10年間プライベートゾーンにピアスを施術してわかったこと

想像を絶する痛みが乳首と性器にあるのでは? そして、性生活にはどんな影響があるのかを陰部ピアスのプロに聞く。
Shamani Joshi
Mumbai, IN
NO
translated by Nozomi Otaki
Nipple genital piercings pleasure
Photo by Laker / Pexels

性器に針を刺すと聞くと、勇敢だと感じるひともいれば、背筋がゾッとするひともいるだろう。ピアスは意見の対立を招く。それが生殖器の付近ならなおさらだ。しかし、これまで数百人のヴァギナやペニスにピアスを開けてきたミスター・ピアッサーにとって、陰部ピアスの世界は、快感、痛み、美しいジュエリーの3つを同時に享受できる〈遊び場〉だという。

ミスター・ピアッサーというあだ名で知られるプロのタトゥーアーティスト/ピアッサーのジェイソン・デスーザ(J’son D’souza)が2005年、インド最大の都市ムンバイにスタジオをオープンしたとき、彼は陰部ピアスへの認識や理解の欠如に気づいた。これらのピアスはヨーロッパではセンセーションを巻き起こしたが、デスーザによれば、インドで注目を集め、受け入れられるようになったのはここ10年のことだいう。

「何年か前、陰部ピアスについて知りたがっている友人の友人と話をしました」とデスーザは語る。「彼女から陰核包皮のピアスに興味があると聞いて、それについて勉強を始めたんです。私にとっては新たな領域で、身体の部位や人体の構造、治癒、アフターケアについて多くを学ぶ必要がありました」

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10年以上陰部にピアスを開けてきたジェイソン・デスーザはここ最近、人気の高まりを実感している。PHOTO COURTESY OF J'SON D'SOUZA

初めて陰部にピアスを開けたときは少しぎこちなかったという。「数週間このピアスの開け方について念入りに勉強したあと、初めてなのでうまくやるには時間がかかるだろう、と彼女に伝えました。彼女は陰核にピアスを開け、そこに小さな手錠の飾りをつけました。気に入ってくれて、今もつけていますよ」

性器ピアスにまつわる最古の記述は、セクシュアリティ、エロティシズム、充足感に関するサンスクリット語の文献『カーマ・スートラ』にある。この文献は、飾りピンやペニスに挿入する装飾品としての性器のジュエリーだけでなく、パートナー双方の性的快感を増すための手段としても言及している。プライベートゾーンをピアスで飾った最初の部族はボルネオ島のダヤク族とされていて、亀頭の骨を貫通するものが多い。

現代の陰部ピアスの世界は、かなり広範囲にわたる。ピアスが開けられる箇所は、乳首、陰核、ヴァギナの外側にある大陰唇(正確に言えば外陰部だが、ヴァギナのほうが一般的に使われている)、ペニスの先端、包皮、陰茎、陰嚢などだ。

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ベテランピアッサーによれば、スタジオで最もオーダーが多いのは乳首のピアスだという。PHOTO COURTESY OF J'SON D'SOUZA

しかし、なぜよりによってプライベートゾーンにピアスを開けたくなるのだろう。想像を絶する痛みがあるのでは? そして、性生活にはどんな影響があるのだろうか。

実際のところ、陰核など、ピアスを開ける場所によっては、自分に触れなくてもオーガズムに近い快感が得られるようになる。

「これらのピアスをする理由のひとつは、装飾のためです」とこのベテランピアッサーは説明する。「別の理由は、性的興奮を高めるためです。外陰部に縦や横に貫通するピアスを開けると、宝石が常にそこに軽く触れたり、擦れたりするため、セックスやオーガズムがより激しいものになります」

陰核にピアスをする主な目的は快楽の追求だが、その見た目に興奮を覚えるひともいるという。「スティグマトフィリアは、特に陰部にピアスやタトゥーのあるパートナーに性的快感を覚える人びとを指す言葉です。つまり、ピアスによって性体験がより刺激的になるんです。そのため、パートナーと一緒にピアスを開けにくるひとも多いです」

ペニスのピアスは、性行為中の相手の快感を高める効果もある、と彼は付け加えた。「プリンス・アルバート・ピアス(尿道にジュエリーを挿入し、亀頭の裏側へ貫通させるピアス)も性的興奮を高める効果があります。ペニスの先端に太いリング状のジュエリーをつけるひともいます。このピアスは背面騎乗位や後背位のような体位のときに外陰部の上側のGスポットの近くに当たるので、女性の快感を高めます」

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性的快感を最大限高めるために陰核のピアスを選ぶひとも多い。PHOTO COURTESY OF J'SON D'SOUZA

デスーザによれば、乳首ピアスの料金は2500ルピー(約4300円)、性器ピアスはクライアントが希望する場所やオーダーの複雑さによって異なるが、4000〜8000ルピー(約6900〜13800円)だという。

