私が国営ラジオ局でめちゃくちゃ賢そうに喋っている!私は、フランスのテレビ番組で、パチモン・レストランをロンドンNO.1レストランに仕立て上げた件について話をする自分を見ていた。もうやりたくない。自分がテレビに映るのはこれっきりにしよう。ジャレッド・レトやジュリアン・ムーアをはじめとする俳優たちが、自分が出演している映画を観るなんて耐えられない、とグラハム・ノートンに語っていたが、私も身を以て彼らの気持ちを知った。
ドキュメンタリー「偽ウーバー・バトラーを世界中のメディアに送り込む」は、現在Huluで配信中!
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そもそもこの〈本物の〉ウーバー・バトラーのことを私は知らない。私は彼と、ずいぶん前にお別れした。見慣れたウーバー・バトラーは、この10年、ネット上で注意深くキュレーションしてきた、もっと見目麗しいウーバー・バトラーだ。私だけではない。みんなが同じことをやっているはずだ。不安症についてのギャグをツイートするような冷笑的でイヤなツイッタラーの自分、エロい写真を投稿するインスタグラマーの自分など、現代において、インターネットで複数の自己をもつことはどんどん一般化している。
ということは、パチモン・レストランの件で受けなきゃいけない取材にも、ネットのルールを適用してもいいのでは? 取材に次ぐ取材で、自分のキャリアを危険に晒すよりも、喋りが上手く、より耳に心地の良いアクセントで喋る誰かに、自分の代わりにテレビに出てもらったほうがいいのでは? もっとスマートな印象を与える声の持ち主にラジオに出てもらったほうがいいのでは? 〈生身のアバター〉をもつ最初の人間に私がなろう。自分が世間にこう見られたい、と思うような〈自分〉を何人か用意するのだ。よし、自分のそっくりさん軍団をつくり、自分の代わりに取材の場に送り込んでやる。
私には読者のみなさんが何を考えているかがわかる。「ニュースキャスターや記者やプロデューサーたちが、取材に現れた男がニセモノだと気づかないわけがないだろう」。確かにそうだ。しかし、私にはこの計画が成功すると信じるだけの根拠があった。ブラジルのTV Globoに出たときも、日本のバラエティ番組で特集されたときも、すべてのインタビュアーが、私にパチモン・レストランについて同じ質問を投げかけたのだ。取材を受けているのは〈私〉ではなかった。〈私がしたこと〉は世界的に有名になったものの、私自身はそうではなかったのだ。
そこで6週間、私は表に出ることなく、〈より良い自分〉が私として結果を残してくれるかを観察することにした。
偽ウーバーのキャスティング
まずは選考基準を設けた。
1: 髪色はプラチナブロンド
2: テレビでウソをつけるひと
3: 自分よりイケメン
最初の試み:英国 BBC One
ある日の早朝、BBC Oneの「Rip Off Britain」という番組(その名のとおり、ぼったくられたひとたちの番組だ)の調査員たちが私の店にやってきて、ネットのフェイクレビューにまつわるいかがわしい社会の闇についてインタビューをすることになっていた。しかし答えるのは私じゃない。より秀でた偽者の私、トムだ。

トム・リース・ハリーズはウェールズ出身の俳優で、もし私のチャームポイントが、クレヨンで子供が描いたみたいな感じじゃなければ、少し私と似ていると思う。

私はインタビューに向けてトムを特訓した。しかし、これを成功させるには、細部にこそ注意しなくてはならない。そこで私はインタビュー当日に、古きを改め…


新しきを貼った。

曇り空を…

青空に変えた。

準備が終わると、私たちは取材陣が現れるまで何度もリハーサルを重ねた。

携帯が鳴った。彼らが着いたらしい。興奮で震えながら、私は定位置に隠れ、最後にトムに注意を呼びかけ、トムは取材陣を迎えるために出ていった。完全なる沈黙のなかで、小さく話し声が聞こえ…

