サル痘の感染拡大について知っておくべきこと

パニックになるのはまだ早い。
AN
translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
A health officer uses a thermal head to detect a monkeypox virus on arriving passengers at Soekarno-Hatta International Airport in Tangerang near Jakarta, Indonesia on May 15, 2019.(Jepayona Delita/Future Publishing via Getty Images)
サル痘の感染者を探知するため、到着した乗客に保健衛生官が非接触型体温計をかざしている。インドネシア、ジャカルタ近郊タンゲランのスカルノ・ハッタ国際空港にて。2019年5月15日(JEPAYONA DELITA/FUTURE PUBLISHING VIA GETTY IMAGES)

サル痘の感染が世界的に広がり、2022年6月29日時点で49ヶ国、4700人を超える感染者が確認されている。5月23日には、米国のバイデン大統領がこの感染症をどれくらい心配すべきかについて矛盾した言及を行い、混乱を呼んだ。

新型コロナウイルスのパンデミックが始まったのはもう2年以上前。規制緩和が進むことで徐々に〈なりゆき任せ〉な理念が浸透しつつあるが、これまでに世界で600万人以上が亡くなっている。今回のサル痘はどれほどの問題なのだろうか? ご説明しよう。

サル痘とは何か?

サル痘(とう)は天然痘と同属の感染症だ。天然痘は何世紀にもわたり人類最大の脅威のひとつとして猛威を振るい、20世紀だけで3億人もの命を奪ったが、天然痘ワクチンの世界的な普及、および徹底的な感染者追跡により、1980年に根絶宣言が発表された。

サル痘の致死性は天然痘に比べ著しく低い。ヒトの症例が初めて確認されたのは1970年、コンゴ民主共和国(DRC)でのこと。西アフリカ、中央アフリカにおいては風土病(エンデミック)となっており、WHOの発表によると、DRCでは2022年の1〜4月だけで感染者1200名、死者57名にのぼっているが、非エンデミック地域においての感染拡大は極めてまれだ。2021年に米国で報告されたサル痘感染は2件。どちらもナイジェリアへの旅行者だったが、他に感染したひとはいなかった。

Advertisement

米国で初めて、およびこれまでで唯一の持続的なサル痘の感染拡大が起きたのは2003年。ガーナからテキサス州へ輸入されたペットのげっ歯類が感染源だった。主に中西部で数十名が感染し、米国疾病対策予防センター(CDC)によると子ども2名が「重篤な臨床的疾患」を有したが、死者はいなかった。

サル痘の症状とは?

サル痘に感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は通常1〜2週間だが、最長21日間に及ぶこともある。世界保健機関(WHO)によると、空気感染する新型コロナウイルスと異なり、サル痘は汚染されたベッドなどとの接触、および性行為などの極めて濃厚な接触によって感染する。

AP通信の今年5月の記事によると、感染症専門家はスペインおよびベルギーでのレイヴが今回の感染拡大のきっかけになっている可能性があると示唆している。「サル痘は、感染したひとの創傷との濃厚接触がある場合に感染拡大することがわかっており、性行為が今回の感染を広げているように思われます」と元WHO疫学者のデヴィッド・ヘイマン博士はAP通信に述べた。

サル痘の症状は、1995年にワクチンが導入されるまで毎年数百万人もの米国人が感染していた水痘と似ている。CDCによると、一般的な初期症状は発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感、リンパ節の腫れ。続いて発疹が2〜4週間続く。

サル痘ウイルスには、それぞれアフリカの異なる地域で発生した2つの系統群が存在する。ひとつは現在の感染拡大を引き起こしている西アフリカ系統群。WHOによると、こちらの系統群の感染者の死亡率は最大3.6%。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の疫学者であるアン・リモアンが5月にThe Atlanticに語ったところによると、専門家たちは、欧州や米国など「医療設備が整った環境では、サル痘感染者の死亡は確認していない」そうだ。

今回の感染拡大はどのように起こったか

WHOが英国での最初の感染者を確認したのは今年の5月7日。感染者はナイジェリアから帰国したばかりだった。そしてその後、西欧や米国で急速に感染拡大した。

5月18日にはマサチューセッツ州保健当局が、カナダから帰国したばかりの旅行者がサル痘と診断されたことを確認。サル痘の症例がある国から戻ってきたばかりで原因不明の発疹がある患者、または他の男性と性交をした男性においては、サル痘を疑うよう医師に通達した。

6月29日時点で、米国内では300件を超える症例が確認されている。

サル痘について、どれくらい心配するべき?

