ファレル・ウィリアムスがアニメに、村上隆監督作品の全米公開ツアーを記念

ファレルがアニメ化、MVで初音ミクと共演

マルチな才能を評価され、いま最も音楽シーンでホットなミュージシャン、プロデューサーであるファレル・ウィリアムス。彼が、日本を代表する現代芸術家の村上隆(※1)初監督作品『めめめのくらげ』の主題歌、livetune feat. 初音ミクの『Last Night, Good Night』をリミックスした。現在、村上の同作品は海外版『Jellyfish Eyes』(※2)として全米9都市にて上映ツアー中。その記念としてファレルがリミックスを手掛け、ミュージック・ビデオ(MV)を村上隆が制作、先日公開された。二人は2009年に共同作品『The Simple Things』(※3)を発表し、2.8万ドル(2億円相当/2009年当時)で落札されたことでも話題となった。

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以来、4年ぶりとなった二人の再タッグ。ファレル作のリミックス『Last Night,Good Night(Re:Daialed)』のスペシャルなMVで村上は、ファレルをアニメ化。さらにバーチャルアイドル初音ミクと、映画に登場するキャラクターとともにファレルが踊る。彼の頭にはトレードマークであるヴィヴィアン・ウエストウッドのハットもしっかりとあしらわれ、カルチャー・アイコンであるファレル・ウィリアムスをしっかりと再現している。同MVは村上率いる「カイカイキキ(Kaikai Kiki)」(※4)のアニメーション制作スタジオで2ヶ月にわたって制作された。

ショートコメント公開:「ファレル×村上隆とコラボのきっかけ」

The Creators Projectにてメール上でファレルと村上よりコメントをもらった。

リミックスを手掛けた『Last Night, Good Night (Re:Dialed)』について

ファレル:

「前にも彼(村上隆)とコラボしたことがあるから、彼が話を持ってきた時に僕がイエスと答えるのは当然のことだった。東京にある彼のオフィスで彼と会った時に、彼がプロジェクトについてプレゼンしてくれたんだ。15分も経たないうちに、自分がすべきことが分かったよ。曲の構想にはそれからまた数週間かかったかな。」

そうして完成された曲は、躍動感のあるグルーヴ、そして呼吸のように安定したサウンドが、バーチャル歌姫の合成された甘い歌声の下に流れている。さらに彼はこう続けた。

ファレル:

「『Jellyfish Eyes』もそうだし、彼の絵や彫刻などの作品によって誘われる『旅』が好きなんだ」「彼の作品を最初に見たのがいつかは覚えてないけど、ルイ・ヴィトンとのコラボをきっかけに、彼にどんどん注目するようになった。彼の色やキャラクターの使い方には僕に訴えてくるモノがあって、彼の絵の何層にも及ぶレイヤーにはつい夢中になってしまうんだ。」

このビデオを観ると『Jellyfish Eyes』という作品を超えて純粋なイマジネーションの世界へと連れて行かれる。ビデオのアイデアについて、村上はこう語る。

村上:

「無限に拡がる宇宙のどこかで、ファレル、ミク、曲を作ったライブチューンは、一見心のないロボットの観客に僕の映画『Jellyfish Eyes』について説明しているんだ。するとどういうわけか映画の発するメッセージがロボットたちに感情的に届いて、時間と空間の境界を超えていく。ファレルは一度だけ僕にキャラクターが着る衣装についての提案をしてくれたけれど、それ以外には完全に自由にやらせてくれた。最初のキャラクターデザインから最終的なプロダクトまで、完成には4か月かかったよ。」

『Last Night, Good Night (Re:Dialed) -Pharrell Williams Remix-』のミュージックビデオの1カット

『どうせやるなら最高を目指さないと』

私たちの想像をかき立てたのは彼の言う謙虚な「どういうわけか」という言葉だった。現段階で、ファレルと村上は既に古い友人のような関係で、『The Simple Things』から『Last Night, Good Night』までのコラボレーションはちょっとした「科学」になっているとも言えるだろう。ファレルはこう話す。

ファレル:

「僕らは2人ともそれぞれの技術におけるプロなわけだし、お互い謙虚な姿勢でこの作業を始めたんだ。まあ僕らは二人とも大人のカラダをしたコドモみたいなモノだしね。だからお互い似たようなところがある。意見が合わないなんてことはないと思うよ。僕たち2人ともそれぞれの作品でそれを観たり聴いたりした人々をどこか別の場所へと連れて行きたいと思っているわけだからね。」

ファレルの考えに村上も同意している。

村上:

「初めて会った時、彼は既に有名人だったけど、驚くほど謙虚で礼儀正しく僕に話かけてきた。僕はそんな彼の人間性に惚れ込んだんだ。飛躍的なブレイクを遂げた今でも彼の姿勢はこれっぽっちも変わってない。彼のことは偉大なアーティストの1人というだけでなく、尊敬するべきロールモデルだと考えてるよ。」

初めて会った時からすでに、2人のフィーリングはパーフェクトなまでに噛み合っていた。

ファレル:

