「コピ・ジャンタンは医薬品ではありません」と断言するのは、男性病専門医のイスメイル・タンビー(Ismail Tamby)医師だ。「ハーブやサプリメントなんて名ばかりです。コーヒーがペニスをより強く硬くする商品として売り出されてるなんて考えられますか? 一体どの成分にそんな効果があるというんでしょうね。カフェインなのか、それとも別の何かなのか」大抵の場合は〈別の何か〉だ。トンカットアリをはじめとするハーブは、男性のテストステロン値や精子数を増加させるとの研究結果もあるが、それは大量に投与した場合だけだ。コピ・ジャンタンひと袋に充分な量のトンカットアリが入っているとは思えないし、そうだとしてもあの価格では採算が合わない。〈Kopi Jantan Tradisional〉〈Kopi Tenaga Tok Lebai Plus〉〈Kopi Panggung Al-Ambiak〉などのブランドが使用しているのは、自然由来にはほど遠い成分。すなわち、バイアグラという商標で世界じゅうで販売されている医薬品、シルデナフィルだ。含有量は不明だ。しかし、これらのブランドは、いずれも原材料にシルデナフィルを記載しておらず、ED治療薬入りのコーヒーの販売許可も取得していない。「これらのコーヒーには、バイアグラやシアリスなど、認可のない違法の成分が含まれています」とタンビー医師。「保健省によって毒物に指定されており、医師以外は処方できない成分です」2017年、〈New of Kopi Jantan Tradisional Natural Herbs Coffee〉という類似品が、米国の売り場から消えた。米食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)が、パッケージ裏面に記載されていない原材料を発見したのだ。そのひとつが、シルデナフィルに構造の似た化合物、デスメチルカルボデナフィルだ。マレーシアでも、保健省がブラックリストを発表し、コピ・ジャンタンのようなハーバルコーヒー、水銀を含む美白クリームなど、危険な製品の販売を禁止した。しかし、この措置はほとんど功を奏していない。日用品店やママッの棚には、今でも最低1種類はコピ・ジャンタンが並んでいる。コピ・ジャンタンのリピーターで37歳のライター、エズラ(Ezra)は、近所の日用品店で購入しているという。彼は、お気に入りのブランド〈Kopi Panggung Al-Ambiak〉にクリスタル・メスを混ぜ、連続でセックスを楽しむという。「クリスタル・メスだけでもめちゃくちゃ興奮するけど、コーヒーを飲めばもっとギンギンになる」とエズラは明かした。
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エズラによれば、〈Kopi Panggung Al-Ambiak〉は、クリスタル・メスのようなドラッグの継続摂取によるインポテンスにも効果的だという。しかも、この製品は、本物のバイアグラよりずっと簡単に手に入る。パッケージにはメーカーの住所、メールアドレス、電話番号が記載されており、電話1本で商品が家に届く。さらに、ネット上には巨大な転売市場がある。VICEが取材したふたりのベンダーによれば、〈Kopi Panggung Al-Ambiak〉は「効果絶大」で、超人気商品だという。注文は20袋から受け付けており、価格は100リンギット(約2700円)だ。コピ・ジャンタンの具体的な市場規模は不明だが、政府報道官によれば、2016年にマレーシア当局が押収した精力剤は、合計4300万リンギット(約116億円)に相当するという。しかも、これは押収された量に過ぎない。市場全体の規模は、4300万リンギットの数倍に相当するだろう。薬物犯罪に死刑が適用されるこの国で、違法薬物がハーブ入りのサプリとして蔓延しているのはなぜか。ペナン消費者協会(Consumer Association of Penang)のコリス・アタン(Koris Atan)会長によれば、そもそもの原因は政府による取り締まりがないことだという。食品法 1983(Food Act 1983)によれば、マレーシア当局には、危険な成分を含む製品、不純物を含む製品、ラベル表示を偽っている製品を押収する権限がある。それにも拘らず、違法のコーヒーが公然と販売され続けている現状の裏には、マレーシア当局の対応の甘さ、腐敗の可能性がある。「取り締まりはないに等しい」とアタン会長は主張する。保健省内の食品規制を管轄する部署は非常に小さく、ひとりの職員が10種類の食品を担当しているという。VICEは保健省とマレーシア・イスラーム開発庁にコメントを求めたが、いずれも返答はなかった。現時点で、混ぜ物入りのコーヒーによって1名が死亡し、2名が意識不明と心臓発作で病院に搬送されている。「マレーシア人は騙されやすく、これらの製品を安易に買ってしまいます」とアタン会長。「みんなもっと意識を高め、警戒しなければいけません」疑うことを知らないマレーシア人男性が被るリスクは、心臓発作だけではない。タンビー医師によれば、彼らはこれらのコーヒーを頼ることで、根本的な問題に向き合う機会を逃してしまっているという。このような精力剤が市場に流通し、マレーシア人男性を病院から遠ざけ、彼らの性の悩みの本当の原因を追求、治療する機会を奪っているのは残念だ、とタンビー医師は打ち明けた。