現在の感染拡大とその原因についてはまだわかっていないことがあるが、現在のサル痘の状況は、COVID-19のパンデミックとは大きく異なる。ひとつには、サル痘は半世紀以上前から存在しており、医師や保健当局は新型コロナウイルス感染症のときにはなかった有利なスタートを切ることができた。また、感染の大きな要因は空気感染であるが、今回のサル痘の感染拡大が空気感染によるものだと示唆する証拠はまだない。

バイデン大統領は、5月22日に開かれた韓国での記者会見で、サル痘の感染拡大は「誰もが心配すべきこと」と発言。しかし翌23日には、サル痘の流行は「COVID-19に対する懸念のレベルまで達する」ことはないとし、隔離措置を取る可能性は低いと述べた。

サル痘のワクチンはすでに存在する。CDCによると、天然痘ワクチンはサル痘の感染を予防する効果が非常に高いそうだ。しかし、天然痘が根絶され、ワクチンはほとんど使用されなくなった(軍関係者や天然痘ウイルスを扱う研究所職員は例外だ)。

Advertisement

しかし2019年には、アメリカ食品医薬品局(FDA)が〈JYNNEOS〉という、2回接種を行う天然痘・サル痘ワクチンを承認している。マサチューセッツで最初の症例が確認されたあと、連邦政府は数百万回分、1億1900万ドル(約162億円)相当の凍結乾燥ワクチンを発注。2023〜24年に納入される予定だ。

COVID-19のパンデミックもまだ続いている

世界ではサル痘の感染拡大に注目が集まっているが、COVID-19は依然として米国の医療インフラを逼迫させている。オミクロン株の亜系統が急速に広がり、感染の波を引き起こしているからだ。

New York Timesによると、米国の感染者数は5月に50%以上増加し、一日当たり10万件以上が報告され、6月24日現在も2万5000人以上が入院している。5月18日のWashington Postの記事によると、ある疫学者は、自宅での検査の普及により、公式に発表されている数は「実際よりもかなり少ない」だろうと指摘した。

感染者数は増加しているものの、これまでのところ死者数は顕著に増えてはいない。ただ、それでも平均すると一日あたり300人が亡くなっており、これは2022年1〜4月のDRCにおけるサル痘による合計死者数の6倍にあたる。

5月には、5歳以上の子供への新型コロナワクチンのブースター接種が承認された。CDCは免疫機能に障がいを持つひと、および50歳以上を含む高リスクのひとで、1回目の接種から4ヶ月以上経過している場合、2回目の接種を受けるよう勧告を「強化」した。CDCの声明では、所長のロシェル・ワレンスキー博士が「感染者数が増えているなかで、すべてのひとが必要な予防策をとることが大切です」と述べている。

当局は今年の冬にまた感染爆発が起こる可能性が高いと警告しているが、米国議会は新型コロナの資金に関わる新たな法案を通過させておらず、対応が危ぶまれる。現政権の新型コロナウイルス対策調整官を務めるアシシュ・ジャー博士は5月に、もし冬に感染爆発が起きたら資金が足りず、全国民の検査やワクチンはまかなえない、と発言した。

「議会から資金を得られないというシナリオにも備えなくてはならない」とジャー博士はCNBCに語る。「恐ろしい事態になると思います。もしそうなってしまったら、たくさんの不必要な損失に直面することとなるでしょう」

VICE Newsの厳選記事が届くニュースレターを購読する(英語)