子宮内膜症が性生活に与える影響

「自分が主導権を握れる体位のほうが、痛みを抑えられることがわかりました。自分にとって気持ちのいいことしかしないので」
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キャスリン・ヴァージニアによるコラージュ | PHOTOS BY ATHIMA TONGLOOM AND DESIG

発症率の高さや時に耐えがたい痛みをもたらすにもかかわらず、子宮内膜症の知識や理解は、医師の間でもいまだに驚くほど不足している。

子宮内膜に似た組織が子宮の外(大抵は子宮外面、卵管、卵巣などの骨盤内だが、他の部位にできる場合もある)で発生するこの疾患は、出産可能なひとの10人に1人が発症する。子宮内膜症を発症したひとが生理になると、この組織が破れ、そこから流れた血が体内に閉じ込められる。この組織がそのまま発育するとさまざまな問題を引き起こし、激痛をもたらすこともある。

子宮内膜症は、生理痛の原因となるだけではない。内部出血が起きるたびに、嚢胞、病変、傷、癒着を引き起こす可能性もある。性行為などの活動は、これらの体内の傷を悪化させる恐れがある。実際に、子宮内膜症患者の約3分の2が、挿入の最中もしくは後に激しい痛みを感じた経験があるという。痛みの性質や程度は、炎症や傷の部位と大きさや、その他の身体的・心理的要因によって異なる。軽い痛みを訴えるひともいれば、苦痛のあまり自分の体から切り離されたような感覚を覚えるというひともいる。挿入性交の間のみ痛みを感じるひともいれば、行為中から数日後まで痛みが引かないひともいる。

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子宮内膜症を完治する方法は存在しないが、正しい治療や管理を組み合わせることで、性交痛を軽減させ、場合によっては全てではないにしろほとんどの痛みを取り除くことが可能だ。残念ながら、女性が訴える痛みを一蹴したり、症状を他の病気と間違える医師もいまだに多く、悩みを抱える人びとが専門家の助けを得るまでには数年を要する。専門家にアクセスできたとしても、症状の変動性によって適切な治療を見つけるまでに何年もかかるうえ、拡大や変化の多い疾患のため、その治療法が永続しない可能性もある。さらに、治療計画を立てるさい、患者の性体験をまったく考慮しない医師も多い。

子宮内膜症を抱える人びとが医療支援を受けたり、性生活への影響を抑える最善の方法を見つけるためのガイドラインを公開し始めた団体もいくつかあるが、子宮内膜症にまつわるパーソナルな性体験は、ほとんど共有されない。この問題に取り組むべく、VICEは支援団体を運営する子宮内膜症を抱える女性、クレア・ワトソン(Claire Watson)と、彼女の長年にわたるパートナー、スコット・ワトソン(Scott Watson)に、この病気が性生活で果たす役割や、ふたりの病気への向き合い方について話を聞いた。

インタビューは長さやわかりやすさのために編集しています。


クレア:15歳くらいのとき、自分の生理が普通ではないことに気づきました。すごく重いわけではないのですが、痛みがあり、不規則でした。1ヶ月に一度も生理が来ないこともあれば、月に3、4回来ることもありました。もっと大きくなってセックスをし始めると、強い痛みを感じるようになりました。

刺すような痛みやズキズキする痛み、内側の奥深くの痛みなど、痛みの種類はさまざまです。行為の間だけ痛みがあって、そのあとは平気なこともあれば、その後3日間痛みでうずくまっているようなときもあります。同じ症状が連続して起きることはほとんどありません。

16年で何人もの医者にかかりましたが、異常はないといわれ続けてきました。うつのせいだとか、薬物治療を受けたいだけなんだろう、などと指摘されたこともあります。思い切って具体的な性行為について打ち明けても、かかりつけ医はある程度の痛みを感じるのは普通のことだと一蹴し、家に帰されました。こういうことを耳にタコができるほど聞かされ、「自分は確かにうつ状態なだけかもしれない。それか、痛みへの耐性が低いのかも」と思うようになりました。痛みのあるセックスが当たり前で、耐えなければいけないのだ、と。

スコット:僕たちが付き合い出したとき、クレアは行為中にひどい痛みがあっても隠していたんだと思います。

クレア:そうでした。スコットに痛いと伝えても、その原因がわからなければ、彼はわたしが作り話をしていると思うかもしれません。彼と付き合って2ヶ月経ったとき、初めてピルを飲むのを止めて、わたしは重体になってしまいました。病院に運ばれ、腹腔鏡検査を受けたら、子宮内膜症と診断されたんです。そんな病名を聞いたのは初めてでした。

スコット:僕もそうでした。最初は「よかった、やっとクレアの悩みの原因に名前がついた。きっと薬とか注射とか何かしら治療法があるはず。これでようやく僕たちの関係を先に進められる」と安心しました。でも、家に帰って子宮内膜症について調べ始めると、なかなか大変な病気だということがわかりました。

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クレア:子宮内膜症の治療を始めたとき、最初はスコットを遠ざけようとしました。あなたはこんな契約してないでしょう、と伝えました。痛みを気にしながら頻繁にすることはできないので、パートナー失格のような気がしたんです。

