ジレンマに心痛めるすべての加藤シゲアキファンへ

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ジレンマに心痛めるすべての加藤シゲアキファンへ

私は『チュベローズで待ってる』を、ただの〈小説〉として購入したのではない。明確に、〈大好きなアイドルの加藤シゲアキが書いた小説〉として購入した。私のような加藤シゲアキファンは少なくないだろう。そういうファンにとって、〈シゲアキのクラウド〉のダイレクトなメッセージは堪えたはずだ。ジャニーズ初の小説家、加藤シゲアキを愛する私たちが抱える、ジレンマを考える。
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Tokyo, JP

何も知らずに〈シゲアキのクラウド〉を読んだ私が最初に感じたのは、明確な悲しみだった。彼の〈おこがましさ〉の一翼を担っているのは私たちファンなのではないか。加藤シゲアキへの応援の気持ちは、読書の動機として邪なのだろうか。彼のファンである私が、彼の小説を〈小説として正しく〉評価することはできるのだろうか、そもそもそうする必要などあるのだろうか。ジャニーズ初の小説家、加藤シゲアキを好きになってしまった私たちが抱える、ジレンマを考える。

私はジャニーズが好きだ。ファンを含めたジャニーズの世界に惹かれてやまない。しかし、第8回Twitter文学賞の投票期間には、完全に、ジャニヲタ精神が悪いかたちで表出していると感じた。

事の顛末はこうだ。本好きの有志が主催しているTwitter文学賞に、加藤シゲアキ著『チュベローズへ待ってる』への投票を呼びかけるファンや、軽い気持ちで投票するジャニーズファンが大挙して押し寄せた。そして「誰それが好き、じゃなく、小説が好きな人に投票してほしい」と願い、〈組織票〉を控えるよう伝える賞主催者と、ジャニーズファンとのあいだで、小競り合いが起きた。結局、加藤シゲアキが有料会員サイト、Johnny’s Webで連載中の個人ブログ〈シゲアキのクラウド〉で、ファンにくぎを刺すに至った。

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今回の問題は、ジャニーズファンとしての重要な活動である、〈好きなグループ・個人の応援〉を目的とした一部の投票が、Twitter文学賞運営側の意図と噛み合わなかったことだ。ジャニーズファンは何かと受賞や結果にこだわる。それは、明らかな結果が、応援するジャニーズタレントの今後の活動を左右することを知っているからだ。賞を獲れば、メディアへの露出も増え、世間に注目され、次の活動につながる。「1位を獲ってほしい」と願って購入する音楽ソフトの売上も、いってしまえば〈組織票〉だ。そもそもアイドルの活動は、組織票で成り立っているのだ。アイドルがファンを想って活動してくれているなら、ファンもアイドルのために活動したいと思うのは当然で、それが組織票というかたちで表出したとしても、とがめられる筋合いはない。

しかし、今回は、圧倒的マジョリティであるジャニーズファンが、趣旨も理解せずに小さな文学賞に闖入してしまったのだから、〈無遠慮なジャニヲタがコミュニティを荒らした〉と捉えられても仕方がない。特に、読んでもいないのに〈シゲの作品だから〉という理由で投票したジャニーズファンがいたならば、Twitter文学賞を楽しみにしているすべての読書家、そして、加藤シゲアキ自身の真摯な気持ちにも失礼だろう。

私は、売上に貢献したかったから『チュベローズで待ってる』上下巻を購入したわけではないが、NEWSファン、加藤シゲアキファンだからこの本を手に取ったのは間違いない。『チュベローズで待ってる』は、2017年に私が購入、読破した唯一の新刊小説だ。最後までページを捲る手が止まらず、2日で読み終えるほどの没入感を味わった。読み物として『チュベローズで待ってる』を楽しみ、満足感を得た。

ただし、シゲはこういうワードセンスを持っているのか、こういう描写をするのか、と言葉の向こうに著者である加藤シゲアキの姿を観ていたのは確かだ。私は『チュベローズで待ってる』を、ただの〈小説〉として購入したのではない。明確に、〈大好きなアイドルの加藤シゲアキが書いた小説〉として購入した。

私のような加藤シゲアキファンは少なくないだろう。そういうファンにとって、Twitter文学賞を知っていても知らなくても、投票してもしていなくても、〈シゲアキのクラウド〉のダイレクトなメッセージは堪えたはずだ。

加藤シゲアキは、ひとりの本好きとしてTwitter文学賞が好きで、同賞にかかわる書評家たちを尊敬していると述べた。そのうえで、彼は、この賞を心から楽しみにしている小説ファンに「不快な思いをさせたくない」、アイドルとしての加藤シゲアキへの応援の気持ちから投票するなら遠慮してほしい、そもそも、自著に票が入ること自体が「おこがましい」と気持ちを吐露した。

そんなにも正直な彼の言葉に触れ、私は、私たちファンが〈おこがましさ〉を彼に背負わせてしまっているのでは、と悲しくなった。ファンとして、無力感、一抹の罪悪感すら抱いた。

