抜けないペニス 陰茎絞扼症

ジャミン・ブランバット(Jamin Brahmbhatt)博士のパソコンには、異物に圧迫絞扼(あっぱくこうやく)されたペニスの写真専用フォルダがある。あるペニスは結婚指輪に、別のペニスは掃除機に、あるいはコックリングのなかに睾丸といっしょに……。何かにハマって抜けなくなったペニスを泌尿器科医のブランバット博士は救ってきた。博士は、患者の同意を得て、今後の参考のために、痛ましい局部の写真を撮影してパソコンに保存している。いつかまたフォルダに、小さな穴にハマったペニスの新たな写真を保存することを博士は確信している。

「珍しい症例ですが、確実にあります」。ブランバット博士はフロリダ州オーランド郊外にクリニックを構えている。「私が知っている全ての泌尿器科が扱ったことのある症例です。私は5件。年1回のペースです」

Videos by VICE

〈陰茎絞扼症〉は、ペニスを金属リングやボトルの飲み口など、何か小さな硬い穴に入れて抜けなくなった状態だ。例えば今年9月末にはドイツで、バーベルのプレートの穴にペニスがハマって抜けなくなった男性のために救急隊が駆けつけ、研磨機やウォータージェットでプレートを壊した、とのニュースが報じられた。

この陰茎絞扼という行為がどれほど一般的なのかは判明していない。陰茎絞扼症のケーススタディは多いものの(その多くが救急医によって執筆されている)、包括的な研究はなされていない。行為を目の当たりにしても、公にしない人もいるだろう。特殊性癖コミュニティ向けSNS〈FetLife〉には〈ペニス・ウィッピング(=ペニスのムチ打ち)〉や〈ペニス同士の拘束〉などの性癖を好むユーザーが集うが、陰茎絞扼はリストアップされていない。しかし、泌尿器科医や緊急治療室スタッフ、または身体の大事ないち部分を狭い空間から救出するために呼ばれた救急隊員たちは、実際に目撃している。

「稀な症例ですし、発生率に比べて資料が少ないです」とTVのトークショー『The Doctors』に出演している臨床心理学者ジュディ・ホー(Judy Ho)博士は現状を説明する。また事例証拠から判断するに、「ここ数十年でERに駆け込む患者は増えている」そうだ。

ホー博士によると、絞扼はBDSM的行為のひとつ、もしくは、有害な強迫性性的障害の兆候だ。例えばトラウマを経験した男性は、トラウマが性的か否かにかかわらず、痛みを伴う性的体験を求める傾向にあるという。また、一般的な手段では充分な刺激を得られない男性は、行為の過激さを徐々にエスカレートさせる場合がある。日常生活に差し障りが出るほどに自慰行為を行い、場合によっては何時間も自慰行為にふける強迫性自慰行為者も「欲求レベルがどんどん上がっていく」と博士は説明する。そういう事情を抱えた男性が、絞扼行為に手を出す可能性が高い。

しかし絞扼行為は危険をはらんでいる。なぜならペニスは勃起するからだ。萎えた状態、半勃起状態のペニスを硬い空洞のなかに差し込んだあと、そのスリルでうっかりフル勃起しようものなら、もう抜けない。性的刺激によりペニス内部に血液が溜まり、内圧が高まって勃起すると、異物による締め付けによりペニスが腫れる。もしくは、循環を阻害された体液が滞留して浮腫が現れる。つまり、勃起が収まっても腫れは引かない。結果、ペニス内に新鮮な酸素を運ぶ新しい血液が流れ込まなくなる。

ブランバット博士によると、陰茎絞扼症の患者は、羞恥心から、すぐに病院に足を運ばない傾向にあるという。力尽くで引き抜こうとしたり、バールを使ったり、ある程度自身で対処する。それから数時間後に、ようやく119番に電話したり、救急に駆け込む。そうなると、医療関係者が処置にあたる頃には、血液循環が止まってかなり長い時間が経っている。そのため、夜中であろうと陰茎絞扼症について質問の電話がかかってくる、とブランバット博士は語る。

包括的な研究がされていないので、一般的な結果や重症度を説明することはできない。医師各々が処置の概要を示したケーススタディを発表しているので、現場の医師は、先人たちの資料を参考にして、陰茎絞扼症に対処するしかない。教育機関で取り上げられる機会があまりない症例だけに、その処置には、医師たちの創意あふれるアイデアが光る。

最近のケーススタディを参照しよう。まず、64歳の中国人男性。彼は、金属製リングを「陰茎と陰嚢の根元まで」押し込んだ。それから12時間後にERに運ばれた。医師たちは、ペニスに溜まった体液を抜くためにペニスを数か所小さく切開した。その後、リングに絹糸をとおして引っ張り、ペニスから引き抜いた。

45歳のインド人男性は、マスターベーションの目的でペットボトルの飲み口にペニスを差し込み、18時間後に緊急治療室に運び込まれた。外科医たちは、手術用の比較的硬い組織の切離などに使われるメイヨー剪刀でボトルを切り、男性にはカテーテル治療を2日間施した。

14歳の米国人男子は、1970年代に流行ったムードリング(体温で色が変化する指輪)に「自慰目的で」ペニスをとおした。救急医師たちは、指輪とペニスのあいだに木製の舌圧子を入れて皮膚を守り、ダイヤモンドコーティングされた医療用ノコギリで指輪を切断した。普段使用している医療器具を転用したのだ。

ブランバット博士がERに呼ばれたときは、外科医が整形外科用ノコギリを使って金属製コックリングを切断していたという。そのときの患者(40歳男性)は、救急を呼ぶ前に12時間も自分で格闘したそうだ。「私が彼を診たときには、もう羞恥心を克服し、とにかく長期的な損傷が残らなくてよかった、と喜んでいました」

博士によると、泌尿器科医としていちばん難しいのは、パートナーの存否にかかわらず、性的体験の快感を高めるために、リスクを伴う手段を選ぶ患者をなだめることだという。「得体の知れない注射、ガソリンスタンドの売店で買えるような錠剤を試したい、と相談に来る患者が月に1~2人はいます。私はそんな患者たちに、『あなたが何をしようと自由ですが、その危険性は理解していてくださいね』としかいえません」

ブランバット博士は、ペニス絞扼のための道具に反対している。セックス・トイ・ショップで買えるコックリングであっても同様だ。医療機器メーカーが販売しているバキューム装置はそれらに比べれて安全性は高いが、実際に使用する前には、必ず医療専門家に相談すべきだ、と忠告している。

「自己判断で、手荒に扱わないようにしてください」と博士。「ペニスはひとつしかありませんから」