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New York Hardcore Punk Guide : CRO-MAGS

確執、泥沼、傷害事件。今回の主役は帝王CRO-MAGS。

「確執…互いに自分の意見を強く主張して譲らないこと。また、そのために生じる不和」清原と桑田、とんねるずとダウンタウン、ダルヴィッシュと上原、爆笑問題と浅草キッド、デヴィ夫人と小島瑠璃子…ああ、すいません、芸能人と野球選手ばかりになってしまったので小沢一郎と菅直人も入れておきましょうか。世の中みんながみんな仲良しってわけではありません。当たり前ですよね。ただねぇ、ここまで確執っちゅーか、泥沼になっているのはそうそうない。なんたって傷害事件にまで発展しちゃったんですから。そう、今回の主役は帝王CRO-MAGS。ニューヨーク・ハードコアの歴史を語る上で絶対に欠かせないオリジネイター。彼等がもし音を放っていなかったら、ハードコアのストーリーは大きく変わり、つまらないものになっていたに違いありません。しかしそのサウンド以上にきな臭いことが多過ぎる!今回はそんな物騒なスメルも含めてCRO-MAGSのヒストリーを追ってみましょう。

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CRO-MAGSが結成されたのは1980年。小学校を中退、12歳からSTIMULATORSというバンドのメンバーであり、フツーにクラブで酒も煽っていたハーレイ・フラナガンと、アメリカ陸軍に在籍し、ヴァージニア州のノーフォーク基地に駐屯していたジョン・ジョセフ…この二人が今回の小沢一郎と菅直人でございます。STIMULATORSとBAD BRAINSによるワシントンDCでのライヴを観に来ていたジョンは、すぐさまハーレイと意気投合。ジョンは軍から逃亡して(既にこれがマズかった)ニューヨークへ行き、BAD BRAINSのローディーになります。そしてデヴィ&小島関係になる以前の仲良しだった二人は、あたりまえのように新バンドを。それこそがCRO-MAGS。ハーレイ14歳、ジョン20歳。でもCRO-MAGSとしての活動はまだ先で、ジョンはBLOODCLOT、ハーレイはMURPHY’S LAW 、そして二人揃ってM.O.I.などにも参加しておりました。

1980 – 1981
ジョン・ジョセフ – ヴォーカル (BLOODCLOT, M.O.I.)
ハーレイ・フラナガン – ベース (ex STIMULATORS, MURPHY’S LAW, M.O.I. )
デイブ・ステイン – ギター (ex EVEN WORSE)
デイヴ・ハーン – ドラム

ほとんど何もしなかったCRO-MAGSを置いて、ジョンはハワイのハレ・クリシュナ寺院へ。彼は、インド神話に登場し、ヒンドゥー教の神の化身であるクリシュナの信仰家だったんですね。(YOUTH OF TODAY~SHELTERのレイ・キャポも信仰家で有名)彼のビーガン・スタイルもここからのものなんです。で、83年にニューヨークに帰ると、いよいよCRO-MAGSは本格的に活動を開始しようとしているところ。しかし既にヴォーカルには違う人がおり、さらにハーレイ以外メンバーは変わっておりました。

1982-1984
エリック・カサノヴァ – ヴォーカル
ハーレイ・フラナガン – ベース
ケヴィン・パリス・メイヒュー – ギター
ウィンストン・チャーチル – ドラム

CRO-MAGSのスネ夫こと、パリスもここからめでたく在籍です。しかしこの時のヴォーカルがあまりよろしくなかったとのことで、ハーレイはヴォーカル・オーディションを実地。ロジャー・ミレットAGNOSTIC FRONT)も受けましたが、ここはオリジナル・メンバーのジョンが勝ち取って元のさやに。マッキーも入ります。

1984-1985
ジョン・ジョセフ – ヴォーカル
ハーレイ・フラナガン – ベース
ケヴィン・パリス・メイヒュー – ギター
マッキー・ジェイソン – ドラム (ex FRONTLINE, URBAN BLIGHT )

そしてこのメンバーで製作したのが『Age of Quarrel』のデモ。さらにライヴ・パフォーマンスも話題となり、CRO-MAGSは一躍ニューヨーク・ハードコア・シーンのトップに躍り出ます。で、もう一人ギタリストとして、ダグ・ホーランドが加入。