控えめな笑い声も聞こえた! 第一関門は突破。さて、インタビューだ。

インタビュアーは今朝パチモン・レストランの動画を観ているのに、そしてトムと私の顔はまったく違うのにもかかわらず、バレていない。これはすごいことだ。ぜひとも自分の目で確認しなくては。



驚くべきことだ。そして1時間経ち、取材陣は帰っていった。

さて、残るは最後の関門。放送日だ。
心待ちにしていた運命の日。ついに番組が始まり、パチモン・レストランの話題が触れられると、私は息を止めて、めまいに襲われながらトムが映るのを待っていた。しかし、トムは映らなかった。8分の映像内で、インタビュー映像は全部カットされていた。クソ。何かがおかしいと思われたのだろう。成功させるには、もっと小さなところから始めなくては。よりスマートに。
賢い版 ウーバー:英国 Radio 5 Live
BBCのプロデューサーがのちに教えてくれたところによると、トムのインタビューの問題は、フェイクレビューに関する私(彼)の見解が薄っぺらいことだったそうだ。そこで私は、偽ウーバーの選考基準に新しいポイントを付け加えた。
4: 私のやっていることを理解していて、取材状況にふさわしいひと
たとえば、BBC Radio 5 Liveからのオファー。彼らはフェイクレビューに関する特集を制作中で、パチモン・レストランに関するインタビューでフェイクレビューのモラル問題について語ってほしいと依頼があった。この状況にふさわしい〈私〉は…

賢い版ウーバー、ことピーター・ヤング。彼はこの企画に協力してくれていることからわかるとおり、私のパチモン・レストランと同じようなことをしてメディア業界で悪名を馳せた人物だ。
彼は私とまったく似ていない。しかしインタビューは対面じゃないので問題ない。重要なのは脳ミソだ。社会人類学の知識もあるピーターの脳ミソはふさわしいだろう。
そして朝7時、BBC Radio 5 Liveをつけた私は、夢が叶う瞬間を聴いた。私が国営ラジオ局でめちゃくちゃ賢そうに喋っている!
私は部屋で踊り狂いながら、人生で初めてインテリ風に語る自分の声を聴いた。〈私〉はケンブリッジ・アナリティカに言及し、よく練られた主張をしていた。しかし突然、少し怖くなった。友達の母親から「ずいぶん上品になったね」というメッセージが届いたのだ。まったく私の声ではないのに
この不安は次の日まで続いた。しかしメールが1通、そしてまた1通届いた。そしてその日の午後には、賢い版の私が英国中のラジオ局をまわり取材に答える運びになった。こうして英国民に、私がすごく頭のいい男だと印象づけることができた。ああ友よ、これこそ私が望んでいた展開だ。
だけどひとつだけ、まだ成し遂げられていない〈私〉がいた。セクシーな私だ
セクシー版 ウーバー:インドのテレビ曲 WION
賢い版の私が為すべきことを為したあと、私はWIONという、インド最大の英語テレビチャンネルへの出演を打診された。ラジオのリスナーたちが私をインテリとみなしてくれるようになったので、テレビでは、ずっとなりたかった自分になろうと思った。

セクシーな私だ。
バーニーは182cmを超えるがっしりした体格で、プラチナブロンドの元モデル。Instagramで見つけた。幸運なことに彼は私の記事を読んでくれていたファンで、今回協力してくれることになった。
しかしインドのテレビ番組で、言葉をつっかえながら喋る彼をみながら私は両手で頭を抱えていた。インタビュアーも混乱しているようだった。しかしそれでも、〈告発者〉として紹介される自分をみるのは気分が良かった。
そして番組が終わると、大量に通知がきていた。

数多くの新しいファンが、Facebookで私のページをいいねしてくれていたのだ。インドでのビジネスの足がかりができた。下手な喋りにもかかわらず、セクシー版の私は新しいファン層を獲得することができた。成功だ!
チャーミング版 ウーバー:ブルガリアのテレビ局 NOVA

