2017年12月にリリースされたNIRVANAのTシャツブック『HELLOH?』。制作の中心となったのは、1930年代から1950年代のアメリカンヴィンテージを扱うショップ〈フェイクアルファ(FAKE α)〉に勤める門畑明男。そして、彼をサポートしたのは、NIRVANAのTシャツの価値を上げたとされる古着屋〈ラボラトリー/ベルベルジン®︎ (LABORATORY/BERBERJIN®︎)〉のゼネラルマネージャーであり、自らが運営するセレクトショップ〈オフショア(offshore)〉の的場良平だ。
90年代にリリースされたNIRVANAのTシャツがオフィシャル、ブートを問わず、価格が高騰しているという。また、同様に、カート・コバーン(Kurt Cobain)が着用していたTシャツも高騰しているという。なかには、5千円程度だったTシャツがここ5年で、20万円にまで高騰したらしい。
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そんなタイミングで刊行されたNIRVANAのTシャツブック。門畑明男はなぜ、NIRVANAを、音楽ではなくTシャツを選んだのか。
前編は、NIRVANAを好きになり、カート・コバーンを崇める理由を門畑明男に聞いた。
NIRVANAを知ったきっかけを教えてください?
確か、小学6年生のときに、NIRVANAのカート・コバーンが死んだ、というニュースではじめて知りました。
では、カート・コバーンが亡くなってから知ったんですね。
そうですね。カート・コバーンの写真と『ネヴァーマインド』(NEVER MIND, 1991)のジャケットがTVで流れていたイメージだけが残っていたんですよね。「ふぅん」くらいでしかなかったんですけど、高校生になって、ジャケ買い目的で、タワーレコードのCDを物色していたら、ポップか何かで、『ネヴァーマインド』がプッシュされていたんです。それが、小学生のときに観たニュースとリンクしました。確か1999年くらいだったはずです。
では、高校生のときに、初めてNIRVANAを聴くんですね。最初に聴いた印象は?
視聴機で聴いた瞬間、もう、やばかったです。1曲目じゃないですか「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット(Smells Like Teen Spirit)」。最初、なんとなく聴いていたんですけど、1曲目を聴き終わる頃には、めちゃくちゃカッコ良いな、となりました。2曲目の前に、もう1回「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」を聴いたんです。最初から衝撃でしかなかったです。それで買ったのが最初です。
それまでは、どんな音楽を聞いていたんですか?
カート・コバーンが亡くなるまで、NIRVANAを知りませんでした。けれど、小学生のときから洋楽には興味がありました。父親がTHE BEATLESとエルビス・プレスリー(Elvis Presley)が好きで、車でいつも流してましたから。特に、THE BEATLESは、気がついたら聴いていました。
中学生になると、洋楽ブームがあって、THE BEATLESが自分の周りで流行ったんです。洋楽好きの兄ちゃんがいる友達が、兄ちゃんがつくったミックステープを持ってきて、それをみんなで聴いていました。そのなかにはTHE ROLLING STONESやデビット・ボウイ(David Bowie)なんかと、CHICAGOみたいなポップスのアーティストも入っていました。当時はネットもなかったんで、有名なアーティストじゃないとわからないんですよね。エリック・クラプトン(Eric Clapton)、ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)とか、名前で買っていました。王道から攻めましたね。
年上が好きそうなロックが好きだったんですね。The Beatlesは古臭く感じなかったんですか?
それこそ、親父の影響で聴きはじめたからか、全く感じませんでした。中学で流行ったときも、全部知ってましたからね。B’zとか日本のバンドも聴いていたんで、THE BEATLESもTHE ROLLING STONESも、思ったより激しくないんだな、と感じてました。THE BEATLESは、今でもNIRVANAの次に好きなアーティストですね。
GUNS N’ ROSESをカート・コバーンが批判していたことは有名ですが、GUNS N’ ROSESは聴いていたんですか?
通りませんでした。NIRVANAを好きになってしまったら、絶対聴かないじゃないですか(笑)。ただ、「ウェルカム・トゥー・ザ・ジャングル(Welcome to the Jungle)」だけは持ってます。
リアルタイムで活躍していたアーティストは、聴かなかったのですか?