1985-1986
ジョン・ジョセフ – ヴォーカル
ハーレイ・フラナガン – ベース
ケヴィン・パリス・メイヒュー – ギター
マッキー・ジェイソン – ドラム
ダグ・ホーランド – ギター (ex KRAUT )

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遂にハードコア史に輝く金字塔的作品『Age of Quarrel』発表するのです。86年のことでした。

どーです!この極悪サウンド!!タフガイ戦士たちによるヴァイオレンス・ハードコア!!怒りと憎しみに溢れ、血管何万本あっても足りないほどの激テンションにシーンは完全ノックアウト。重厚なビートと圧倒的でスラッシーなリフ。そしてジョンのヴォーカルは狂人の域に。いや、マジでスゲエ。ハードコア・クラシックなんて言われるけど、このクラシックは本当に越えることがべリー・ハード。なんでこんなことになったのか怖くて仕方ありませんね。

で、それに伴うライヴも超強力。暴れるしかない!じゃないと殺られる!ハードコア・キッズはもちろん、パンクス、スキンズ、メタル野郎も入り混じっての大打撃戦が毎回繰り広げられました。さらにナチ・バンドのレッテルを貼られ、クスリもまみれて、CRO-MAGSは人気と共に悪評もうなぎ登りとなります。

その後マッキーをクビにしましたが、バンドは好調。MOTÖRHEADやTHE EXPLOITEDなんかともツアーをします。

1986-1987
ジョン・ジョセフ – ヴォーカル
ハーレイ・フラナガン – ベース
ケヴィン・パリス・メイヒュー – ギター
ダグ・ホーランド – ギター (ex KRAUT )
ピート・ハインズ – ドラム (ex MURPHY’S LAW )

しかし、この成功により、ハーレイとジョンの間に不穏な空気が流れ始めます。こっからはどっちが正しいとか悪いとか分かりませんので、それぞれの意見として聞いたくださいませー。

ジョンの言い分
・ハーレイがバンドのギャラを奪った。だからCRO-MAGSを辞めた。

ハーレイ…の子分のパリスの言い分
・まったく歌の進歩がなかったからジョンをクビにした。
パリスの貴重なおもしろインタビューはこちら

そしてジョンは脱退。ハーレイがヴォーカルを担当することになります。

1988-1989
ハーレイ・フラナガン – ベース/ヴォーカル
ケヴィン・パリス・メイヒュー – ギター
ダグ・ホーランド – ギター
ピート・ハインズ – ドラム

1989-1991
ハーレイ・フラナガン – ベース/ヴォーカル
ケヴィン・パリス・メイヒュー – ギター
ロブ・バックリー – ギター
デイヴ・ディセンソ – ドラム

ハーレイ率いるCRO-MAGSはセカンド・アルバム『Best Wishes』を89年に発表。スラッシュ度アップ!超重厚なメタルmeetsハードコア・スタイルは、クロスオヴァー期を迎えるシーンにおいて、これまた名盤とされます。しかし、ファーストを愛するハードコア・ファンにとっては不満の声もあり、CRO-MAGSやAGNOSTIC FRONTなどが、どんどんクロスオヴァー~メタル化していくことへのアンチテーゼとして、YOUTH OF TODAYJUDGEなどのユースクルー勢が生まれたのも興味深い事実なのでした。

しかし、この作品の発表にジョンが憤慨します。

ジョンの言い分
・俺の歌詞を使った。でもクレジットも著作権もクリアしていない。

さらに「ジョンはヤク中だからクビにした」と、ハーレイが言いふらしているとの噂も耳に入って、ジョンは完全にハーレイと袂を分かち、自身のバンドBOTH WORLDSをスタートさせます。

…と、思ったら91年にジョンが本人曰く「仕方なく」復帰。この辺がなんともモニョモニョしてるんですが、92年にサード『Alpha Omega』をリリース。ちなみにパリス、ロブはもう抜けているのですが…

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1991-1993
ジョン・ジョセフ – ヴォーカル
ハーレイ・フラナガン – ベース
ダグ・ホーランド – ギター
デイヴ・ディセンソ – ドラム
ギャビー・アブララーチ – ギター

…これまたゴタゴタ発覚!

ジョンの言い分
・参加していないハズのパリスとロブがギターを弾き、曲も書いており、それをハーレイがパクった。

パリスの言い分
・うん、その通り。

ハーレイの言い分
・曲は全部俺が書いた。

さらにジョンの言い分
・俺のヴォーカルを勝手にハーレイが録り直した。もう訳が分からない作品になった。

確かに居心地の悪いアルバムではありますが、ラップとかスクラッチとかも入っちゃって、ほんのりシンフォニックな感じもスゲエ。超ド級のジャンルレス。今聞くと面白いデス!

