アーカンソー州で、妊婦の堕胎を困難にするいち連の法案が成立された。同州法のなかには、中絶する女性は、前もって胎児の父親にその旨を通知しなければならない、と定めた条項もある。
この規定により、〈死亡した胎児〉の遺体は、すでに施行されている〈2009年最終遺体処置権利法(Final Disposition Rights Act of 2009)〉に従って処理されなければならず、中絶された胎児は、いかなる成長段階であっても、亡くなった家族として扱われなければならない。
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「2009年最終遺体処置権利法は、故人が生前に自らの遺体の処置に関して具体的な指示を残さなかった場合、遺体をどのように処置するかについて定めたものです」。アメリカ自由人権協会(The American Civil Liberties Union:ACLU)が主宰する <生殖の自由プロジェクト(Reproductive Freedom Project)>副理事であるタルコット・キャンプ(Talcott Camp)は、電話インタビューでこう説明してくれた。
同法案では、遺体の処置に関する決定権が次のような順番で優先的に振り当てられる。まずは故人の配偶者、その次は子供たち、そして両親、さらに祖父母、といった具合だ。胎児には当然ながら配偶者も子供もいないので、堕胎する場合は、胎児の両親が遺体の処置に関して同意しなければならない。しかし、堕胎を望んでいるのが未成年者の場合、最終的な遺体処置の権利を行使できるのは18歳からと定められているので、遺体処置の決定権は、未成年者の両親 (つまり胎児の「祖父母」) に委ねられる。
今のところ、充実した生殖医療に関するサービスを備え、関連業者と提携して胎児の遺体の移送と火葬に対応する診療所は、アーカンソー州にひとつしかない。 (先日も数人の女性たちが胎児を火葬したが、彼女たちは自らその手配をしなければならなかった)。新しく成立した法案は、患者の性的パートナーや、場合によっては女性の両親に診療所が連絡し、堕胎の際にはそれに関わる人物全員の同意を義務付けている。また、レイプ被害者に関しても法案では例外を認めていないため、堕胎を望む被害者は加害者本人と協議しなければならなくなる。
「手術を担当する医師が、胎児の『父親』へと連絡を取るための『妥当な努力』をしない限り、中絶手術や流産の処置は進められないのです」とキャンプは述べた。また同法案は、女性のプライバシー権を大きく損ねるものでもあるという。「自らの極めて私的な診療情報を、第三者に伝えたくないという状況が考慮されていません」とキャンプは語る。
同法案により、妊婦の対処は遅れ、胎児の〈父親〉や〈祖父母〉による中絶阻止が可能になる。胎児の遺体をどうするかについて、女性とその性的パートナーとのあいだに意見の不一致があった場合、裁判で決着をつけなければならない。「馬鹿げています」とキャンプは語る。「裁判のあいだも女性はただじっと待ち続けなければならないのですから」
同法案が施行された場合、州内で中絶手術を実施しているふたつの診療所も運営停止になるかもしれないという。というのも、家庭内で死亡した胎児の遺体をどのように処置するかについて、同法案では明文化されていないからだ。中絶用の薬を服用した結果、家庭内で胎児が死亡することはよくある。「この法案には、薬品による中絶を禁止している、とも解釈できる箇所もあります」。〈リトルロック・ファミリープランニングサービス(Little Rock Family Planning Services)〉 の正看護師であるローリ・ウィリアムズ (Lori Williams) は語る。リトルロック・ファミリープランニングサービスは、現在アーカンソー州で唯一、薬による中絶と手術による中絶、双方を実施している診療所だ。
同じくリトルロック・ファミリープランニングサービス に勤めるフレデリック・ホプキンス博士 (Dr. Frederick Hopkins) は、同法案の持つ曖昧さこそが危険だと主張している。州法を遵守しなかった場合、手術する医師が罪を問われる可能性があるため、「中絶や流産の処置などができなくなる」おそれがあるという。
妊娠第二期に実施される、一般的な術式の〈子宮内容除去術〉を禁止する法案もアーカンソー州では成立している。その法案では、医師に、中絶手術を施す前に、患者の妊娠に関する診療歴の入手を義務付けている。また、同法案では、未成年の中絶に携わる医師に、警察への施術の通報と、〈証拠品〉として胎児組織を提出するよう求めている。
「今回の法案がそれぞれ施行されれば、憲法で守られた〈女性が中絶する権利〉を著しく侵害する」とホプキンスは語る。「どの法案も、当事者が適切な中絶のタイミングを逸してしまう恐れのある法案で、結果として女性の健康状態を危機にさらすだけでなく、女性が中絶処置を受けられなくなる可能性もあるのです」
ACLUは、今回の法案に対して6月に訴訟を起こした。最初の聴聞会は7月18日に始まり、7月28日、アーカンソー州の連邦裁判所は、今法案の暫定的な差し止めを命じた。この決定により、訴訟が終わるまで法案は施行されない。
「私たちが裁判で争っているあいだは、これらの侮辱的で危険な違憲法案が差し止めになります。とても喜ばしい判決です。アーカンソーの政治家たちが人工中絶を望む女性に課した実にひどい負担を裁判所は回避したのです」と、キャンプは語った。
また、ACLUで事務局長を務めるリタ・スクラー(Rita Sklar)も以下のように続けた。
「アーカンソー州の女性は、これらの法案の施行が差し止めになって、少しはほっとしたでしょう。アーカンソーの政治家たちは、女性の健康を守るのではなく、良識と理性に逆らって、人工中絶手術を困難、あるいは不可能にする法案を通しました。私たちはこれらの法案によって人工中絶が妨害される前に、廃止されるようこれからも戦い続けます」