タイで性犯罪者の化学的去勢手術が可能に

今年7月、性犯罪者への化学的去勢を認める法案がタイで可決された。再犯を防ぐ対策とされているが、国内で賛否両論を巻き起こしている。
Koh Ewe
SG
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translated by Nozomi Otaki
Thailand set to legalize chemical castration among sex offenders.
2021年6月25日、チョンブリ中央刑務所でシノファーム社の新型コロナウイルスワクチン接種を受けたあと、副反応の確認のために30分待機する受刑者たち。PHOTO: LILLIAN SUWANRUMPHA / AFP

一部のタイの性犯罪者は、じきに刑期の短縮と引き換えに化学的去勢を受けられるようになる。この処置はいまだに物議を醸していて、世界で化学的去勢を実施している国はごくわずかだ。

今年7月11日にタイ上院が承認した法案によれば、さらなる性犯罪を防止する施策として、性犯罪の再犯者がテストステロンや性的欲求を一時的に抑える注射を受けられるようになるという。

今年3月に下院で可決されたこの法案は、下院での再承認後、官報での発表をもって正式に施行される予定だ。今後の流れは不明だが、当局は性犯罪率を下げるために迅速な対応を目指しているという。

「この法律を迅速に成立させたいと思っています」とソムサック・テープスティン(Somsak Thepsuthin)法務大臣は7月12日に語った。「女性が被害にあったというニュースはもう二度と見たくありません」

タイの法案によれば、性欲を抑制する薬は、精神科医と内科医という2人の専門家から承認を得た後、本人が同意した場合のみ処方される。さらに対象者は電子ブレスレットの着用を義務付けられ、10年間監視下におかれる。

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化学的去勢はポーランド、韓国、ロシア、オーストラリア、英国、米国内の複数の州というごく限られた国と地域で、性犯罪者の再犯を防ぐ手段として承認されている。しかし、この処置には大いに議論の余地があり、義務化すれば人権侵害だ、性犯罪の根本的な原因の解決には至らない、という声も多い。

2021年、インドネシアは小児性犯罪者に最長2年の化学的去勢を義務付ける法律を可決した。2016年、14歳の少女が暴行、殺害された恐ろしい事件の後、国中で怒りが噴出したことをきっかけに提出されたこの法案は、義務的な去勢を倫理的に実行することは不可能だと主張する同国医師協会からの反対によって、成立が見送られた。

タイ矯正局によれば、2013年から2020年までに出所した有罪判決を受けた性犯罪者のうち、約30%が再犯に及んだという。特に未成年者に対する性暴力の報道が相次ぐなか、化学的去勢はタイ国民から着実に支持を集めてきた。

しかし、性暴力に関するジェンダー平等推進団体〈Women and Men Progressive Movement Foundation〉のディレクター、ジャディド・チョーウィライ(Jaded Chouwilai)は、化学的去勢は問題の根本解決にはつながらない、とVICE World Newsに語った。

「犯罪者の思考を変えるわけではないので意味がありません」と彼は主張する。「化学的処置が終わっても、対象者の考え方は同じです。私たちが彼らの思考を変えなければ、彼らはまた同じことを繰り返すでしょう」

タイ保健省によれば、2013年に性的暴行の被害にあった女性は3万1000人以上で、その大多数が学生だという。性犯罪を「タイの大きな問題」と捉えるジャディドは、被害者を責めたり性暴力を当然のものとして捉える風潮に対処するなど、当局がより深いレベルで性暴力に取り組む必要がある、と指摘する。

ここ数年、タイのメロドラマの必然性のないレイプシーンに対し、性的暴行を矮小化するとして批判の声が集まっていた。

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