FYI.

This story is over 5 years old.

共感覚の刺激- マルチメディア・アーティスト 黒川良一の世界観

音響と映像を自在に操る異才マルチメディア・アーティスト、 黒川良一の世界観に迫る。
15.5.14

マルチメディア・アーティスト、黒川良一

ベルリン在住のマルチメディア・アーティスト 黒川良一は、自らのアートについてこう語る。「メッセージと言うよりも、共感覚(※1)な体験と言うか、完全に音と映像をシンクロさせたものを提供したい。」

グリッチ(※2)を駆使した革新的なテクノロジーに同時に複数の感覚を刺激されるとしたら、例えば「音響」「映像」と言う風に、アートのターゲットをひとつの感覚に限定する必要性はなくなる。

Sirens(2012)より

「自然の再構築」と「共感覚的な体験」

彼のアートは一見とても難解そうだが、実は一貫した二つの主軸がある。「自然の再構築」と「共感覚的な体験」だ。この二つのテーマを表現する手段が、最先端のデジタルテクノロジーにより生成されたストラクチャー、フィールドレコーディング、そして知覚横断的なインスタレーションである。これらを自在に駆使してオーディエンスを圧倒するのが、彼独自のスタイルだ。

Advertisement

共感覚を喚起するアートなら、他にもたくさんある。だが黒川のアートはそれらとは一線を画し、騒然とした雰囲気でオーディエンスを萎縮させるような、または混沌の中に包み込んだ挙げ句に安息の地を見出させるような、そんな作品ばかりだ。大切なのは、「どう、無秩序に秩序を付けるか」だと語る。

Moi(2012)より

作品のインスピレーションは、自然から得ることが多い。「アート、もしくは人工物と言うのは、時間を圧縮したり、空間を圧縮したり、自然には出来ないことが出来る。」と語る黒川は、独自の次元感覚によって自然を操り、再構築し、オーディエンスを魅了する。

代表作品

ドキュメタリー映像に加えて、自然にインスパイアされた彼の代表作品を紹介したい。

Ground(2011)

戦時中の中東が題材となっている。無秩序に伸縮し、移り変わりながらスクリーンに映し出される画像たちは映画のようで、継ぎ接ぎされた画像とサウンドが緊張感を醸し出している。風景描写はあまり用いられていないが、武力が自然環境を脅かした事実がありありと表現された作品。

Octofalls(2011)

<54th Venice Biennale>(第54回ヴェネチア・ビエンナーレ)出展作品。「衰退に打ち勝つための無数の方法のひとつ」を表現している。天井から吊り下げられた8つのHDスクリーンに崖から流れ落ちる滝の映像が映し出され、スピーカーからは、鼓動のような激しい水音が絶え間なく響く。撮影は、アイスランドで2週間かけて行われた。

Rheo: 5 Horizons(2010)

グリッチがふんだんに使われた見事な作品。5チャンネルのスピーカーと対になった5台のモニターに映し出された鮮やかな自然風景が突然、デジタル化された波形模様に切り替わる。ベルギーの自然保護地区、北海沿岸にある ズウィン(Zwin)で撮影を行った。ビデオクリップはここで観ることができる。

Sirens(2012)

2011年の作品synと同様、動物がモチーフになった作品。キリンや鳥などの動物を、デジタルテクノロジーを使って亡霊のようなイメージに仕立て上げている。動物たちがもし実際にこの映像を観たら、すぐに脅えて逃げ出してしまいそうな不気味さがある。

Renatureからの画像

まだ若いのにも関わらず、この多作ぶりは驚異的だ。これまで、UK<Tate Modern>、イタリア<Venice Biennale>、ドイツ<Transmediale>、スペイン<Sonar>等、世界各国の大規模な展覧会に出展し、今後もペースを緩める気配は一向に見られない。

混沌を美に昇華させ、美を混沌の中に落とし込む。コンピュータと自らの手を駆使し、メディア横断的に自在に自然界をワープする彼はまるで、アート界の半神かのようだ。

最後に、初期の作品であるLP 『Copynature』に編集されている映像を紹介したい。この作品を観てからもう一度改めて、冒頭のドキュメンタリー映像を観直してほしい。デジタルテクノロジー・ライフをもっと刺激に満ちたものにしたいと思っている人なら特に必見だ。

A Few Walks(『Copynature』より)

OOL(『Copynature』より)

作品についての詳しい情報は、ウェブサイトを参照。

脚注:

(※1)共感覚:シナスタジア。ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる一部の人にみられる特殊な知覚現象。 例えば、共感覚を持つ人には文字に色を感じたり、音に色を感じたり、形に味を感じたりする。

(※2)グリッチ:電子回路における、接触不良で発生するノイズのこと。音楽の一ジャンルにもなっている。これから派生して、「グリッチ・アート」とは、デジタルもしくはアナログで起こる美しいエラーを指し、デジタルにおけるコードやデータの崩れ、または電子機器が物理的にいじくられたことにより生じる不具合を意味する。