高校のタイミングで、ハイスタとかメロコアが流行ったんですが、正直自分にはグッときませんでした。ファッション的にも、ピンときませんでした。単純に洋楽を聴くほうがカッコ良いでしょ、と。高2のときにRED HOT CHILI PEPPERSの『カリフォルニケーション』(Californication, 1999)がでて、結構すんなり聴けましたね。あとは、LIMP BIZKIT、SLIPKNOTとか、聴いてましたね。
そんななかで、NIRVANAと出会うんですね?
THE BEATLESとか、今まで聴いてきたバンドと、また違うじゃないですか? 『ネヴァーマインド』は91年のアルバムですが、日本で流行ってたのは、CHAGE and ASKA(チャゲ・アンド・アスカ)の「SAY YES」ですよ(笑)。ズバン、ときた感じです。
その後、どうやってNIRVANAを掘ったんですか?
次のアルバムを聴いたり、日本語訳で出版されている本を立ち読みしたりです。カート・コバーンが何を好きだったのか、誰が好きだったのか、立ち読みで調べました。
歌詞の世界も探求するんですか?
歌詞は全く探求しないです。日本の歌でも、歌詞は覚えていても、どういう意味かまでは考えません。なにを歌っているのか、ほとんど理解していないことが多いです。
NIRVANAが好きになり、バンドをやろうとは思わなかったんですか?
なかったです。カート・コバーンの真似にしかならないですからね。ギターの弾き方や立ち振る舞い、何をやっても、全部真似になると思います。例えば、カメラに向かって唾を吐くじゃないですけど、そんなのも、絶対真似するでしょうからね。
カート・コバーンが何を好きだったかは調べていくんですよね?
それは、そうですね。例えば、ちょうど今回の写真集でも参考文献にしてますが、生涯を綴った『Heavier Than Heaven』って本があって、それは、ただ単にカート・コバーンがカッコ良いから調べてたら、スラスラ入ってきて、色々覚えちゃいました。
例えば、カート・コバーンの、どういうところがカッコ良いんですか?
正直いうと、性格は、カッコ良いとは思わないです。めちゃめちゃ性格は悪いと思いますから(笑)。自分勝手すぎますよね。こういう人たちは、みんなそうなのかもしれないですけど。例えば、気分次第でライブをやったり、やらなかったり、パフォーマンスが全然違ったり、喧嘩の話も本に出てくるんですけど、全部、カート・コバーンが悪いと思うんですよね。なんか本を読んでいて、「ちょっとショックだわ」ってくらい引いちゃう話題もあります。ただ、音楽と声とビジュアルが優ったって感じです。
なるほど。では、音楽的には、どのように掘っていくんですか?
出てるCDやDVDはオフィシャル、ブートを問わず、全部、集めてます。ひと通り聴いて、そのあとは、カート・コバーンが好きだっていうバンドを、全体的に聴いていく感じです。
グランジとか、サブポップのバンドを掘るんですね。
ブートなのかわからないですが、DVDで出ている『サブポップ 2000』のライブ出演メンバーを全部メモって、タワレコで探しました。例えば、MUDHONEYってバンド名をメモって、それを見つけて、とりあえず、良さそうなアルバムを、視聴もしないで、アルファベット順に買い漁りました。
ハマったバンドはあったんですか?
ないですね。
ないんですね?
一応全部買いました。カッコ良いと思うバンドや曲もあったんですけど、ハマったのはひとつもなかったです。多分、昔からポップスもTHE BEATLESも聴いていたからか、「ネヴァーマインド」みたいに、ちょっとポップ性がないとダメなのかもしれません。サブポップのアーティストってポップ性がほぼないじゃないですか? だから、ハマらなかったんじゃないですかね。
グランジ括りでは、どのように掘っていったんですか?
バンドでいったら、SOUNDGARDEN、MUDHONEY、THE JEJUS LIZARD、GREEN RIVERとか、たくさん聴いたんですが、好き、といえるのはNIRVANAしかないですね。NIRVANAは、他のグランジのバンドともちょっと違って、ポップ性があります。そもそも、カート・コバーンが好きなバンドを根こそぎ聴きましたが、基本、あんまり好きじゃないです。パンクもあんまり好きじゃないですしね。
では、グランジが好きというよりNIRVANAだけが好きなんですかね。
確かに、今いわれて自覚しました。グランジは好きではないですね(笑)。
では、NIRVANA以外で、その後、好きになったアーティストはいるんですか?
