超富裕層の子どものナニーが語る、悪夢のような実体験

「ふたりは飼っていた馬のフンをつかんで、私に向かって投げつけてきました」
AJ
illustrated by Alex Jenkins
BA
translated by Becky Aikman
Nannies Super Rich Kids Wealthy Horror Stories Babysitting
Illustration: Alex Jenkins

銀行口座の残高がゼロに近づき、バスルームの黒カビを見て、人としての感覚を取り戻さなければ、と思うと、しぶしぶネットでこう検索する。「クールな仕事」。たとえば外国へ行けて、再び学生にならずともそれなりの額が稼げる仕事だ。それらの条件をほとんどクリアしている仕事といえば、ナニー(住み込みの家政婦に近いベビーシッター)である。

賃金も悪くなく、立派な邸宅にタダで住めるのは魅力的だ。1日中子どもたちとジャガイモスタンプでお絵描きしていればいい。しかし、ナニーを雇うことのできる家庭は超裕福であることが多い。そして純資産が一定の値を超えると、人間として〈マトモ〉であることは望めない、というのが常識だ。超富裕層は、宇宙に移住しようとするとか、何だかおかしなことばかりしている。

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しかし、超裕福な家庭のお子様に仕えるというのは、実際どういう経験なのだろう。親子ともども最悪なのだろうか? ナニーとして働いた経験のある元ナニー、あるいは現在進行形で働くナニーたちに、ぶっとんだ体験、悪夢のような体験をシェアしてもらった。

「子どもに包丁を向けられました」

ボローニャの街の中心から少し外れた地域にある豪華絢爛な邸宅に暮らす家族のもとで、オペアとして働きました。子どもは、もうすぐ7歳になるひとり息子。何度か事件が起きました。契約期間が終わりに近づいていたある日、彼が私の顔の前に包丁を突き出してきました。母親は「それを下ろしてくれる?」と言っただけ。

それと同じ日、彼は木製のお玉をキッチンから持ち出して、私の脚を殴打してきました。痕が残るくらいに強くです。でも彼の両親はまったく気にせず、何の行動もとりませんでした。多分私のことは、人間というより便利な道具として見ていたのだと思います。―エマ

「パスタをゆでる鍋に水を入れすぎて叱られました」

私はボストン郊外の町でオペアとして働きました。怒りをコントロールできない医者の母、常に怒鳴っているCEOのドイツ人父、そして12歳、15歳、18歳の子どもたち、という家庭でした。お金持ちなのだけれど、質素な家庭に見えました。なぜなら、あらゆる物を信じられないレベルまで使い続けるからです。クッキングシート、アルミホイル。残り物はどんなに少量でも捨てません。犬のフンを入れる袋もです。コンポストに入れて「きれい」にします。

何度か学校まで車で向かい、子どもが切り刻んだ朝食のリンゴの残りを本人に手渡すこともありました。ゴミにしないためです。また、パスタをゆでる鍋に水を入れすぎて叱られました。家族が不在にしているときは、ゴミを集めて袋にまとめ、町なかのゴミ箱に捨てていました。―ラナ

「母親が娘を学校に通わせなくなり、私が彼女にとっての唯一の教育機会となりました」

10年近くナニーとして働いています。最近では、サンタクラリタ・バレーに暮らす弁護士の母と9歳の娘の家庭で働きました。娘の読書を手伝うために雇われました。でも、すぐに家庭教師のような扱いになりました。3ヶ月経たないうちに、母親が娘を学校に通わせなくなったんです。これは違法行為です。そうして私が彼女にとっての唯一の教育機会となりました。使用する参考書も、私が休みのときに選びました。

全カリキュラムを私が組みました。読み書きも、算数も、それ以外の教科も。私は教員免許も持っていないのに、です。母親の私に対する態度はひどいものでした。ドタキャンをしたり、支払いが滞ったりしたこともありました。―イーサ

