阻止できる薬だ。曝露の時間に近ければ近いほど効き目があるため、その行為後72時間以内に服用する必要がある。僕のような体験をしたひとは、(英国では)近所のセクシュアルヘルスクリニック(週末の場合は救急外来)に行けばPEPの抗HIV薬を処方してもらえる。

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このトラウマ的なプロセスを体験したら(結果が届くまで心拍数が上がり続ける)、2度と同じことは繰り返さないと誓うだろう。だからこそ、僕にとって、PrEPはローション、身分証、MDMAと同じくらい楽しい夜を過ごすための必需品になった。性に奔放な自覚のあるひと(もちろん決めつけているわけではない)、もしくは他の選択肢を知りたいひとのために、PrEPを始める方法を紹介する。

効果はどれくらい?

「PrEPを医師の指示どおりに服用すれば、効果はほぼ100%です」と数千件のHIV感染を防いできたアクティビストのグレッグ・オーウェン(Greg Owen)は説明する。彼が〈英国随一のPrEP支持者〉への道のりを歩み始めたのは、2015年に初めて服用したことがきっかけだった。当時は英国の国民保険サービス(National Health Service: NHS)の適用外だったが、数種類の治療薬を手に入れることに成功し、その過程でHIVの検査を受けた。結果は陽性だった。

もしPrEPをすぐに始められたらこの状況を回避できたはずだと考えた彼は、友人と協力してウェブサイト〈IWantPrepNow〉を立ち上げた。ユーザーが厳選されたオンライン薬局でジェネリックの抗HIV薬を購入できるサイトだ。当時ゲイ男性のあいだのHIV感染が40%減少したが、それはオーウェンのおかげだと指摘するHIV研究者もいる。そしてついに2017年、 NHSは要求に応じてPrEPを提供するべきだと訴訟を起こされた。

オーウェンがPrEPの前に検査を受けたのは、HIV陽性の場合はPrEPを始められないからだ。代わりにウイルス量を検出限界以下に抑える抗レトロウイルス薬を服用する。そうすれば、他者に感染させる心配はない(科学でもはっきりと証明されている)。

「指示どおりに服用すれば、PrEPは無防備な性交渉、つまりコンドームなしの肛門性交をする同性愛者やバイセクシュアルの男性──出生時に男性の性を割り当てられた人びと──のHIV新規感染を防ぐのに非常に効果的です」と泌尿器科/HIVクリニックに務めるルーク・パーウォー(Luke Purwar)医師は説明する。

医師はこう付け加えた。「正しく継続的に服用すれば、PrEPの効果は99%以上、すなわち実質100%だと研究で証明されています」

PrEPを始める方法

英国では最近はNHSを通して簡単に処方してもらえる。HIV感染リスクが高い集団(男性と性交渉をする男性、もしくはノンバイナリー、セックスワーカー、セックスパーティー参加者、ドラッグを使った行為をするひと、HIV陽性のパートナーがいるHIV陰性者など)に属していれば、すぐに薬が手に入る。まずは健康診断を受け(最近では便利な郵送検査も多い)、クリニックに結果を持っていき、PrEPを希望すると伝えよう。(PrEPの前に検査を受ける必要があるのは、HIV陽性の場合はPrEPを始められないため。)

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日本では、PrEPに使用する抗HIV薬の先発品を感染予防目的で入手する場合、デイリーPrEP 1ヵ月セット、オンデマンドPrEP(1ボトル)ともに約12,000円程度と価格設定されている。そのため、クリニックでジェネリックのPrEP薬を処方してもらうか、オンラインショップからジェネリック医薬品を個人輸入している方が多いのが現状です。

毎日薬を服用するデイリーPrEP

PrEPの方法は大きく分けて2つある(イングランドとウェールズでは、注射用PrEが年内に使用可能になる予定だ)。ひとつめは、毎日薬を服用するデイリーPrEPだ。7日間、1日1錠飲み続け、その後も服用を続けさえすれば完全に予防できる。「デイリーPrEPは、1日1錠薬を飲むだけです」とオーウェンはいう。「歯磨きのように、毎日寝る前に飲むことを日課にすれば、初心者にはうってつけです」

それはなぜか? 「デイリーPrEPを習慣化しているシスジェンダーのMSM(男性と性交渉をする男性)が、1、2回薬を飲み忘れてしまった場合──例えば休暇中の週末に川沿いのパーティーに出かけてハイになり、飲み忘れたりしたとき──普段から日常的に服用していれば、数回飲み忘れても許されるので」

必要に応じて薬を服用するオンデマンドPrEP

何らかの出来事や必要に応じて服用することもできる。その場合の服用回数は、性行為の24時間前に2錠、1回目の服用の24時間後に1錠、最後の性行為から2日連続で1日1錠ずつ服用する。「ちょっと大ざっぱな性格のひとや薬を飲むことを忘れがちなひとには、デイリーPrEPがおすすめです」とオーウェンは説明する。「(デイリーPrEPには)おまけの猶予があるので、ほとんどのひとに適した方法です。でも、例えば6週間に1回しか行為をしないので毎日は薬を飲みたくない、というひともいます。重要なのは、いつ行為をするのかをきちんと把握することです」

オンデマンドPrEPでは、デイリーPrEPのような誤差は許されない。オーウェンが指摘するように、もし3日連続でパーティーやセックスをしていたら、不意に気が緩んで薬を飲む期限を寝過ごしてしまう可能性もある。特定のセックス・ポジティブなイベントに時々しか行かない、というひと以外は、デイリーPrEPを選んだほうがいいだろう。

「デイリーPrEPかオンデマンドPrEPかを選ぶうえで、特にどちらが良くてどちらが悪いというものはありません」とパーウォー医師は付け加えた。「最終的には個人の選択ですから、みんなスケジュールや性生活など、あらゆる要因に基づいて、自分に一番良いものを選んでいます」

大切なのは、人によっては混乱を引き起こしかねないオンデマンドPrEPの仕組みをしっかり確認しておくことだ。「オンデマンドPrEPを希望する方には、そのひとが正しい服用方法を理解しているか、事前に確認するようにしています」とパーウォー医師はいう。「ほとんどのひとはきちんと理解していますが、違う答えが返ってくることもありますからね」

他の性感染症の存在を忘れない

ひとつ忠告したいのは、PrEPを行なっていても、特にコンドームを使わない場合などは他の性感染症にかかる可能性があるということだ。3ヶ月ごとに性病検査を受けたり、HPV(男性と性交渉をする男性もNHSでHPVワクチン摂取を受けられる)、A型肝炎、B型肝炎、サル痘から身を守るためにワクチン摂取を受けることをおすすめしたい。

「PrEPはゲイとバイの男性しか使えないという誤解もあります」とパーウォー医師は付け加えた。「ジェンダーや性的指向にかかわらず、グループセックスのイベントやパーティーに出席したり、クィア男性と性交渉をするなら、PrEPを検討してみてもいいでしょう」

信じてほしい。性的に奔放であることを極め、複数のパートナー(時に全員同時に)との性行為が好きだと公言しているのは、より安全な性行為のために最も責任を果たしている人びとだ。その責任とはつまり、定期的に検査を受けることであり、PrEPを行うことなのだ。

@oldspeak1