RADIOHEADはハマりましたね。ライブも3、4回は行ってます。2000年以降に打ち込みが強くなるまでは、狂ったように聴いてましたね。
暗いバンドが好きなんですね?
NIRVANAを聴いたときは暗いってイメージが全くなくて、周りに言われて気付きましたね。もともと静かな曲とか暗い曲が好きだったんで、RADIOHEADもそうですけど、あんまり暗いイメージがなかったですね。
思い悩んでいたんですか?
悩んでたかどうかはわからないですけど、当時、暗い音楽ばかり聴いてました。なぜか、20歳くらいのとき、死んだミュージシャンばかり聴いてましたね。ジョン・レノン(John Lennon)もそうですけど、亡くなったアーティストを洗い直してみたくなりました。その時にTHE DOORSにもハマりました。
尾崎豊もですか?
中学校のときに流行って、その時は、音楽というより尾崎豊ってことで、ヤンキーとか不良とかが聴いてる感じでは聴いていました。好きでしたけど、ハマりはしませんでしたね。
もっと若いバンドは聴いてないんですか?
THE STROKESは3rdアルバムまでは聴いています。偉そうなことをいうようですけど、3rdを聴いて、もういいかなって思っちゃいました。
他にはどんなバンドを聞いているんですか?
THE MARS VOLTAですかね。
NIRVANAとそれらのバンドは、どこが違うのですか? なぜNIRVANAだけ、そこまで好きなのですか?
簡単にいうと若くして散っちゃってるじゃないですか。そうすると、伝説になるというか。次のアルバムを期待していたのにダメだった、っていうのがないですよね。もうちょっと活動していたら、音楽性が変わったとか、もういいかな、ってタイミングもあったかもしれません。カッコ良いままで、ずっと残っていてくれてるんです。ジェーム・スディーン(James Dean)じゃないですけど、近いものがありますね。
なるほど。では、ファッション的には、どのようにハマっていくんですか?
それこそ、20歳くらいになって、NUMBER(N)INE(ナンバーナイン)のおかげで、ファッション以外にも、カタチだけは知っていて、言いかたを知らなかったモノ、表現の仕方がわからないモノが何だったのかわかりましたね。例えば、ロックって括りでしか捉えていなかったモノが、グランジ、オルタナティブだったんです。同時に、NUMBER(N)INEがカート・コバーンが着ていたようなファッションを提案していたのをみて、カート・コバーンが実際に着ていたオリジナルが欲しくなりました。もともと古着が好きだったので、カート・コバーンが実際に着ていたのと、同時代の、できれば同じのが欲しくて探してましたね。その頃にはインターネットも使えるようになっていたので、カート・コバーンが着ていた服を、自分でも調べるようになりました。
では、ファッション的にカート・コバーンを見るようになったのはNUMBER(N)INE以降なんですね。
やっぱりNUMBER(N)INEが大きいんじゃないですか。モヘアのニットで、とか着こなしに目を向けたのは、NUMBER(N)INEの影響が大きいでしょう。もちろん、それ以前から、カート・コバーンを意識したファッションの人は、いたでしょうけど。
カート・コバーンがファッション的に神格化され、広がっていったのも、それ以降なんですね?
一般的にはそうでしょうね。
NIRVANA、つまり、カート・コバーンが好きなんですね。
今もですが、当時はもうカート・コバーンでした。
音楽で衝撃を受けて、なぜ、カート・コバーンの全てを、追いかけるようになるのですか?