私たちは、作家として闘う加藤シゲアキに、何もしてあげられないのだろうか。立派な書評家でもなければ、文学界のルールも常識も知らない私のようなファンは、確かに、限りなく無力だ。それでも、彼の小説をファンが応援するのは、何も間違っていない。むしろ真っ当だ。アイドルとしてのシゲが好きなのであれば、作家としての活動を知ることで、加藤シゲアキという人をより深く知れるようになるし、加藤シゲアキの作品が好きならば、アイドル・加藤シゲアキを知ることで、作品をさらに深く味わえる。それに、加藤シゲアキは『+act mini』19号のインタビューで、アイドルでいるために作家活動をする、と明言している。

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本当はきっと、〈作家・加藤シゲアキ〉と〈アイドル・加藤シゲアキ〉を分けようとするのがそもそも間違っているのだろう。加藤シゲアキが処女作『ピンクとグレー』(2012年)を書いたのは、NEWSであり続けるため、6人のNEWSを守るためだった。自分の作品に〈アイドルの〜〉とバイアスがかかることも、本好きというより、彼のファンが強く応援してくれるであろうことも、彼にはわかっていた。それでも本名、つまり、NEWSの加藤シゲアキとして作品を出版したのは、ペンネームを使ったところで、彼にとっては何の意味もないからだ。彼は、純粋に創作欲だけで小説を著すのではない。だからといって、彼は、どうせアイドルだから、という生半可な気持ちで執筆しているわけでもない。二足のわらじをちゃんと履く、と執筆活動をコンスタントに継続し、これまでに『チュベローズで待ってる』を含む4作の長編小説、1冊の短編集を、単行本として上梓している。

SMAPしかり、嵐しかり、アイドルが〈アイドル以外の活動〉を始めると、必ず逆風が吹く。そのため、彼らは〈アイドル〉であることを恥じはしないが、ジャニーズだったから選ばれた、ジャニーズだったからできた、という〈ジャニーズの特権〉を自覚している。だからこそ、〈おこがましい〉という気持ちを忘れないし、努力を惜しまずに別のフィールドに立つ。そうして彼らは、少しずつ、実力を認められてきた。

作家としての加藤シゲアキも同じ道を辿るのだろう。何年、何十年後の加藤シゲアキが2018年を振り返り、「アイドルが書いた本ってバカにされたよねえ」と懐かしがる日が来るはずだ。

しかし、今の今、アイドルとしての加藤シゲアキを愛する私たちが読む『チュベローズで待ってる』は、どうあがいても、アイドル・加藤シゲアキの小説だ。「いや、確かに私はファンだけど、でも、アイドルとかそういうの関係なく、客観的にひとつの小説として読んだときに…」といいたくもなるが、そういう口上は、非ファンから胡乱な目で見られて終わりだし、実際、嘘だ。

同作をとことん客観的に読みたいのであれば、アイドル・加藤シゲアキにまつわる記憶を抹消するしかない。そうならない以上、ファンが『チュベローズで待ってる』を絶賛すればするほど、応援すればするほど、同作は、アイドル・加藤シゲアキの小説としての存在感を増す。当事者にとっては、大いなるジレンマだ。

ジャニーズ、という属性が年齢、出身地、趣味などと同じくらいの情報、つまり、読書体験そのものに影響しない程度の情報にならなければ、ジレンマは解消しないだろう。ファンがいくら「アイドルが書いた小説だからって敬遠するのはもったいない!」と息巻いても「どうせジャニーズだろ?」という偏見がなくならない限り、どうしようもない。

加藤シゲアキが作家として正当に評価されることをファンが願うなら、例えばTwitter文学賞事務局アカウントのフォロワー約4000人のような、彼を作家として評価できる面々に判断を委ねるしか、今はできないのだ。そこで偏見抜きに認められたなら、その評価と彼の努力は、必然的に、何かしらの文学賞受賞というかたちで実を結ぶはずだ。

加藤シゲアキ自身、数年前の『NEWS ZERO』で、櫻井翔のインタビューに「賞が獲れるくらいの作家にならないと(中略)『ジャニーズだから』というものをまだ僕が超えられていないってことになってしまう」と応えていた。そうなるには、彼が〈良い小説〉を書いて、文学界から認められるしかないのだ。そのとき初めて、加藤シゲアキの背負った〈おこがましさ〉は成仏するだろう。そして、私たちファンのジレンマも。彼は、それをわかっているからこそ、作家としてのシゲも応援したい、と望むファンたちを、少々突き放すような投稿をしたのかもしれない。

繰り返すが、今、私たちは、作家・加藤シゲアキのためには何もできないし、むしろ下手に動かないほうがいいとさえ私は思っている。とはいえ、私たちファンが『チュベローズで待ってる』を読んで感動した事実は、誰にも否定できない。『チュベローズで待ってる』が好きならば、大声で「好きだ」と叫ぶ権利が、私たちにだって当然ある。しかし、Twitter文学賞への投票については、自分は正真正銘の本好きだ、と胸を張れるまで、とりあえずいったん保留しよう。まずは、シゲが呼びかけていたように、たくさん本を読もう。同時に、もし、読書家のあなたが『チュベローズで待ってる』を、著者がアイドルだから、と敬遠しているのなら、食わず嫌いでいいのか、と自分自身に問いかけてみてほしい。『チュベローズで待ってる』は、NEWSの加藤シゲアキが全身全霊を込めて書いたすばらしい小説だ。胡乱な目で見られるのを覚悟のうえで、NEWSファンの私が保証しよう。