「16年で何人もの医者にかかりましたが、異常はないといわれ続けてきました。うつのせいだとか、薬物治療を受けたいだけなんだろう、などと指摘されたこともあります」

スコット:彼女は僕に、「誰か他のひとを見つけて。セックスできる相手を」と言いました。でも、誰だって恋に落ちたら、相手の苦しみを和らげてあげたいと思うものでしょう。だから性生活でもそれ以外でも、ふたりにとってうまくいく方法を探したかったんです。

クレア:スコットが「違うよクレア、君はそのままですばらしい。それにセックスがすべてじゃない」と答えてから数ヶ月経って、彼を遠ざけることはわたしたち両方のためにならない、自分たちの性生活についてオープンに話し合うべきだと気づきました。スコット自身、人生のほとんどを持病や痛みとともに生きてきたということが、対話のきっかけになりました。それでもセックスについて話し合う良い方法を模索し、解決策を見つけるまでには少し時間がかかりました。セックスの最中や後に「この体位はダメだけどこれなら良いから、これからはこっちを試してみよう」と率直に話すことに慣れる必要があったので。

子宮内膜症の症状は予測不可能なので、普段なら痛みを感じる体位で痛みを感じないこともあります。反対に、ずっと大丈夫だった体位が突然痛くなることもある。正直、本当にイライラします。それでも、ひとつ気づいたのは、自分が主導権を握れる体位のほうが、痛みを抑えられるということです。自分にとって気持ちのいいことだけしかしないので。

スコット:普段はクレアが上になります。どんな体位でも、僕は一歩下がり、彼女にリードしてもらいます。僕のほうは、クレアとのセックスで彼女を傷つけてしまうかもしれない、彼女が来週痛みでベッドで過ごす羽目になるかもしれない、彼女の痛みは僕のせいだと自分を責めることになるかもしれない、ということを意識していました。クレアがこの日の夜に挿入を伴うセックスをする、と決めることもあります。彼女がそう決めたら、僕がすべきことは、芝居をしたり彼女に痛みを感じさせても平気なフリをすることではなく、しばらく不安や罪悪感を抑えることです。つまり、ふたりが望む行為ができるように、それを一旦置いておくんです。

クレア:行為で得られる喜びや親密さは、痛みがあってもそれだけの価値があるものです。セックスがすべてではありませんが、わたしたちにとってはカップルとして気持ちを通じ合わせるうえでとても大切なことです。温熱療法やウェイトブランケット、ヨガでリラックスしたり、1分横になって気持ちを落ち着けたりと、痛みを和らげる方法もたくさんあります。でも、「今のセックスは痛みに我慢してするほどよくなかった」と思うことももちろんありますよ。そういう時はスコットにそう伝えて、ちょっと休憩、つまり1週間かそれくらいでセックスをやめるようにしています。

スコット:クレアの子宮内膜症と痛みのことは、いつも頭の中にあります。クレアがセックスをしたくても最近痛みがあったことを知っていれば、あまり強くしたり深くしたり、早すぎてはダメだ、と自分に言い聞かせます。でも、そういう気遣いで雰囲気を台無しにしないようにしています。ときどき普段より激しくしたり早くしてみることもあります。

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クレア:そういう実験をするのは、わたしの痛みやストレスが少なかったときです。あとでツケが回ってくるんですけどね。わたしたちは付き合いが長いので、スコットはわたしのボディランゲージを読むことが得意で、わたしが内側の痛みを感じているときは少し体の向きを変えたり、反応するように促してくれます。それから少し体を引いたりちょっとだけ休憩して、体位や行為の内容を変えるようにしています。

「行為で得られる喜びや親密さは、痛みがあってもそれだけの価値があるものです。セックスがすべてではありませんが、わたしたちにとってはカップルとして気持ちを通じ合わせるうえでとても大切なことです」

スコット:例えば挿入ありの行為をしようと思っていて、1日中そのための準備をしていたとしても、オーラルセックスやお互いのマスターベーションなどに変える必要があればそうします。ふたりが求める親密さを得るためには、必ずしも挿入ありの行為をする必要はありません。それでも、挿入を伴わないセックスでも痛みのリスクが全くないわけではありません。オーガズムによる筋肉の収縮が痛みの引き金になる場合もあるので。

クレア:そう、オーガズムも痛みの原因になります。

スコット:何年も一緒にいますが、僕たちは今も、子宮内膜症が性生活に与える影響や、それについて話し合う方法を模索し続けています。行為中のコミュニケーションが不十分だと気づいて行為を中断し、過去に話し合ったことを振り返って改めて話し合い、行為を再開したことも何度もあります。

クレア:個人的には、わたしたちが行為中に好きなことを思い切りできないという事実をなかなか受け入れられません。そのせいで、我を忘れて没頭することは滅多にないので。

スコット:でも僕たちがそこから学び、身についたことがひとつあるとすれば、それは話し合うことです。

クレア:そう、お互いに話し合うことが重要です。どんなことでもすぐに率直に伝えること。後回しにしても悪化するだけですから。

スコット:もうひとつ大切なのは、何かができないとか、うまくいく方法が見つからないときも、自分たちを責めないこと。

クレア:ひと言でまとめると、わたしたちは今、全身全霊を捧げて、とても健康的な性生活を送っています。

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