で、こんなになっちゃったんだから、ジョンも辞めればいいのにまだやります。契約上の問題だったというけど、ちょっとどうだか…。4thアルバム『Near Death Experience』は93年にリリース。哀愁たっぷりのギターで幕を開けるちょいエモコアクロスオーヴァーもうメタル!!

ただやはりこの時点でジョンとハーレイは、超犬猿の中になっていて、それはどんどん悪化して行きます。で、遂にハーレイが脱退。初めてハーレイ抜きのCRO-MAGSが誕生します。

1993-1995
ジョン・ジョセフ – ヴォーカル
デイヴ・ディセンソ – ドラム
ギャビー・アブララーチ – ギター
ロブ・バックリー – ギター

ただここでまた事件が勃発。裏切られたハズのパリスが再びハーレイの子分になり、二人は警察にジョンは脱走兵だと密告!94年のことです。ジョンはしっかりとお勤めを果たしてすぐに出て来るのですが、それに対し…

ハーレイ(と子分のパリス)の言い分
・俺たちはチクっていない。

…と言い張ります。そんな二人は仲良くWHITE DEVILを結成。

その一方でジョンはCRO-MAGSとして活動を続けます。「契約が切れたら辞める!」と言ってましたが、結局99年までやるワケで。この辺もモニョモニョしちゃうなぁ。

1996-1999
ジョン・ジョセフ – ヴォーカル
クレイグ・セタリ – ベース(ex SICK OF IT ALL , AGNOSTIC FRONT , YOUTH OF TODAY , STRAIGHT AHEAD )
ダグ・ホーランド – ギター
スコット・ロバーツ – ギター(ex SPUDMONSTERS)
マッキー・ジェイソン – ドラム

ただやっぱ名義関係でゴタゴタしていたのか、ジョン組、ハーレイ組とでCRO-MAG JAMやらCRO-MAGS NYCやらAGE OF QUARRELやらWHITE DEVIL/CRO-MAGSやら、ゴチャゴチャのまま2000年代を迎えます。

で、21世紀!そんなしっちゃかめっちゃかの状況に終止符を打つかの如くハーレイ&パリス組が名前を獲得!CRO-MAGS名義としては7年ぶりのアルバムをリリース。その名も『Revenge』!ジャケもばっちりハーレイ&パリス!!WHITE DEVILの曲も再録しつつ、クロスオヴァー色薄めのハードコア作品に。結構ポップな曲もあってビックリ。SUICIDAL TENDENCIESのロッキー・ジョージ参加もミソ。結局現時点でのCRO-MAGS最新アルバムがこれになっちゃうんですが…。

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1999-2001
ハーレイ・フラナガン – ベース/ヴォーカル
ケヴィン・パリス・メイヒュー – ギター
ロッキー・ジョージ – ギター(ex SUICIDAL TENDENCIES)
ライアン・クレイガー – ドラム

2001
ハーレイ・フラナガン – ベース/ヴォーカル
ケヴィン・パリス・メイヒュー – ギター
ロブ・バックリー – ギター
ライアン・クレイガー – ドラム

ハーレイ主導でCRO-MAGSは進んでいきますが、2002年、世界が震撼します!ジョン再加入のニュースが! うお~!!!!

2002
ジョン・ジョセフ – ヴォーカル
ハーレイ・フラナガン – ベース/ヴォーカル
ロッキー・ジョージ – ギター
ゲイリー・Gマン・サリヴァン – ドラム

同時に初来日も決定!まさかのジョン&ハーレイによるCRO-MAGSがここ日本で観られるとは!!…はい、観られませんでした。世界が震えたのは一瞬でした。結局ハーレイが脱退して、ジョン率いるCRO-MAGS NYCとしての来日に。しかし本当にこの辺が分からない。なんでジョンじゃなくて、ハーレイが抜けたのか?パリスが名義商標を持っているとか、ライヴの権利はハーレイが持っているとか、色々言われているのですが、結局現在までジョンがCRO-MAGSをやっているんですね。一体どうなっているんでしょうー。契約社会って複雑~。

