薬物検査でタイの仏教寺院の僧侶が陽性、追放へ

僧侶が関わる犯罪事件が相次いでいる。なお同国では、記録的な量の合成薬物が押収されている。
Gavin Butler
Melbourne, AU
AN
translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
monks thailand
尿検査で陽性反応が示された住職を含む僧侶たちは、リハビリ施設へと送られた。PHOTO BY HUGH SITTON VIA GETTY IMAGES.

2022年11月末、とある小さな仏教寺院の僧侶たちが薬物検査を受けたところ、全員にメタンフェタミンの陽性反応が出た。その結果ひとり残らず僧籍剥奪、追放され、リハビリ施設に送られた。

11月28日、タイ中部に位置するペッチャブーン県ブンサームパン(Bung Sam Phan)地区にある寺院の僧侶4名に対し、警察が尿検査を実施したところ、住職を含む全員に陽性反応が見られた。

地元当局のブンラート・ティンタプタイ(Boonlert Thintapthai)がAFPに明かしたところによると、その後僧侶たちは薬物依存のリハビリを受けるために施設へと送られたため、寺院に在籍する聖職者が不在となってしまった。その結果、地元信者たちに、僧侶に食料の施しを与えるなどといった〈タンブン〉と呼ばれる善行が行えなくなることへの不安が広がっているという。

ブンラートは、地元民が仏教徒としての務めを実践できるよう、同寺院には他の僧侶が派遣される予定だと述べている。

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なぜ警察が薬物検査の対象としてこの特定の寺院、そして僧侶たちを選んだかは定かではないが、タイでは違法薬物の取引撲滅キャンペーンが全国的に行われている。

タイをはじめとする東南アジアの多くの国々では、ここ2年でメタンフェタミンの流通量が大きく増加している。その多くがメタンフェタミンの供給源として悪名高い〈黄金の三角地帯〉、すなわちタイ、ラオス、ミャンマーの国境が接する、紛争により分断されたミャンマー東部シャン州の山岳地帯で製造されたものだ。

2021年2月に勃発したミャンマーのクーデターでミャンマー国軍が政府を転覆させ、国全体が混乱状態に陥ったが、それをきっかけに、過去最大級の量のクリスタルや錠剤のメタンフェタミン(別名〈ヤバ〉)が黄金の三角地帯から流出しつづけ、タイにあふれている。違法合成薬物の製造と取引は2021年に記録的な水準へと達し、当局が押収したメタンフェタミンは総計でおよそ172トン、ヤバは10億錠に及ぶ。

タイの僧侶による違法行為は今回の件だけではない。近年、汚職、殺人、薬物取引に関連する僧侶の逮捕や重大なスキャンダルが立て続けに起こり、神聖であるはずのタイの仏教は汚されている。

2022年3月には、全知であると主張し2020年に有名になった僧侶、ルアン・プー・トゥアンチャイ(Luang Pu Tuanchai)が数十錠ものメタンフェタミンを所持しているのを警察が発見し、彼は飲酒運転と薬物所持の容疑で起訴され、僧籍を剥奪された。同年1月には、別の僧侶がメタンフェタミン錠を使用、そして地元の若者へ販売していたことが発覚し、同じく僧籍を剥奪された。

これらの失態により、タイの僧侶に対する民衆の信頼は失われつつある。昨年3月にVICE World Newsの取材に答えた専門家は、タイの仏教体制は、違法行為を行う僧侶を追放し、汚れがなく公正な仏教のイメージを取り戻さなくてはならないと訴える。

「仏教の究極の目標は、ひとびとが悟りに至ることです」と語るのは、International Network of Engaged Buddhists(エンゲージド・ブッディズムの国際ネットワーク)の事務局長を務める社会運動家、ソンブーン・チャンプラムプリー(Somboon Chungprampree)だ。「しかし社会では、袈裟を身につけた全員が聖人、尊敬に値する人間ではないという認識が広まっています」

タイでは国民の約93%が仏教徒で、30万人以上の僧侶がいる。

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