有名な白人至上主義者であり、〈オルタナ右翼〉(alt-right、オルト・ライト)運動の創始者、リチャード・スペンサー(Richard Spencer)が、2017年1月、インタヴュー中に顔を殴られた。このときの映像ほど、見ていて気持ちいいものはないだろう。この映像により、ネオ・ナチを殴ってもいいか否か、という議論がネット上で盛り上がった。白人至上主義者たちの顔を殴ればいくぶんスッキリするかもしれないが、いうまでもなく、殴ったからといって、彼らをどう捉えたらいいのかはハッキリしない。
しかし、たとえば元ネオ・ナチと話せば理解できるかもしれない、とわれわれは思い当たり、アンジェラ・キング(Angela King)、トニー・マカリア(Tony McAleer)、フランク・ミーインク(Frank Meeink)に話を訊いた。ヘイト団体隆盛の根底には何があるのか、なぜ彼らはヘイト団体を抜けたのか、彼らが考える現在の政治における脅威とは。3人とも元ネオ・ナチで、現在は、ヘイト団体の元メンバーをリハビリする〈ライフ・アフター・ヘイト〉(Life After Hate)という非営利団体の代表を務めている。彼らの活動していた時代、地域はそれぞれ違うので、もちろん、経験も異なる。マカリアは、カナダのネオ・ナチ団体の勧誘担当。キングは、南フロリダの白人至上主義者。ミーインクは、イリノイ州のネオ・ナチ団体の若きリーダーだった。しかし、彼らには共通点がある。人生のなかで、差別をベースとした思考体系を育んでしまう〈条件〉を知悉しているのだ。
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何に惹かれてネオ・ナチ運動に参加したんですか?
フランク・ミーインク:帰属意識に尽きます。集団のいち員なんだ、という感覚です。
トニー・マカリア:ネオ・ナチ運動は、私を受け容れ、承認し、私に力と名声を与えてくれました。食料品店に入って、すごくお腹が空いていたら、ジャンクフードであろうと大量に買い込むでしょう。そんなイデオロギーです。社会に参加した私は、感情的に〈飢え〉ていたんです。
ネオ・ナチ運動に違和感を覚えたのはいつですか? なぜそうなったのでしょうか?
フランク・ミーインク:1993年、19歳でした。単純に期待と違っただけです。〔加入してからたった4年で〕刑務所に出入りするようになるとは思ってもみませんでした。しかし、そこには、肌の色を問わず、私のような経験をしている囚人がたくさんいました。若い黒人の囚人仲間と、塀の外に置いてきたガールフレンドの話をよくていました。お互い、ガールフレンドが浮気していないか心配だったんです。私たちはまったく同じ気持ち、同じ感情を持っていました。でも、私のなかでは、徐々に変化したんです。
アンジェラ・キング:当時、頻繁に報道されていたヘイト・クライムで、私は収監されました。経歴が経歴ですから、きっと刑務所内で虐げられるだろう、と予想していました。もし別の環境で出会ったならば、酷い行為、もしかしたら暴力を加えていたであろう女性たちが刑務所にはいましたから。しかし、彼女たちは、私の素性を知りながら、優しさと思いやりをもって接してくれました。正直、そういう態度に接して、どうしていいのかまったくわかりませんでした。それまでは怒り、憎しみ、闘うだけの人生でしたから。
とはいえ、甘やかしてはくれませんでした。答えたくないような質問もされました。それに答えると、過去の自分がどれだけクソだったかを認めることになるので、答えたくなかったんです。一緒に時間を過ごすようになったグループの大半はジャマイカ人女性でした。そのうちのひとりに質問されました。「私のこともNワードで呼んでいた?」「私のことも傷つけようとしていた?」「もし私の娘がいたら、私もろとも殺そうとした?」…。そこは刑務所ですから、どれだけ居心地が悪かろうと、そこから離れられませんでした。
もし〈転向〉しなければ、昔のあなたは今頃オルタナ右翼に傾倒していたでしょうか?
フランク・ミーインク:間違いないですね。同じ運動です。オルタナ右翼はネオ・ナチよりも小綺麗で、言葉遣いが上品なだけです。かつて私が説いていたのとまったく同じです。全く同じです。
アンジェラ・キング:オルタナ右翼など存在しません。〈憎しみ〉を別の表現で、口当たりよくしただけで、〈白人至上主義〉以外のなにものでもなありません。
私は23歳のときにネオ・ナチ運動から離脱しました。当時、ネオ・ナチの外見はあまりにもあからさまでした。しかし、私たちは、「スキンヘッドをやめよう、タトゥーを入れるのもやめよう、ここまでわかりやすい外見にするのはやめよう、悪い印象、ネガティブさを世間に与えるような犯罪に関与するのはやめよう」と諭されるようになりました。「潜伏せよ。警察官、弁護士、医者になりすますんだ」。そういって然るべきタイミングを伺っていたんです。目的はひとつ、人種間戦争です。
不安を煽りたいわけではありませんが、今、起きている現実…自らを〈オルタナ右翼〉と称し、暴力的極右思想が生みだす無邪気な喜びを享受している世間をみると、ネオ・ナチ以上の恐ろしさを覚えます。彼らの目的は明らかですから。
トニー・マカリア:運動に参加していた頃の私の役割は、不条理を、さも正しいかのように説くことでした。ナチスの思想を援用し、別の言葉に置き換え、あたかも正論であるかのように主張していました。もし、スーツにシャツにネクタイの人間が、大学に進学しろ、タトゥーはやめろ、主流派になれ、と言明すれば、白人至上主義も理屈が通っている、とみんなが勘違いします。私がメンバーだった頃は、そうしていました。20年たったいま、当時の自分の行動を目の当たりにすると、笑えます。オルタナ右翼とは、まさにそんなもんなんです。
過激で暴力的な極右の白人至上国家主義がさらに影響力を強める、という深刻な脅威はあるでしょうか?
フランク・ミーインク:彼らは力を強めていますし、存在感もあります。中心人物には権力があります。スティーヴ・バノン(Steve Bannon)* は国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーに加えられ、リチャード・スペンサーは次の選挙で立候補して勝利するでしょう。彼は適切な選挙区を選ぶでしょうから。
トニー・マカリア:ヨーロッパの若者をリクルートするISのテクニックは、イスラム学者になれる、という類のものではありません。非行に走る若者をつかまえて、組織に参加すれば発見できるであろう〈目的〉や〈意義〉を説いて勧誘します。組織で頑張ればヒーローになれる、と信じ込ませるんです。ヴァイキング戦士のイメージなどを極右は利用します。そういう超男性的なねじれた勇者の冒険譚に自分も参加している、と感じるのは、人生に違和感を覚えている若者たちにとっては、魅力的です。
声を挙げるオルタナ右翼を後押しするのは何なんですか?
アンジェラ・キング:拡散された誤情報でしょう。米国には、生来の差別主義者でもなく、憎悪に満ちているわけでもない人々がたくさんいますが、みんなの人生がうまくいっているわけではありません。裕福ではなく、どうにかこうにか遣繰している人々もいます。自分の家族の面倒も見られない、そんな人々を如何に惹きつけるか、自称〈オルタナ右翼〉が真剣に考えたのは明らかです。そこで利用されたのは〈私たちVS彼ら〉という構図でした。難民や移民は私たちの最大の敵だ、と声高に叫ぶわけです。彼らは、命懸けで逃げてきたのではなく、米国崩壊を企てているのだ、と主張しているんです。