「お花が咲く庭をつくりたい、という少女のために、母親はマンション1棟を買いました」

僕は日本で、ある少女のナニーとして働いています。彼女の両親の仕事は、自分たちの不動産会社の経営でした。いちばん驚いたのは、少女がお花が咲く庭をつくりたいと言ったときのこと。すでに自宅に広い立派な庭があるのですが、庭師が子どもに荒らされるのを嫌がったんです。

彼女は隣の土地の一区画を見て、「あそこにお庭をつくりたい」と僕に言いました。あそこはあなたのおうちじゃないからできないよ、と伝えると、「ママに頼んでみる」と答えたんです。そして実際、母親は隣の土地の所有者に、土地を買いたいと連絡しました。販売はしていない、という返事だったのですが、母親は、そこに建つマンションをまるまる1棟買ったんです。もちろん、土地も含まれています。すべて、家の隣に庭をつくりたいという娘のためです。―ジェイク 

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「1週間で出ていくよう言われました」

僕は英語を習得するため、パートナーと一緒にヨーロッパから英国に移住し、ふたりでナニーとして働き始めました。僕たちの雇い主夫婦は、バッキンガムシャーの高級住宅地に引っ越したばかり。180万ポンド(約2億7000万円)の新居に、新しいペット、新車、そして新しいナニー(僕たちふたり)を揃えていました。でも僕たちに対する扱いはひどいものでした。たとえば、引っ越す前には私たちも夫婦の車を使っていい約束だったのに、いざ引っ越したら車は使うなと言われたり。

そして、働き始めてから2ヶ月も経たないうちに、突然契約を反故にされました。夫のほうが大企業をクビになったからです。もともとは1年の契約だったんです。契約書を見せてくれ、と頼んだら、妻のほうに「失くした」と言われました。でもウソだと思います。私たちにキャンセル料を払いたくなかったんじゃないかな。しかも僕たちには何のツテもないのに、1週間で出ていくよう言われました。その1週間は、家にある牛乳とバター以外の食料は触ることも許されませんでした。―ピーター

「ふたりは飼っていた馬のフンをつかんで、私に向かって投げつけてきました」

コルシカ島の山のなかに住む家庭で、短期間ですがオペアとして働きました。家の周りはすばらしい環境でした。母親がレストランを経営していて、プールもついている。美しい景色でした。息子ふたりは、初対面のときはとてもかわいい男の子たちだと思いましたが、翌日になると豹変。これまでに会ったことのないタイプでした。彼らは馬を3頭飼っていたんですが、ふたりはそのフンをつかんで、私に向かって投げつけてきたんです。

あと、牧場の周りで暮らすノラ猫がいたんですが、ある日ふたりはその猫をつかまえて、食料や水を与えずにケージに閉じ込めたんです。それを見つけたときはさすがに激怒しました。しかも、ふたりはどこでもオシッコをするんです。プールの周りでも。すごく不衛生ですよね。でも母親がそれについて叱ることはありませんでした。私に銃を向けてきたこともあります。どうやら家のなかに銃を置いていたみたいなんです。犬と一緒に狩りをしていたので。それが最初の3日間で起こりました。なので辞めます、と伝えました。限界でした。―ナオミ

「こちらが赤ちゃんから目を離す瞬間を狙っていたのでは」

勤務初日のことでした。父親が、15分外出する、と言って出かけましたが、1時間経っても帰ってきませんでした。なので赤ちゃんを寝かしつけました。そこでどうしてもトイレに行きたくなり、ベビーモニターを携帯してトイレに行きました。するとそのあいだに父親が帰宅したんです。彼は赤ちゃんの寝ている部屋に行って話しかけ、おむつを替えに別の部屋に移動しました。その姿がモニターで確認できました。

トイレから出ると、お昼寝中にトイレに行ったことについて、「困るよ」と注意されました。赤ちゃんはちゃんと安全な場所に寝かせていた、と説明したんですが、もしかしてこちらが赤ちゃんから目を離す瞬間を狙っていたのでは、という気がしたんです。なので辞めることにしました。―ジェス

@AnnaVictoriaSam