次は、ブルガリアで人気のニュース番組への出演だった。会話が多く、カジュアルで、くだけた雰囲気の、まさに古典的な朝のニュース番組。この番組にふさわしい〈私〉はすでにいる。最初のインタビューに挑んでくれた、俳優のトムだ。そのときはあまりうまくいかなかったが、あれ以来私たちも、いろいろと学んできた。
インタビュー中、もし難しい質問をされたら…

不測の事態に備えるべし。
カンペのほうを見ずに答えるなんて不可能だと思われるだろうが、そこは手を打った。実際の映像を見てみてほしい。
チャーミング版の私がかけているサングラスに私が映っているが、大丈夫だったようだ。コーナーが終わると、番組は視聴者から〈衝撃的〉なほどの反応を得られたという。今回も大成功だ
スリム版 ウーバー:オーストラリアでもっとも人気のある朝のニュース番組「WEEKEND SUNRISE」
アジア、東欧、そして故郷の英国ではずみをつけてきた私に、次なる大陸からお呼びがかかるのも当然だろう。しかし、オーストラリアでもっとも人気のある朝のニュース番組への出演が打診されるとは、想像もしていなかった。

これは大きな勝負だ。数百万のオーストラリア国民を欺かなければならないし、そもそも私は数ヶ月前に、同じ番組の同じチームの取材を、同じスタジオで受けたばかりなのだ。これはかなりのそっくりさんを探さなければ。

そこで私は実の兄弟であるピートに白羽の矢を立てた。当然、見た目も寄せる。

私はピートに、語ってほしいセリフを一字一句違わずに教えてからスタジオに送り込んだ。
オーストラリアのプライムタイムに、フルHDの高画質で映りながら、スタジオにいるひとたちに、〈言われてみれば似てる〉程度の男を私だと思わせることは可能なのか?

可能だった。
髪型はそっくりに仕上がったし、さらに、ピートにデニムのオーバーオールを着せた。素肌にオーバーオールを着た男を見たら、ひとは混乱する。そうして脳をショートさせたわけだ。
案の定、司会者たちは完全にオーバーオールに気を取られた。そして私が言わせたかったメッセージを完璧に伝えることができた。
「このプロジェクトにおいては、アイデンティティの流動性にすごく興味を惹かれています」「今の私だって、1年前の私とは別人ですから」
見事な成功を収めた。
そして迎えた大団円/チャンスは再び:英国 BBC Radio 2
私自身は6週間、メディアに露出しなかった。偽ウーバーを送り込むことは、私にとっていちいち考えずに行える、ひとつの習慣となった。しかし、このメッセージを受け取ったときはさすがに震えた。

BBC Radio 2のプライムタイム番組だ。リスナーは700万人強。学生時代の同級生、元カノ、将来の雇い主、あるいは将来、どこかのタイミングで私のすごさを知らしめたい相手が聞いている可能性だって高い。ここは絶対に、偽ウーバーでなければ。
しかし問題がある。相手がBBCなのだ。BBCは、これまで唯一〈偽ウーバー〉に引っかかってくれなかった手強い相手だ。
今回のミッションを成功させるには、史上最高の偽ウーバーを用意しなくてはならない。空港レベルのセキュリティと金属探知機をパスし、さらにBBCの社屋で本人証明に使われる写真と比較してもバレない偽ウーバーを。そこで私は、地元のキャスティングディレクターに私の写真を送り、その週、集まった候補者たちとあいまみえた。

リストに書かれた一人目の名前を呼ぶ。

そして審査が始まった。



パチモン・レストランについて尋ねたり:

BBCの社屋で、偽者だと気づいた番組のプロデューサーに責められるという設定でのロールプレイをしたり:

私は何時間も厳しい審査を重ね、候補者を絞った。

そして自問自答した。私はいったいどんな人間になりたいのか?