ビジュアルに惚れたのかもしれないです。ただ、音楽がカッコ良くないと、どう頑張っても見た目も好きにならないです。逆に、見た目がすごくダサくても、音楽がカッコ良かったりすると、カッコ良く見えちゃいます。カート・コバーンは音楽もカッコ良くて、なおかつ見た目もどストライクでしたね。本当に、モヘアのアーガイル柄のニットに、穴の空いたダメージのジーンズ、CONVERSE(コンバース)のジャックパーセルっていうコスプレもしてましたからね。
音楽は真似になっちゃうから嫌だと言ってましたが、ファッションは真似をするんですね(笑)。
そうですね(笑)。コスプレは、してましたね。
カート・コバーンのコスプレをする前は、どんなファッションが好きだったんですか?
中学のときは古着です。テレビで、浜ちゃんとキムタク、どっちの着こなしがカッコいいか、みたいな番組をやっていて、ダウンタウンが異常に好きだったので、当然、ハマダーになるわけです。REDWING(レッドウィング)に、Levi’sの501の太めの古着のジーンズを履いて、もちろんスカジャンのヴィンテージは、高くて買えなかったんですけど…。でもジーンズだけは古着で買ってました。
当時は音楽とファッションは結びついていたのですか?
全くないですね。単純に音楽を聴いていただけです。ミュージシャンの服装とか、映画のファッションを気にするようになったのは、10代後半からでした。
映画は何が好きだったんですか?
『リーサル・ウェポン』(Leathal Weapon, 1987)とか、『ブレーブハート』(Braveheart, 1995)が好きだったのが、20歳前後になって、『タクシードライバー』(Taxi Driver, 1976)『ゴッドファーザー』(The Godfather, 1972)とか、ちょっとお洒落な映画を観るようになりました。それこそ、メル・ギブソン(Mel Gibson)からのロバート・デニーロ(Robert De Niro)、今はチャップリン(Charies Chaplin)みたいな(笑)。
カート・コバーンを好きになって以降、カルチャーとファッションがリンクしていくんですね。ちなみに、音楽業界ではなく、ファッション業界で働くことを選択したのはなぜですか?
ヴィンテージが好きだったからですね。
NIRVANAとヴィンテージはどっちが好きだったんですか?
NIRVANAですかね。
それなのに、音楽業界に入らなかったんですね。
たぶん、嫌いなものをいっぱい扱いますからね。
ヴィンテージで嫌いなものはないんですか?
今働いているフェイクアルファが扱ってるモノは、基本好きです。
ただ、カート・コバーンが着ている古着と、現在働いているフェイクアルファで扱っている古着は、テイストが違いますよね。カート・コバーンが着ている古着は、一般的にはレギュラーと呼ばれる古着で、フェイクアルファが扱ってる古着は、1930年代から50年代の、いわゆるヴィンテージと呼ばれる古着ですよね?
昔、フェイクアルファには、〈フェイク〉っていう姉妹店があったんです。そこは、レギュラーの古着を扱うショップだったんです。フェイクで接客するときは、穴あきのジーンズにジャックパーセルを履いてカート・コバーンのコスプレをして、フェイクアルファのときは、50年代のヴィンテージのデニムにブーツ履いて、長かった髪は結んで、ヴィンテージのハワイアンシャツを着て、と服装を変えていたんです。どっちも好きだったんで。
カート・コバーンのスタイルとヴィンテージのスタイルは、門畑さんのなかで、共通点はあるのですか?
元々はジーンズが好きで、ヴィンテージといえば、ジーンズしかイメージがなかったんですよ。Tシャツとか、もちろんスカジャン、ネルシャツとか知ってはいましたが、ヴィンテージを着たいとは思っていなかったです。ジーンズは古着で探して、トップスはストリートのブランドでも良かったんです。だから、仕事を探すときも、ジーンズがいっぱい置いてある店を探しました。カート・コバーンが履いている穴があいたジーンズも、50年代のヴィンテージのジーンズも同じように好きでした。
NIRVANAを聴いて衝撃を受け、カート・コバーンのコスプレとヴィンテージのスタイルを、並行させたんですね。
そうですね。
次回は、カート・コバーンのコスプレに始まり、現在100枚ほど所有するというNIRVANAのTシャツを収集するきっかけや、独自の審美眼について、お送りします。
「カート・コバーンに唾を吐かれても…」 NIRVANA TシャツBOOK(中編)はこちら
「カート・コバーンに唾を吐かれても…」NIRVANA TシャツBOOK(後編)はこちら