デスーザが施術してきたなかで特に多いピアスは陰核包皮、プリンス・アルバート、乳首のピアスだ。乳首を引き出すためにピアスを開けるクライアントも多く、内側に引っ込んでいたり平らなままの乳首を引っ張り出すためにジュエリーを使用する。

「最近、21歳くらいの女性が来て、陥没した乳首を矯正するためにピアスを開けました。その後、彼女からピアスで自信を持たせてくれてありがとう、というお礼のメッセージが届きました。彼女は陥没乳首のせいで寄宿学校でいじめられ、共有のバスルームでクラスメイトに〈奇形〉と呼ばれたこともあるそうです。こういうときに、ピアスの持つ力に気づかされます」

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デスーザのクライアントのなかには、性的暴行のサバイバーで、自らの身体を取り戻すために乳首ピアスを開けるひとも多い。「あるサバイバーは、これは自分なりの報復であり、トラウマ的な出来事に対して自分の強さや克服を示すための手段だと話していました。ピアスを通して人びとの自信を高める手伝いができたと思うと、また別の感慨がありますね」

そのいっぽうで、痛みに快楽を見出してデスーザのところにやってくるクライアントもいる。

「大陰唇の両側に3、4個ずつピアスを開けてコルセットのようにチェーンを通す、性器コルセットと呼ばれるピアスを開けたこともあります」と彼は説明する。「ピアスにチェーンを通し、縦横に引っ張ることのできるサスペンションピアスも、とても人気があります」

インド国外のクライアントから受けたさらに過激な要望には、ヤコブの梯子(ペニスに複数の棒を貫通させて梯子に見立てる)、約200グラムのジュエリー、貞操帯(ペニスに穴を開けてチェーンをつけ、中にしまい込む檻のようなピアス)などがある。

「施術中の痛みから快感を得るためにピアスを開けるひともいます。私たちはこれをニードルプレイと呼んでいます」

実際、デスーザが性器にピアスを開けている最中にクライアントが性的興奮を覚える場合もある。

「当たり前ですが、動いたりぬめりが多すぎたりするとピアスの施術が難しいこともあります」と彼は説明する。「ですから、そうなった場合は、そういう気分から抜け出せるような話題について話してもらうようにしています」

デスーザは自身の経験や専門知識に基づき、施術前にあらかじめ痛み、影響、アフターケアについて必要な情報をすべて伝えることで、クライアントにとってより安全な空間を築くようにしている。陰部ピアスの施術については、婦人科医のように専門性の高いアプローチをとっているという。しかし、よりリラックスして施術を受けてもらうために、デスーザのチームには女性も在籍している。

「私が陰部ピアスを開けるときは、常に話しかけ、どんな施術を行なっているのか逐一説明するようにしています」と彼はいう。「ときどき『ものすごく痛かったらどうしよう』という不安や恐怖でビクッとしたり飛び上がるひともいますが、万全を期すために、そのひとが落ち着き、どんなことにも冷静に対処できる準備が整うまでは施術を始めることはありません」

堪え難い痛みを予想するひとも多いだろうが、実際は想像ほどひどくはない。「身体の部位によって痛みの度合いは異なりますし、痛みの閾値にも個人差があります」と彼は強調する。「でも、たいていのひとはものすごく痛いだろうと覚悟して来るので、実際は大したことなかったな、と思うことが多いようです」

しかし、思わぬトラブルもある、と彼は警告する。

「私のクライアントの多くは空港の金属探知機で止められるので、レントゲン写真を持ち歩くことを勧めています。また、包皮にピアスを開けた男性のクライアントがある女性に口でしてもらったら、その女性が歯の矯正をしていた、なんてこともありました。その後どうなったかは想像がつきますよね。ペニスにピアスをしている別のクライアントも、相手の歯が引っかかったと話していました」

予防措置として、デスーザはいつもクライアントとじっくり話し合い、ピアスが性生活やパートナーとの関係に与えうる影響について説明するようにしている。

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「性器にピアスを開けると、金属の身体への影響は避けられません。性的な観点からいえば、行為中の力加減など、いくつか調整が必要なことを理解しなければなりません」

この記事を読みながら震え上がり、わざわざこんな痛みを体験するなんて正気の沙汰ではないと考えるひともいるかもしれないが、ピアスを開けるためにデスーザのスタジオを訪れるお客さんは増え続けている。

「以前は陰部のピアスのオーダーは月に8〜10件でした」と彼はいう。「今は1週間に同じくらいのオーダーがあります」

デスーザは、パンデミック後の風潮が、人びとが陰部ピアスに挑戦してみようと考える理由だとしている。「ロックダウンが終わってから、みんな自由な自己表現に対してより大胆になった気がします。ずっとやってみたいとは思っていたけれど、不安やタブー視されていることが原因で実際に行動に移す勇気がなかったというひとも多いはずです。でも今は、それが少しずつ変化している。すばらしいことです」

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