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もう見終わった?ブレイキング・バッドの映像的魅力に迫る

アメリカ・ドラマ界最高のエミー賞を受賞した『ブレイキング・バッド』、脚本もさることながら映像への評価も高かった。言葉だけでは語りにくい映像の面白さを見せてくれた作家のkogondaに、The Creators Projectはインタビュー。作風誕生の背景から作家主義に対する考え方まで、色々な話を聞いた。
25.11.14

麻薬ビジネスに手を染めた高校教師が堕ちていく様

2014年8月にアメリカ・ドラマ界最高のエミー賞を獲得した『Breaking Bad』(※1)。冴えない高校教師がある日余命を宣告され、家族に財産を残そうと始めたクリスタルメス精製が次第にビッグビジネスとなり、次第に道を踏み外していく…ざっくりとまとめれば、そういう話だ。

『Breaking Bad』

舞台は、ニューメキシコ州アルバカーキ。第1話の冒頭、アメリカの映画でよく目にする赤茶けた砂漠に、一本のズボンが舞う。ひらりとズボンが落ちると、その上をでかいトラックが轟音を鳴らしながら走っていく。それを運転するのは、パンツ一丁でガスマスクを付けたおじさん、主人公のウォルターだ。警察に追われているのか、岩に突っ込んでしまった彼がトラックから飛び出すと、家族に向けてビデオメッセージを残す。物語はそこから始まる。 麻薬ビジネスに手を染めたことで人生が破滅していくという設定自体はさほど珍しいものではないが、普通のおじさんを主人公に、暴力やドラッグといった重いトピックを扱いつつ、力を握っていくウォルターの抱える葛藤なんかがしっかりと描かれていて、脚本に対する評価が高い。企画、製作総指揮、脚本を務めたのは、ヴィンス・ギリガン。放送回によって監督は異なるが、毎回しっかりと映像で見せてくれるところがいい。 裏社会をスタイリッシュに描くのが通例かもしれないが、普通のおじさんである主人公のウォルターが少しずつ、でも確実に落ちていく様にドキドキさせられたのは何故だろう。

ドラマの緊張感を作り出すカラクリ

『Breaking Bad/POV』kogonada

『Breaking Bad』の緊張感を作り出していたのは、一つ一つのシーンだろう。映像作家kogonadaは今回、POVの手法で撮られたシーンだけを抜き出し、ドラマの映像的魅力を解剖してくれた。 彼はこれまでも、スタンリー・キューブリックやヴェス・アンダーソンといった監督の作品からモチーフを抜き出し、数々の魅力的な見方を提示してきたが、素性のあまり知られていないkogondaに対し、The Creators Projectはインタビューを敢行。彼の作風が成立した背景から、作家主義について、色々な話をしてもらった。 ーバックグラウンドを教えて。 大学では小津安二郎の映画を勉強してた。卒論を書いてる途中で飽きちゃって、自分で映像を作り始めたんだ。 ー自分の作品をどんな風に定義してる?ビデオ・エッセイ(※2)?スーパーカット(※3)? 自分の作品を出すまで、スーパーカットっていう言葉を聞いたことがなかった。今は、ビデオエッセイの方がしっくり来るかな。 ーどうやってこのアプローチに辿り着いたの? なんとなくかな。みんなと同じように、ネットにあるオリジナル映像が面白くなってきたなと思ってて。昔は美術館とかフィルムフェステバルでしか目にしなかったようなものが、今はオンラインで見られるし。物語もドキュメンタリーもエッセイも、あるいは実験的なものも含めて、映像に対する欲求が高まってるのかもしれない。だから自分も、短い映像でやってみることにしたんだ。 ネット上のオーディエンスは、メディアに対してかなり洗練された目を持ってると思うんだ。他の世代だったら当惑してしまうようなものでも、寛容に受け入れてしまう。オンラインで見せる映像にどんな形式がふさわしいのか、僕も模索中なんだ。でもすごく楽しいよ。昔は映画を撮るにも、たくさんのスタッフとか時間が必要だったけど、今や自分がアイデアさえ持っていれば、短い時間で作れちゃうからね。 ー制作のプロセスについて聞きたいんだけど、まず監督から選ぶの?例えば、今回はキューブリックにしよう、みたいな。あるいは、まずモチーフを見つけて編集を始めるの? 僕は映画狂だからね。一人一人の監督が持つ独創性、いわゆる「オートゥール(Auteur)(※4)を信じてるんだ。だからまず、監督の癖みたいなものを見つける。けど現実に、本当の独創性とか独自の美学を持ってる監督はそんなに多くない。その限られた監督の作品のどの部分を使えば上手く繋ぎ合わせられるか、考えていくんだ。 独特の美学を持つ監督の作品には、いくつものテクニックが使われているんだけど、僕の作品ではその一部にフォーカスするんだ。単に羅列するってよりも、全体のバランスをみながら、観ていて面白いものを作りたいと思ってるけど。 ープライベートでも映画を観る?そういうときもテーマとかテクニックについて考えるの? もちろん、機会があればいくらでも映画を観てるよ。特定の作家に限って観ることはないかな。テーマとかテクニックについては、意識してるわけではないけど、気付いてしまうんだ。 ー「オートゥール」について、もう少し話してほしいんだけど。例えば『Breaking Bad』みたいなテレビシリーズだと、複数の監督がいるよね。そういうときは「独創性」について、どう考えたらいいのかな? 映像制作は、色々な人との共同作業だと思ってる。テレビなんてまさにそうだよね。何が独創性なのか、それが誰の独創性なのか、見極めるのが難しいときもある。例えば『アメリカン・ビューティー』だって、サム・メンデスよりもアラン・ボールのが有名だろ。メンデスは映画界で「オートゥール」なのかって言われたら、正直分からない。彼の作品は、彼と共に作品を制作した人たちによって、特徴が作られてるからね。 それでも、作品の美学や精神性みたいなものに対して責任を負っているのは、監督に違いない。もちろんインディペンデントでない限り、プロデューサーやスタジオとどう関係を築くかが重要になってくるけど。『Breaking Bad』の例で言えば、本当に監督の「auteur」があるかは分からない。けれど、独自の美学がそこにあるのは確かだ。

正直よく分からない、映像の見方

「映像の面白さ」なんて書いてみたが、実際よく分かってないというのが正直なところ。ただkogonadaの作品を見ていると、作家がどういう意図を持ってそのカットを選んだのか?主観的な目線で登場人物を撮ったのは何故か?ほんの少しだけ想像力が湧いてくる。ドラマなんてストーリーさえ分かってればいいやという視聴者も多いだろうが、『Breaking Bad』は確かに、シーンの一つ一つに撮った人の意思を感じる作品だった。今後映像の見方が変わりそうだ。kogonadaさん、ありがとう。