ハードコア×炭酸飲料!? ストレートエッジ・インスタグラマー

「お高くとまった連中がクラフトビールを嗜むような、お上品な精神には染まりたくない。げっ、考えただけで気持ち悪い。」
ハードコア x 炭酸飲料!? ストレートエッジ・インスタグラマー

マルク・ストレンベリ(Marc Strömberg)は2つのものに心血を注ぐ。1つはハードコア。スウェーデンのウメオ在住のストレンベリは、REFUSED、 STEP FORWARD、DS-13といったハードコアバンドを輩出した地元のシーンに長年身を置いている。そして、ファンジン作りに勤しむ傍ら、彼自身もHÅLL DET ÄKTAとSWAN SEXという2組のバンドに所属する。そんな彼が夢中になるもう1つのものは炭酸飲料。そう、あのシュワシュワがたまらなく好きなのだ。

ストレンベリは自身が傾倒する2つのものを組み合わせようと決意して、〈Hardcore And Soda〉というアカウント名でインスタグラムを開設した。その投稿ルールは、至ってシンプル。短い動画のなかで、1枚のハードコアレコードのジャケットを背景にタトゥーまみれの本人の手が登場。炭酸飲料の瓶もしくは缶をプシュッと開けて、中身をドバドバとグラスに注いでいき、仕上げにストローが添えられる。動画のBGMは、その動画で紹介しているレコードの収録曲だ。

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この試みは成功とも失敗とも言い難い。しかし、ストレンベリはほぼ毎日のペースで投稿を2018年まで続け、毎回、異なる組み合わせの炭酸飲料とレコードを紹介。その数は370組を超えている。あるときはCONVERGEの『You Fail Me』に合わせて、スワンプポップ社のプラリネクリームソーダをグラスに注ぎ、またあるときはCEREMONYの『Ronhert Park LP』に合わせて、元NBAプレイヤーのシャキール・オニールの顔がデザインされたストロベリークリーム〈シャック〉ソーダの缶をプシュッっと開ける。さらに気分が乗っているさいには、COMBATWOUNDEDVETARANの『I Know A Girl Who Develops Crime Scene Photos』とフェイゴ社のジンジャーエールと組み合わせた。そう、米国のホラーコア・デュオINSANE CLOWN POSSE〈ICP〉の過激な男性ファン=ジャガロたちが手に取る、あの安価な炭酸飲料だ。

そこで「なぜこの2つを組み合わせたの?」「さまざまな〈ハードコアレコード x 炭酸飲料〉のペアリングから、得られたものは?」という疑問が湧いてきた。その真相を探るため、ストレンベリ本人に話を聞いたのだが、それはまさに芳醇なチアワイン(1917年以来生産されている、カロライナビバレッジコーポレーションによるチェリー風味の炭酸飲料)の瓶を手にするような、充足感を感じる体験となった。なかには「チアワインと相性ぴったりなハードコアアルバム」を知りたい方もいるのでは…。ストレンベリによると、どうもそれはJUDGEの『What It Meant: The Complete Discography』らしい。

──単刀直入にですが、なぜこの組み合わせなんですか?
マルク・ストレンベリ:ただハードコアシーンで活動していたいだけなんだ。それに、投稿している炭酸飲料はすべて2015年からスウェーデンに輸入され始めたもので、それまでは国内に存在しなかった。大きな店はようやく品数を増やし始めたけど、それまでスウェーデン人はクリームソーダやチェリーソーダを飲んだことがなかった。だから炭酸飲料は、国内の人々の話題になるし、実際に親しまれ始めたところ。俺自身はストレートエッジだから、ワインやビールといった類を一切口にしない。だから、この〈未知の世界の探求〉はすごくエキサイティングなんだ。実際、2015年までペプシコーラとコカコーラの違いを知らなかった。だから、いろんな炭酸飲料を試して、それとハードコアを組み合わせれば面白いかなって。

──投稿されている炭酸飲料の数に驚かされますが、どこで調達するんですか?
躍起になって国内中を探し回っているし、俺のもとへ送ってくれる友達もいる。俺たちは炭酸飲料に関する情報を共有してるんだ。2016年に国内初の炭酸飲料専門店〈ソーダ・ネイション(Soda Nation)〉がストックホルムにオープンしたけど、そこのラインナップは瓶詰めされた上品なものばっかりで、正直ウンザリ。炭酸飲料の世界にクラフトビールみたいな流行はいらない。炭酸飲料は子どもの飲み物であるべきだし、妊婦は飲まない方が賢明だってくらいに危険な着色がされてなきゃダメ。

