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『2001年宇宙の旅』の8年前に描かれた〈1960年〉の宇宙の旅

スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』が1968年に劇場で公開されると、当然ながら、傑作、と絶賛された。しかし、その8年前に製作された、知る人ぞ知る短編ドキュメンタリー『Universe』がなければ、このSF大作は存在しなかったかもしれない。
Image: YouTube

スタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)監督の『2001年宇宙の旅』(2001: A Space Odyssey)が1968年に劇場で公開されると、当然ながら、傑作、と絶賛された。技術、テーマともに前例のない同作は、SF作家のアーサー・C・クラーク(Arthur C. Clarke)とキューブリック監督が共同で脚本を手がけた結果、当時の最先端の宇宙論に基づく宇宙旅行を描く、最も科学的に精確な映画が完成した。

しかし、同作の8年前に製作された、知る人ぞ知る短編ドキュメンタリー『Universe』がなければ、このSF大作はなかったかもしれない。

カナダ国立映画制作庁が出資し、ロマン・クロイター(Roman Kroitor)とコリン・ロー(Colin Low)が監督を務めた『Universe』は、その20年後に放映されたカール・セーガン(Carl Sagan)のTVシリーズ『コスモス』(Cosmos)の前身のような映画だ。劇中で、天文学者のドナルド・マクレー(Donald MacRae)は、望遠鏡を覗きこみ「最初に地球から飛び立った人間は、星や月の光の向こう側で、何を見つけるのだろう?」と想いを馳せる。

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夜毎に繰り返されるマクレーの宇宙探求を軸に太陽系全体を描いた、約30分に及ぶ叙事詩は、1961年、第33回アカデミー賞の短編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。受賞こそ逃したが、カンヌ国際映画祭ではアニメーション審査員賞を受賞し、さらに、同作品に感銘を受けたNASAは、教材用にフィルムを300本、発注した。

さらに、伝記作家、ヴィンセント・ロブロット(Vincent Lobrutto)によると、キューブリック監督も、かなりの影響を受けたそうだ。

「上映が始まると、キューブリックは、我を忘れてスクリーンを凝視していた。そこに描かれた渦巻く銀河のパノラマこそ、彼が求めるダイナミックでリアルな視覚効果だった」とロブロットは、『Universe』の監督のひとり、コリン・ローの追悼記事で回想している。「そこには、SF映画にありがちな、大雑把な合成、明らかなアニメーション、貧相なミニチュアという瑕疵がなかった。『Universe』は、カメラが天空を覗く望遠鏡になりうることを証明したのだ」

実際、キューブリック監督は、『Universe』で視覚効果を担当したウォリー・ジェントルマン(Wally Gentleman)を『2001年宇宙の旅』のスタッフに起用した。さらに、AIコンピューターシステム〈HAL 9000〉の声優を担当したのは、『Universe』のナレーターを務めたダグラス・レイン(Douglas Rain)だ。それに加えて、『Universe』のオープニング・テーマは、キューブリック監督の作品を傑作たらしめた、リヒャルト・シュトラウス(Richard Strauss)の「ツァラトゥスラはかく語りき」(Also Sprach Zarathustra)を連想させる。

『Universe』製作当時、金星は〈解明不可能な謎〉であり、火星には植物が〈かなりの確率で〉生息している、と天文学者たちは信じていた。58年前に描かれた宇宙の果てへの旅を、ポップコーンをつまみながら楽しもう。