年間旅行者が数百万人にのぼり、高級化が急速に進むリスボンの中心地からわずか数キロ離れた〈セイス・デ・マイオ(6 de Maio)〉という地域は、少しずつ死に向かっている。
セイス・デ・マイオは数十年にわたり、実に危険で警察も足を踏み入れようとしない地域、行政も機能していない地域として神話的に扱われてきた。住民の大半を占めるのは、1970年代後半にポルトガルに渡ったカーボベルデ共和国(1975年にポルトガルから独立)からの移民だ。2016年になると、行政が立ち退きを強制したり警察の手入れを執行するなどして、この地域を積極的に解体し、新しい都市開発を進めてきた。
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行政によるセイス・デ・マイオの破壊について知った、ドキュメンタリーフォトグラファーのホセ・フェレイラは同地域で1年過ごし、住民の日々の暮らしをカメラに収め、「Out of Law」というフォトシリーズとしてまとめあげた。彼の狙いは、社会から見捨てられたこの地域について、外部のひとたちにもっとよく知ってもらえるような何かをつくることだった。
「ここの住民の多くは、貧しい家庭に生まれ、財産も何もありません」とフェレイラ。「失うものは何もないんです」
彼が最初に行なったのは、住民たちの信頼を得ることだったが、それは一筋縄では行かなかった。「このコミュニティは結びつきが強い。お互いがお互いを守り合っているんです」とフェレイラは語る。「多くの住民は、知らない人間を疑ってかかり、外界からはどちらかというと閉ざされています。でも、ひとたびお互いに理解し合えば、みんなすごく控えめで、僕にも親しくしてくれました」。彼はついにコミュニティで温かく受け入れられ、アルバムジャケットの撮影など、地元のラッパーたちともコラボするようになった。
立ち退きや取り壊しのために、まるで戦場のような様相を見せる今のセイス・デ・マイオの姿は、遠くない未来に失われるだろう。「警察が考えているのは、犯罪が他の地域に広がらないようにすることだけです。ここでの問題を解決することではない」とフェレイラは説明する。地域内では、取り壊し用のブルドーザーを常に目にするような状態で、住民たちは自らが育ったコミュニティを離れ、市内の別の地域への移住を余儀なくされている。
「Out of Law」が提示するのは、犯罪と荒廃だけがセイス・デ・マイオを構成する要素ではない、ということ。彼は、この町が破壊されてしまっても、自分の写真に今の町の姿が残れば、と願っている。
以下に「Out of Law」の写真を掲載する。
This article originally appeared on VICE ES.