セクシーな人間だ。私はやっぱりセクシーになりたいんだ。
さあ、インタビューまで残りわずか数時間。準備を進めよう。

まずは〈パチモン・レストラン〉プロジェクトの詳細をセクシー版の私と確認(レストラン開店の夜について、ウーバー・バトラーの兄弟の人数と名前、などなど)。

卓球もした。

BBCの社屋、ウォーガンハウス(Wogan House)から1ブロック離れた場所で、私は自分の携帯と身分証明書をセクシー版の私に手渡した。そして彼はそのままタクシーを降りた。あとは天命を待つばかりだ。
ラジオの周波数をBBC Radio 2に合わせて、私はブラックキャブの後部座席に膝を抱えて座り、歯をくいしばって待っていた。タクシーはロンドン動物園の周りをぐるぐると走っていた。すると携帯が震えた。セクシー版の私からだ。入口のセキュリティで「ちょっとトラブル」があったらしい。しまった。私は運転手に頼んで車を路肩に寄せてもらい、タクシーのドアを開けた。そのとき、司会のヴァネッサ・フェルツの声が聞こえてきて私は動きを止めた。
「フェイクニュースの話題はもう聞き飽きた、というかたにも、ぜひ聞いていただきたい。今日、これから耳にする〈パチモン〉話は、あなたもきっと、初めて聞くはず。ウーバー・バトラーさんは…」

やった!

授賞式
1ヶ月半、〈なんとなく似てる〉程度のひとたちが、私の代わりに私となってバレずに活動する。それは当初、できるはずのない試みに思えた。
しかし、成功した。むしろ上々すぎるほどだ。フォロワーやファンを大勢増やし、国じゅうのラジオ局をまわり、ブルガリアのテレビ番組が〈衝撃的〉というほどの評価を得る手助けをした。そして、少なくとも数人に、私が見目麗しいと思わせることができた。そして何よりも、人生最高であろう栄誉に寄与してくれた。なんと、〈DRUM Online Media Awards〉の最優秀コンテンツクリエイター賞にノミネートされたのだ!

授賞式会場で、司会が候補者たちのあいだを通り抜け、一呼吸置いてから壇上へのぼり、マイクへと喋り出す。
「審査員は、受賞者には多大なる刺激を受けた、と絶賛しています。審査員の言葉を借りれば、このクリエイターは真の天才。その受賞者は…」

「ウーバー・バトラー!」
信じられない、私はやったんだ!!
まあ…

ここでいう〈私〉がヨアキムという名のノルウェー人だとしたら、という話だけど。

ステージへと進み出たヨアキムは、トロフィーを堂々と、高く掲げた。その姿はサッカーW杯のトロフィーを掲げるディディエ・デシャンを彷彿とさせた。
受賞したヨアキムを見ながら、私の両親はこれから先の人生ずっと、間違いなくこの賞のことを誇りに思ってくれるだろう、と考えた。そのとき私は、自分でも想像していなかった感情を抱いた。誇らしさだ。
確かにおかしな話だ。私は実際、何もしていない。しかし、こう見えていてほしいと思う自分の姿をしっかりキュレーションして提示した。勇敢で若く、プラチナブロンドのそっくりさん軍団は、私のアイデンティティを高め、より良い〈私〉となり、私の評判を上げてくれたのだ。私ひとりでは成し遂げられなかっただろう。
私は今回の経験から、〈生身のアバター〉というコンセプトは、すべてのひとの役に立つ、すばらしく画期的なアイデアだと確信した。そこで私は、みなさんにも生身のアバターを体験してもらえるアプリをつくってみた。
その名も〈Oobah.com(ウーバードットコム)〉。以下がコマーシャル映像だ。
より良い〈自分〉をお望みなら、今すぐ〈ウーバー〉にご依頼を!
(追伸:これは本物のアプリです。 www.oobah.comのフォームに情報を入力すれば、すぐに私たちが〈より良い自分〉をお探しします!)
@oobahs / @CBethell_Photo / @Jake_Photo
This article originally appeared on VICE UK.