私は、霊性の面で混乱した環境で育った。4人きょうだいの末っ子として私が生まれたころ、すでに、両親は、正装の子どもたちを礼拝に連れていくのをあきらめていた。だから、私は、聖書をよく知らない。しかし、毎年、夏になると地元の教会の〈夏休み聖書スクール〉(Vacation Bible School)に参加させられた。ベビーシッターを雇うよりも安かったからだ。
南部バプテスト連盟が主催する聖書スクールは、厳しかった。ちょっとでも嘘をついたら地獄の業火に永遠に焼かれる、という教えに私はおびえた。一方、カトリックの聖書スクールでは、ほとんど1日中、外で遊んでいた。〈化体説〉など理解できない幼い頭に、バロック時代からの信仰システムを染みこませようとはしていなかったのだろう。私がいちばん好きだったのは、メソジスト派の聖書スクールだ。同派の信仰心がそこまで強くないような気がしたのだ。ただ、芸術や工芸への熱量がすごかった。マツボックリとピーナツバターでつくった鳥のエサがキリストの死と復活とどんな関係があるのかは知らない。だけど、接着剤でどれだけベタベタになっても、キリストは私を愛している、と同派では教わったので安心した。
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様々な宗派に触れた私は、真理がひとつではない、ということを学んだ。バプテストの聖書スクールに参加させられる子どもが不憫でならない。毎週、モダニスト風のダサいステンドグラスで飾りつけられた風通しの悪い教会に通わなければならない子どもたちは、さらにかわいそうだ。子どもたちは、恐がっている。教会でいう〈神様〉は、すぐ力に訴え、叱りつけてくる怖い存在で、楽しいこと、おもしろいこと、すべてを軽蔑しているからだ。しかし、ひとつの宗派しか知らない信徒の大勢は、いわれたことを真理だと信じる。そんな状況は、同性愛者にとって実に有害だ。私は、宗教環境で苦しむたくさんのLGBTを知っている。それが原因のメンタルヘルス問題は、一生続くのだ。
カウンセラーのザック・ローリングス(Zach Rawlings)医師とマイケル・ヒダルゴ(Michael Hidalgo)牧師は、現代のキリスト教教会と同性愛の関係性を説明するのに、聖書の同じ部分を引用した。〈マタイによる福音書〉第7章18節だ。「良い木が悪い実をつけることはないし、悪い木が良い実を結ぶことはない」
ローリングス医師は、メンタルヘルスのカウンセラーで、自身も同性愛者だ。彼は、〈落ちこぼれのキリスト教徒〉だともいう。教会に嫌疑の目を向けている彼は、保守的なキリスト教思想の影響が濃厚な環境で育ち、臨床メンタルヘルス・カウンセリングの修士号をコロラド州の神学校〈デンバー・セミナリー(Denver Seminary)〉で取得した。ローリングス医師は、特に、同性愛を語るさい、いまだに神を懲罰的な存在とみなしている教会が多すぎる、と考えている。「LGBTという不利な立場に生まれているのに、さらに、永遠に地獄の業火に焼かれる、と脅されます。また、家族にも、神にも愛されないといわれるんです」。そんな教会がつける〈実〉が良い実のはずがない、と同医師は主張する。
デンバー・コミュニティ・チャーチ(Denver Community Church; DCC)の主任牧師、マイケル・ヒダルゴも、そういったメッセージが浸透しすぎている、とローリングス医師に同意し、自らの教会を変えていきたいと意気込む。「ある調査によると、米国内100の主要福音派教会すべてが、LGBTQへの制限を設けているそうです」とヒダルゴ牧師。「これは、いち大事です。なぜなら、LGBTQを否定するキリスト教的伝統のなかで育ったLGBTQティーンズの自殺企図は、そうでないティーンエイジャーの8倍以上だ、という研究結果もあります」
キリスト教教会のホモフォビアとLGBTのメンタルヘルス問題との関連性は否定できない。英国を拠点に活動する、キリスト教慈善団体〈Oasis Foundation〉の報告書によると、教会はLGBTに対する直接的な差別の元凶のひとつであり、世間やメディアでの同性愛問題における反対意見の多くが教会に依拠しているという。教会の姿勢が多数のレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルたちを少なからず苦しめ、事実の秘匿、不誠実な生き方を強いている。「教会は、いくら意図していないとはいえ、自らの姿勢がLGBTの精神および肉体の健康を奪っている、という事実を受け入れなくてはならない」と同報告書は主張する。「不安障害、うつ、さらには、肉体的健康、生命そのものへのリスクすらある」
〈Oasis Foundation〉のレポートは、LGBTに寛容な教会がスタンスを公にすべきだ、とも提案する。そういった教会は、今以上に問題に意識的になり、LGBTを受け入れたキリスト教徒としての意見を反映する、開かれた議論の場を設けるなどして、LGBTコミュニティを支援、向上させるべきなのだ。
ヒダルゴ牧師のDCCは、そんな教会のパイオニアといえるだろう。この無宗派福音派教会には、週にいちど、2ヶ所で、合わせて平均1500人が集まる。DCCは、LGBTへの寛容を表明する、と重要な決断をした。ヒダルゴ牧師は、そのために、教会の長老たちと、約2年間、話し合いを続けた。最初は、半々に割れていたが、コミュニティ内のLGBTたちと実際に話し合うなどした結果、みんなの考えも変わりはじめた。
そして、2017年初頭、DCCは、親LGBTスタンスを公式に発表した。その決定を受けて離脱した信者もいるが、それ以上の信者がDCCへ加入した。ヒダルゴは、この方針の結果、寄付金の額が25万ドル(約2700万円)減った、と報告しているが、それでも彼は、正しい道を進んでいる、と確信している。
「霊性の追求は、みんなに良い影響を及ぼすはずです」とローリングス医師。「同じような考えの、意義深い目的意識を持つ仲間と出会える可能性もある。ただ、信条的に問題のない教会を見つけなくてはなりませんが」
しかし、LGBTに理解のある教会を見つけること自体、困難で気持ちが折れてしまう経験なのだ。まず、ヒダルゴ牧師が引用するとおり、米国内100の主要福音派教会すべてが、LGBTQへの制限を設けている。ジョエル・オスティーン(Joel Osteen)が主任牧師を務める、ヒューストンにある全米最大のレイクウッド教会(Lakewood Church)は、LGBTについての公式見解を表明していない。差別的なスタンスを明らかにしてないものの、LGBTを受け入れる、とは宣言していないのだ。リック・ウォーレン(Rick Warren)が主任牧師を務める、カリフォルニアのサドルバック教会(Saddleback Church)も同様だ。
結婚後のセックスに積極的になることを奨励した『Sexperiment』の著者エド・ヤング(Ed Young)が主任牧師を務める、テキサス州グレイプヴァインのフェローシップ・チャーチ(Fellowship Church)も、LGBTへの見解を公式には発表していない。こういった教会は、反LGBT的なメッセージこそ発信していないが、集会の議事録や、ホモフォビア的発言をしたチェーン店〈チックフィレイ〉(Chick-Fil-A)の社長への支援の手紙、教会のスタンスを明確にするボランティア組織〈Church Clarity〉の評価、その他、様々な資料から、LGBTに寛容ではないのは明らかだ。
「霊性はセクシュアリティに関係なく、みんなに開かれています」とローリングス医師。「意義あるかたちで他者とかかわることが、霊的活動の何たるかです。毎週、友人たちとディナーを囲みながら、人生のゴールを語り合ってもいい。瞑想でもいい。瞑想時の神経は、神へ祈っているときと同じ働きをします。霊性と教会は、似て非なるものなんです」