トランスジェンダーにリアルな乳首をデザインする彫り師

眉毛や唇のアートメイクに加え、胸部の手術を受けたクライアントのための3Dの乳輪タトゥーを手がけるターニャ・バクストンに話を聞いた。
Hyperreal 3D areola tattoo after top surgery
乳腺切除術後のリアルな乳輪タトゥー。ALL IMAGES: TANYA BUXTO

ターニャ・バクストン(Tanya Buxton)は、英国チェルトナムのタトゥースタジオ〈Paradise Tattoo Studio〉の創設者/オーナーだ。南国の雰囲気漂う、くすんだピンク色の〈パラダイス〉は、眉やそばかす、唇などのアートメイクだけでなく、胸部の手術を受けたクライアントが3Dの乳輪タトゥーで手術痕を隠す機会を提供している数少ないスタジオのひとつ。鮮やかな色に塗られた扉と植物に埋め尽くされた内装の楽園は、メタル調で威圧的な店が多数派を占める一般的な英国のタトゥースタジオとはかけ離れている。

バクストンの顧客のひとりであるブランドン(プライバシー保護のため仮名を使用)は、4年前に人生を一変する上半身の手術を受けたトランス男性だ。手術を受けた当時、英国は記録的な熱波に見舞われ、術後の傷の回復にも影響があった。ブランドンの執刀医によれば、体が熱を逃がすために発汗し、手術部位が常に濡れていたために、予想どおり傷が癒えなかったという。その結果、生まれつきの乳輪の色素沈着の一部が失われてしまった。

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「手術のおかげで文字どおり人生が変わったので、全体的には満足しています」とブランドンはいう。「でも、近くで見たら気づかれるんじゃないかと、少し人目が気になりました。陸軍所属なので、男性に囲まれているなかで違いを指摘されて自分はトランスだと説明しなくてすむように、できるだけ気楽に過ごせることが重要なんです」

「トランスのための慈善団体の非公開のFacebookグループで、ターニャのタトゥーのことを知りました。グループ内ではみんなトランスフレンドリーな理髪師や医師の情報をシェアしていて、胸部の手術結果を共有するアルバムもあり、なかなかネット上では得られない情報にアクセスできます」

「グループの誰かが2人の〈メディカル・タトゥーイスト〉を紹介していて、そのうちのひとりがターニャでした。施術の結果を見たことがなかったので、インスタで彼女をフォローして質問しました。グループで彼女の名前が挙がったということはトランス男性にタトゥーをしているはずだと思ったので、気軽に質問できました」

現在36歳のターニャは、トランスの人びとが性別適合のための施術を探すことができ、その選択肢の中に彼女のタトゥーを入れてもらうことが極めて重要だと考えている。ゴージャスなメイクをまとってビデオ通話に応じた彼女は、手術によって乳輪や乳首を失ったクライアントに施すリアルな3Dタトゥーの技術について、生き生きと説明してくれた。

──乳輪・乳首のタトゥーを始めたきっかけは?

ターニャ・バクストン:タトゥー・アーティストになって14年になります。最初は一般的なタトゥーをしていましたが、そのあと眉毛、アイライン、唇などの〈​​アートメイク〉と呼ばれるコスメティックタトゥーを始めました。

化学療法で眉毛が薄くなったり、脱毛症に悩んでいるひとなどが眉毛のアートメイクを受けにきます。体の傷を隠すためにタトゥーを入れるひともいます。わたしはずっとタトゥーのさまざまな可能性に刺激をもらってきたので、傷のタトゥーやカバーアップタトゥーはとても楽しいです。タトゥーは芸術作品にとどまらず、それ以上の意味をもつこともあるんです。

あるとき、乳腺切除術の手術痕を隠したいというお客さんから連絡をもらいました。そのときに英国の国民保健サービスが半永久的な乳輪タトゥーを提供していることを知りました。興味が湧いて、もしかしたらお客さんが手術前に撮った写真をもとに、永久的なタトゥーインクで乳輪や乳首を再現できるかもしれないと思ったんです。

──このタトゥーの手順を教えてください。

手順はその人の状況によって異なります。例えば、性別適合手術もしくは乳がん治療の乳腺切除術のあと、2つの全く新しい乳首をつくる場合はゼロから描きます。このような施術のときは、事前にお客さんに胸部の写真を撮ってもらい、それを基にもともとあった胸の再現を試みます。片方だけの場合は、当たり前ですが、もう片方の生まれつきのものに合わせるようにしています。

施術を始めたばかりの頃は、リアルな技術を追求するために、友だちに手当たり次第にメッセージを送って乳首の写真を送ってほしいと頼んでいました。ありがたいことに、友だちの多くが写真を送ってくれました。自分なりの色彩理論を理解することがとても重要で、どのお客さんにもそれを採用しています。素肌のトーンやアンダートーン、髪の色を見て、そのひとに合い、できるだけ自然に見える色のインクを使います。もともとそこにあったように見えるように。それが一番重要です。わたしが目指しているのは、タトゥーとはわからないタトゥーですから。

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Cover-up tattoos provided after top surgery

バクストンのカバーアップタトゥー。

使う器具は従来のタトゥーと同じものです。でも、傷痕にタトゥーを入れるときはきちんと治癒し、できるだけ長く色素が残るように、針を入れる深さを変えるようにしています。

──乳輪・乳首のタトゥーには何色くらいのインクを使いますか?

だいたい8〜12色です。お客さんや肌のトーン次第ですが。どんな乳首かにもよりますね。乳首の周りに凹凸があるひともいるので、そういう場合はより多くの色が必要になります。

──トランスの人びとが性別適合手術にアクセスすることは、なぜそれほど重要なんでしょう?

誰でも自分の体に満足する権利があります。誰だって自分が美しいと思えるようになるべきですし、自信を持てるようになるべきです。

原因が乳がんでも性別移行でも、傷痕は多くのひとにとって隠したいものです。いつもトラウマを思い出させられるのは、誰だって気分がよくないでしょう。最終段階でこういう選択肢があると知ることは、仕上がりを完璧にするためのオマケのようなものだと考えています。何ができるのか、どんな選択肢があるのかを、もっと多くのひとに知ってほしいんです。

@almazohene