世界の熱帯雨林の葉が、光合成が機能しなくなる臨界点に近づいていて、その一部はすでに閾値を超えていることが明らかになった。人間活動による気候変動の最悪のシナリオが実現すれば、必要不可欠な生態系が悲劇的な運命をたどることになる、と最新の研究は警鐘を鳴らす。
熱帯雨林は地球上で知られる約半分の種のすみかであり、地球の気候の健康と安定を維持するうえで欠くことのできない役割を果たしている。この豊かな生物群系は穏やかな気温で知られているが、気温が46.7°Cを超えると、日光を植物のエネルギーに変換する基本的な代謝過程である光合成ができなくなるため、熱帯の葉は枯れ始める。
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ノーザン・アリゾナ大学の生態系情報学准教授クリストファー・ダウティ(Christopher Doughty)率いる研究チームは、世界の熱帯雨林の約0.01%の葉がすでに通常年に光合成能力が低下するとされる臨界温度を超えた可能性があることを発見した。今はまだその数はわずかだが、チームは「熱帯雨林が耐えうるのは3.9 ± 0.5 °Cの気温上昇で、それ以上気温が上がれば、代謝機能の潜在的転換点に達する」と予想した。『ネイチャー』誌に8月23日に掲載されたこの論文によれば、前述の結果は気候モデルの「最悪のシナリオ」の範囲内だという。
「我々が熱帯雨林の未来の気温を知りたいのは、それが世界の種の大半を擁しているから」であり、「熱帯雨林の気候調節機能は非常に重要なため」だとダウティ准教授は8月21日に行なわれた記者会見で説明した。
「個々の葉の温度に注目すると、複数のデータセットを通して何度も明らかになり、浮かび上がってきたことは、これらの葉の分布を図式化すると〈ロングテール〉になるということです」と彼は続けた。「つまり、これらが意味することは、樹木についた多くの葉のうち数枚が臨界閾値に近づいているということです」
ダウティ准教授と彼のチームは、まず手始めに、2018年から国際宇宙ステーションで植物の温度を測定しているECOSTRESS(Ecosystem Spaceborne Thermal Radiometer Experiment on Space Station)と呼ばれる放射計で、宇宙空間から赤道付近の森林の温度を測定した。
ECOSTRESSのデータと地表での補足測定結果から、熱帯雨林の林冠のピーク時の気温は平均34℃前後であることが判明したが、一部の地域では40°Cを超える温度が検出された。同一の樹木でも個々の葉の温度が大きく異なるため、研究者たちは熱帯雨林の全ての葉の0.1%が光合成の限界点である臨界閾値の46.7°Cを超えると推定した。
「葉がある温度に達すると光合成機能が停止することは、前々からわかっていました」とこの論文の共同執筆者であるチャップマン大学の植物生理生態学者グレゴリー・ゴールドスミス(Gregory Goldsmith)氏は記者会見で語った。「実際に最初の測定は150年前に行なわれましたが、今回の研究は熱帯雨林の林冠がどれほど限界に近づいているかを立証した初めての研究です」
「個人的な見解では、信じられないような話ですが、木々が死に絶えている理由を我々がいかに理解できていないかを示すという意味で、この研究は非常に重要だと考えています」と彼は続けた。「木が嵐でなぎ倒され、根を失えば死ぬことはわかっています。火によって枯れることもわかっています。ですが、熱、干ばつ、水、気温の複合作用の影響についてはほとんどわかっていないのが現状です。この研究は、その不足分を補う大きな足がかりになると考えています」
地球の気温が上昇するにつれ、より多くの熱帯の葉が光合成機能の限界を超え、枯死に追い込まれる。研究者たちは彼らのモデルにはまだ不明点が多いことを強調するが、約3.9°Cの気温上昇が熱帯雨林の大規模な光合成機能の崩壊をもたらす可能性があると警鐘を鳴らす。この気温上昇の推定値は、人類による温室効果ガス排出量は2080年以降まで減少しないとされている気候モデルの範囲内だ。
その一方で、気候シナリオにかかわらず、熱帯雨林が限界に達する可能性があると想像すると恐ろしくなる。この重要な生物群系の崩壊は、世界の気候と生物多様性に、広範囲かつ壊滅的な波及効果をもたらす恐れがあるのだ。とはいえ、ダウティ准教授と彼のチームは、人為的な気候変動の主な推進力となっている化石燃料の消費を迅速に減らすことで、この大惨事を回避できるかもしれない、と強調する。
「炭素、水、生物多様性という極めて重要な領域の運命(中略)その決定権はまだ我々の手の中にある」と研究チームは論文で述べる。「気候変動と世界各地での森林破壊の組み合わせは、地球上で最も気温の高い熱帯雨林地帯を臨界温度間近、もしくはそれを超える高温にさらしている」
「したがって、本研究の結果は、気候変動緩和の意欲的な目標と森林破壊の抑制によって、炭素、水、生物多様性という重要な領域を臨界閾値以下に抑えることができるということを示唆している」とチームは結論づけた。