──ハードコアレコード x 炭酸飲料のペアリングにおいて、〈いい組み合わせ〉は何によって決まるのですか?
ジャケットの色合いだけで決まる場合もあれば、収録曲のタイトルやバンドの出身地が重要な場合もある。投稿を始めた当初はペアリングの意図を明かしていなかったけど、途中から簡単な説明を添えるようにした。というのも、フォロワーにとってはとても不可解な組み合わせもあるだろうから。カップリングの意図はなるべく明白にしておきたいんだ。例えば、GRAVE MAKERの『Bury Me at Sea』に組み合わせたのは「KEM」っていう変わったフレンチソーダ。このLPには「Cast Away」という曲が収録されていて、それは登場人物が海難事故に遭って、ある島に打ち上げられることを歌っている。そして、このトロピカルソーダの缶にはヤシの木やココナッツがデザインされている、といった感じかな。

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──これまでに「これはヤバい!」と感じたペアリングはありましたか?
AGNOSTIC FRONTとキューバコーラのペアリングは渾身の出来だった。というのもヴォーカルのロジャー・ミレットはキューバ出身だから。あとはBAD BRAINSとボブ・マーリーが缶にデザインされたソーダの組み合わせや、RAGE AGAINST THE MACHINEの1stアルバムとバーン エナジードリンクの組み合わせも好き。あ、それにHARM’S WAYのアルバム『Rust』と缶のデザインが銅缶みたいなホワイト・ロック・ベバレッジのルートビアも悪くない。

──まるでストレートエッジのソムリエですね。
そうだよ。長い間ハードコアシーンをディグってきたし、入手可能な炭酸飲料の瓶や缶はすべてコレクションしてるから。それに、今年の暮れ(2016年末)には自分のソーダを発表する予定なんだ。クラウドベリー味なんだ。だけど、お高くとまった連中がクラフトビールを嗜むような、お上品な精神には染まりたくない。げっ、考えただけで気持ち悪い。そういうのは生理的に無理なんだ。

──プロデュースしたソーダについて詳しく教えてください。
自分でクラウドベリーと手榴弾を組み合わせたロゴをデザインして、そのデザインを採用したシャツやビーニーも作った。それに、そのロゴのタトゥーを自分の顔にも彫ったんだ。クラウドベリーはスウェーデン北部を代表する果実で、収穫するのが本当に難しい。デカい虫や蚊がうようよいる湿地を進んでいき、山を登らないと収穫できないんだ。だから、〈北部の黄金〉とも呼ばれている。世界中のどこを探しても、そんなソーダないだろ!?

──相性がいい盤は?
自分のバンドのレコードかな。最高の組み合わせになると思うよ。

(実際の投稿がこちら)

──動画の撮影後、開封した炭酸飲料はどうしてるんですか?
自分で飲むか、ほかの人にあげてる。

──いままで最悪の炭酸飲料は?
SPIRITSのLPとカップリングして投稿したチェコ産のソーダ。間違いなく、あれが最悪だった。グラスに注いだ瞬間、奇妙な匂いが漂って、味はパンみたいな感じだった。うえっ、思い出すだけで気持ち悪い…。

──逆に、いままでで最高のものは?
ドクターペッパーが大好き。実は2015年の秋まで、ドクターペッパーを飲んだことがなかったんだ。あとはスワンプポップ社のソーダもうまいね。

──スウェーデン人として、米国で流通しているエナジードリンクをどのように捉えていますか? 確かモンスターエナジーやレッドブルの投稿もありましたよね?
うん。それにジョルト・コーラも投稿済み。俺はコーヒーを飲まないんだけど、エナジードリンクはめちゃくちゃ飲むんだ。エナジードリンクを飲めば眠くならないから。スウェーデンにも似たようなのがあるけど、米国のものほどよくないね。国内にもいくつかブランドがあって、味もかなりイケるんだけど、どれもジムでのトレーニングで、水分や栄養を補給する用途で製造されている。

──このプロジェクトに最終目標はありますか?
特にない。既存のものとは違ったことをやりたいだけで、ただ楽しいからやってる。あとは、ポッドキャストでハードコアアルバム x 炭酸飲料の組み合わせについてトークする番組を配信したい。

──実現すれば、私をゲストに呼んでくれますか?
もちろん! 俺の欲しいものリストには、米国に行かないと手に入らないものがたくさんあるんだ。

──レコードのリストですか?
違う違う。炭酸飲料だよ(笑)。


Hardcore And Sodaの更新は2018年で終了している。マルク・ストレンベリのアートや楽曲はこちら:http://www.marcua.com/