処方、市販を問わず、パキスタンの偽薬は巨大なビジネス対象だ。投資は少なく、リターンは大きい。偽タバコに千ドル投資したら、2万ドルは稼げるらしいが、製薬工業協会・国際委員会(International Federation of Pharmaceutical Manufacturers and Associations)によると、偽薬に千ドル投資したら、50万ドルのリターンがあるという。多国籍製薬会社サノフィ(Sanofi)の報告によると、偽薬取引はヘロインの20倍ものリターンが見込める。基本的医療制度の不備、深刻な貧困、不明確な政府による規制、すべてがパキスタンの偽薬問題を悪化させている。密閉包装もされず、適当にパッケージされた粗悪なジェネリックは、ブランド医薬品よりも人気が高い。もちろん、安いからだ。これまでパキスタンには、信頼すべき医薬品入手ルートがなかった。しかし、2013年12月、パキスタンの87%の世帯が携帯電話を所有している、との調査結果が報告された。これは朗報だ。
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2012年、心臓病の偽薬の服用によりパキスタン人120名が死亡する事件が起きた。パキスタンのラホールで育ち、その後トロント大学に通うためカナダに移住した現在28歳のシディキは、大いに心を痛めたという。「役に立ちたかった。問題を解決したかったんです」彼は、誰からの支援も受けず、カラチに移住したが、2014年7月、〈Stars in Global Health〉プログラムの〈Grand Challenges Canada〉を通じて、幸運にも10万ドルを獲得した。偽医薬品問題はパキスタン国民にとってたいへん深刻だ、とシディキ。偽医薬品のなかには、砂糖だけでできた錠剤もある。砂糖とはいえ、服用すれば深刻な事態に陥る病人もいる。「レンガの粉、コンクリート、タール入りの錠剤も見つかっています」Prochecは、問題解決に向けて、新たな方法を提示しているわけではない。パキスタン以外の開発途上国も同様の問題を抱えているため、解決に向けてProchec同様のサービスを利用している。ニューハンプシャー州を拠点とするPharmaSecure社は、インド、ナイジェリア、パキスタンで、Prochec同様のサービスを提供している。ユーザーは、医薬品のパッケージに記載された英数字のコードをメール送信、またはスキャンするだけで、10秒以内にその医薬品の真贋を確認できる。これまで20億回もサービスが利用されているそうだ。ボストン郊外に本社を構えるSproxil社は、ガーナ、ケニヤ、ジンバブエ、インドでオンライン、または近くのコールセンターへの電話で得た情報をもとに、医薬品を分類し、その真贋が確認できるサービスを開始した。2009年以来、同社は2100万件以上もの医薬品をチェックしたそうだ。しかし、レンガの粉を飲み込むリスクを負った消費者に、正しい情報を送るのは難しい。インドだけでも人口は12億。「偽薬の危険性についての意識が向上を目指すには、地理的な問題もあります」とPharmaSecure社のナクル・パスリア(Nakul Pasricha)CEOは説明する。22もの公用語がもあり、異なる文化が入り混じる広大なインドでは、情報を広めるための手段は煩雑にならざるを得ない。モバイルでの医薬品認証を制度として受け入れた政府もある。2012年、ナイジェリア政府は、抗マラリア剤の製薬会社に制度参加を強制した。当初、製薬会社は反対したが、最終的に応じざるを得なかった。この施策により、2012年には19.6%もあった抗マラリア偽薬の市場占有率は、2015年には3.6%まで低下した、と関係者は語っている。パキスタン当局は、医薬品の安全性、有効性、一定品質の保障を義務付けているものの、ナイジェリア同様の法律は未だに成立していない。