2019年8月、英国のスポーツ専門チャンネル〈Sky Sports〉によるインタビューで、OASISのノエル・ギャラガーは次のシーズンのプレミアリーグについて忌憚なき意見を述べた。尊大で歯に衣着せぬ発言で有名な兄ノエルと、同じく尊大で歯に衣着せぬ発言で有名な弟リアムのギャラガー兄弟はマンチェスター出身で、兄弟揃って昔からマンチェスター・シティを応援している。紫のベルベット地のソファに座り、昨シーズンについて喋りまくるノエルは、いかにも尊大だった。
「次のシーズン、俺らに匹敵するチームはないね」とノエルは答えた。「リヴァプールも無理。マジで誰もいない」
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そんなノエルの予想は大きく外れ、結局プレミアリーグを制覇したのはリヴァプール。2位のマンチェスター・シティとは18ポイントもの大差をつけての優勝だった。それを踏まえたうえで、ノエルが今年9月に〈The Matt Morgan Podcast〉に出演したさい、マスク着用を「バカげてる」と罵ったことを思うと、『Confidently Wrong About Everything(何もかも自信満々に間違ってる)』というタイトルのソロアルバムでも準備しているのだろうか、と想像したくもなる。
「俺はマスクは着けない。全部がバカげてる」と彼は述べた。「セルフリッジズ(英国の高級百貨店)の中ではマスクを着けることになってるわけだけど、パブに行けばバカどもに囲まれるだろ。へえ? パブではウイルスを持ってなくて、セルフリッジズでは持ってるってことか? へえ? それはそれは」
小売店(高級百貨店でも)でのマスクの着用が重要であることだけでなく、公共交通機関やスーパーマーケットでマスクを着けるべきである理由も彼は理解していないようだ。
「聞けよ(中略)。法律で決まってることじゃないだろ。あまりに多くの自由が奪われてる」とノエル。「クソどうでもいいね。俺はマスクを着けないことを選んだ。もしウイルスに感染したら俺のせいだ。他の誰のせいでもない。もし周りのバカどもが全員マスクをしているなら、俺はそいつらからウイルスをもらったりしないし、俺がウイルスを持っていても、そいつらにうつすことはない(中略)。科学的にも意味がないことだとされてるし」。ちなみに「科学的に意味がない」は全くのデマだ。
ブリットポップ/マッドチェスター時代のミュージシャンで、このような無知を晒しているのはノエル・ギャラガーだけではない。THE STONE ROSESのフロントマン、イアン・ブラウンも、9月5日のツイート(※現在は削除されている)で、このような酔狂な発言をした。「ロックダウンも検査も追跡もマスクもワクチンもいらない」。「俺の子供たちに催涙スプレーをかけるわけでも、毒を注射するわけでもあるまいし」
ああイアン、どうしてこんなことをしてしまうんだ、とため息をつきたい気分だ。
1997年、『Spin』誌はOASISが「享楽主義と悪いふるまいという堂々たるロックの伝統」をよみがえらせた、と書いたが、ギャラガー兄弟はそれらのコンセプトをStone Islandのオーバーサイズパーカーのポケットに突っ込んだままこの25年を生きてきた感がある。しかし、深夜3時に見知らぬ相手と乱闘することと、積極的に科学を無視することは全く違う。
ノエルがこのような発言をするのは、ならず者としての評価をさらに高めようとしているのかもしれないし(以前本人が、80年代にマンチェスター・シティのフーリガン団体2つを組織していたと語っている)、ひたすら斜に構えることと時代の空気を読むことを混同しているのかもしれない(こちらも、80年代から彼が続けてきていることだ)。あるいは、もしかしたら弟のリアムがしていないことをしているだけなのかもしれない。OASISの個性のひとつといえばギャラガー兄弟の仲の悪さであり、ノエルとリアムが何かに関して意見を同じくすることなど天地がひっくり返ってもありえない。リアムは今年7月、ツイッターでファンにマスクを着けるかと尋ねられたさい、「着けなくちゃな、この顔を隠すなんて犯罪だとは思うけど」と返信した。
9月14日には、リアムは「ガタガタ抜かすな、何も知らないクズめ、ファック・ユー」というコメントと合わせてマスクを着けた自撮り写真をツイッターで公開している(正しく着用できてはいないのだが)。
ただ、ノエルもイアンもそれぞれの音楽シーンからはやたらと科学を否定したがる鼻つまみ者とされているのでまだよかった。マッドチェスターを代表するバンドのひとつであるTHE CHARLATANSのフロントマン、ティム・バージェスは、ツイッターに自らに似ているキャラがマスクを着けたピンバッジの写真をアップした。
元SUEDEのギタリスト/キーボーディスト、ニール・コドリングも、今年3月に「今は家にいよう。NHSを後退させないように」とツイートしてNHS(英国国民保険サービス)への支援を呼びかけた。
ちなみに英国のオルタナボーイズの問題児として王座に君臨するモリッシーは沈黙を守っている。そしてPULPのジャーヴィス・コッカーはマスク論争には参加せず、自らが手がけたペパーミントティーの宣伝に勤しんでいる。実に聡明だ。