ジョン率いるCRO-MAGSはこの後もメンバー交代があるのですが、もう長いんで割愛させて頂きます。最新メンツは以下の通り~。

ジョン・ジョセフ – ヴォーカル
AJ・ノヴェロ – ギター (ex LEEWAY, BOTH WORLDS)
クレイグ・セタリ – ベース
マッキー・ジェイソン – ドラム

で、ハーレイは、HARLEY’S WARをスタート。そのアルバム・タイトルは『CRO-MAG』。相当根深いですね。CRO-MAGSのデモとかライヴとか、更にSTIMULATORSの音源もブチ込みます。来日も果たしました。

一方、ジョンはCRO-MAGSをやりつつ、他分野に進出。自伝『The Evolution of a Cro-magnon』、そしてビーガンの栄養本『Meat Is for Pussies』を出版。更にヨガセラピストから、ニューヨークのパンクからアートにまつわる跡地を巡るガイド・ツアー「ROCK N ROLL HISTORY NEW YORK WALKING TOURS」もスタート。ある意味、文化人のような存在になっていくのです。

ジョン、ジュースとスムージーを作る

ジョン、ニューヨークをガイドする

そんなジョンの活躍もあってか、世間のイメージは「CRO-MAGS=ジョン」「ジョン=正義、ハーレイ=悪」に染まっていきます。ハーレイもHARLEY’S WARとして新曲+来日公演の模様を収めた新作『2012』をリリースしますが、やはりファンは「ファック!ハーレイ!」となっていったのです。そんな風潮の中、最悪の事件が2012年の7月に起こってしまいました。ニューヨークのウェブスター・ホールで行われたCBGB フェスティバルでのSICK OF IT ALL 、CRO-MAGS 、VISION OF DISORDERのライヴのバックステージにハーレイが乱入。当時CRO-MAGSのメンバーだったマイク・カウルズとウィリアム・ベラルド、更にはセキュリティーまでナイフで刺して捕まってしまうのです。もちろんハーレイはその場で逮捕。この事件は一般のニュースでも大きく取り上げられたのです。

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ハーレイ、逮捕のニュース

事件直後のウェブスター・ホール

結局ハーレイは告発されず、出所しましたが、やはりその代償はデカかった。子分だったパリスもこんなことを言っています。

「ジョンを殺れていれば、それで終わりだったのにね。望んでいたことをすべてやり遂げ、ニセMAGSはいなくなり、伝説を取り戻せていただろう。でも実際はつまらないヤツを切りつけてしまった。望んだようなヒーローにはなれなかった。伝説にもなれず、ただの無力な行いだったってわけさ」
パリスのフル・インタビューはこちら

ま、やったことは本当にどうしようもないことなんですけど、ここまでジョンと差が付いちゃうと、ハーレイがちょっと可哀想になってきちゃったり。ジョンだって、CRO-MAGSでの新作をリリースしていないワケですし。なんともかんとも…。でもあれから時は経ち、ハーレイもしっかりと動いています。延期&延期で、まだ出てないけれど、SOUTHERN LORDからリリース予定の新作からデモを公開。これがCRO-MAGSを彷彿させるタフガイ・ハードコア・ナンバー!

そして現在ハーレイが、音楽同様に魂を捧げているのがブラジリアン柔術。もちろん黒帯です。そしてヘンゾ・グレイシーを師範とし、彼の道場ではインストラクターもやっているのです。キッズクラスも担当してます。ステキ!!

で、二人の愛する子供に教えているようで、その姿はパパそのもの。もう悪いことしちゃいけませんよ!!

最近のハーレイ。充実の日々

さて、二人のCRO-MAGS。どっちが本当のCRO-MAGSで、どっちが正しいCRO-MAGSなのか今でも分かりません。でもジョンもハーレイもCRO-MAGSなのは間違いない。だって表現の仕方は違えども、CRO-MAGSとしての誇りを二人はガッチリと強く抱いているのですから。もうこれは一生離さないでしょうね。そして誇りを抱えながら、いつの日か二人が一緒になる日が来たならば、それはとても素晴らしいことになる気がする。それだけ時間が経ったんです。そろそろジョンもCRO-MAGSの新曲を歌いたいでしょう。そろそろハーレイもCRO-MAGSの曲を作りたいんじゃないかなー。なんかそんな未来、結構早く来る気がするー。パリスが邪魔さえしなければね!

オマケ:現在CRO-MAGSのオフィシャル・ページは、パリスが管理しています。これがパリスの個人ページみたいになっていて超引きます。そして面白いです。せひご覧ください。