「初めて会ったのは、ロサンゼルスで開催していた彼のMOCA(※5)回顧展だったと思う。一緒に夕食を食べたんだ。人のアイデアを積極的に聞こうとする彼の姿勢が気に入った。それからすぐ後にまた東京で会ったんだ。『The Simple Things』のプロジェクトでアーティストとコラボしたいと思っていたから、彼のKaikai Kikiオフィスでプレゼンをやったんだ。『どうせやるなら最高を目指さないと』って考えながらね。とりあえずその日は帰されるだろうと思っていたのに、彼はすぐにアイデアをスケッチし始めたんだ。オフィスを出る頃には、隆は既に僕がそうなればいいなと思っていた以上のモノを考えてついていた。しかもそれはまだ紙の上でのアイデアにしかすぎなかったんだから、仕上がったモノを見た時に僕がどう感じたかは想像できるよね。」

村上隆が語る『Jellyfish Eyes』制作の動機

最後に、村上が長編映画を作ろうと考えたその理由と制作背景について語った。

村上:

「太平洋戦争は、広島と長崎に核爆弾が落とされたことで終了した。その日から現在に至るまで、日本は爆弾と放射線に対するトラウマとずっと闘い続けている。その闘いは、「マンガの神様」手塚治虫の最も有名な作品『鉄腕アトム』(アメリカでは『Astroboy』と呼ばれる)でタイトルの中にもアトム(atomic;原子)が入っているということからも明らかだし、放射線によって怪獣へと変身した『ゴジラ』といった作品からも同じようなトラウマを感じ取ることができる。日本人はこういった「集団的な恐怖を歪んだやり方で克服しようとする作品」を好む。怪物やロボットを取り上げた作品はオタクのサブカルチャーとして高く評価されているモノのひとつだ。だが2011年3月の災害で日本を襲った苦悩はサブカルチャーによって綴られたホラー話よりももっと悲惨なモノだったし、原子力発電所を襲った津波によるメルトダウンは今でも僕たちのカルチャーに新しい傷跡を残し続けている。『Jellyfish Eyes』は、これらの新たな恐怖を受け入れる方法のひとつとして作ったモノなんだ。

資金調達からディレクション、脚本、CG制作、曲の制作やマーケティングまで全てに関わった村上は、この映画を美術活動から新しい領域への進化とし捉えている。「映画文化の基本原理について、学べること全てを学びたいと考えていたんだ。それと同時に、『Jellyfish Eyes 2』にも取り掛かり始めた。だから、実際のところ今でも映画の基本について勉強していることになるね。」

結局のところ大事なのは、死ぬまでにやりたいことリストにチェックを入れていくような感じで、空想をいかに現実にしていくかということだ。

村上は「マンガとアニメだとどっちのキャラクターになるのがいい?」と訪ねたそうだ。そこでファレルは「アニメだね」と答え、こう続けた。

ファレル:

「それは僕の夢のひとつだったんだ。だからこのリミックスのビデオが出来ていく様子を見られたことは本当に素晴らしい経験だったね。」そんなことを言われてしまうと、私たちにできることなんて「全力で同意」することぐらいだ。そんなわけで「大人のカラダをしたコドモ」みたいな彼らの活動から今後も目が離せないだろう。

『Jellyfish Eyes』について語る村上のドキュメンタリービデオ(下)もチェック!

Image credits: © Crypton Future Media, INC. ©2014 Takashi Murakami/Kaikai KikiCo., Ltd. All Rights Reserved.

『JELLYFISH EYES』は、現在アメリカ国内の主要美術館を巡る上映ツアー中。この先はワシントンDCのハーシュホーン博物館と彫刻の庭、シカゴの現代美術館、ロサンゼルスのThe Theatre at Ace Hotel、そしてニューヨークのFilm Society of Lincoln Centerなどで公開される予定。村上とファレルは上映会およびBBCICECREAM NYCのフラッグシップストア&オンラインストアで販売される『JELLYFISH EYES』にインスパイアされたTシャツでもコラボしている。

『JELLYFISH EYES』の詳細情報と上映会のチケットの購入についてはhttp://www.jellyfisheyesthemovie.com からチェック。

脚注:

(※1)『Jellyfish Eyes』:邦題は『めめめのくらげ』、2013年4月公開の村上隆が初監督として手掛けた長編映画作品。ハイクオリティなCG技術と実写映像を組み合わせて制作された、子どもを主人公にしたストーリー。同作品の主題歌は初音ミクが担当している。

(※2)村上隆:芸術概念「スーパーフラット」—漫画やアニメによって影響を受けた村上隆による芸術活動および概念—により、世界で大きな評価を受け、その後、ルイ・ヴィトンのコラボレーションでも名を馳せる。日本を代表する現代芸術家のひとり。

(※3)『The Simple Things』:村上隆とファレル・ウィリアムスのコラボレーション作品。ダイヤモンドをちりばめた立体作品として「アート・バーゼル2009(Art 40 Basel)」にて発表。内覧会開幕20分後に2億円で落札され大きな話題を生んだ。

(※4)カイカイキキ(Kaikai Kiki):村上隆が設立した会社。東京・元麻布の他に埼玉県・朝霞にアトリエ、ニューヨークにもオフィスがある。ファレルのリミックス・ビデオは、札幌にあるアニメーション制作スタジオ・STUDIO PONCOTANにて制作された。

(※5)MOCA回顧展:2007年に行われた村上隆の回顧展。展示会のタイトルは『(C) MURAKAMI』。彼の90点以上の作品が展示され、大きな反響を呼んだ。