39歳のテレンス・アングジオコは、人里離れたビーチの真ん中に建つ、扉のない小屋のなかで夜を過ごし、朝は波しぶきの音で目覚める、という生活を3月から続けている。多くのフィリピン人が封鎖されたマニラで暮らすなか、彼はパラワン諸島のコロン島に避難することに決めた。彼はマニラのロックダウンが発表されてすぐに航空券を予約し、以来、この島の海岸でたった8人のひとびとと(正確には、8人の人間、7匹のブタ、4匹のネコ、3匹のイヌ、3羽のニワトリと)共に暮らしている。
「FarmVilleのなかで暮らしているみたいですね」とテレンスは笑う。彼は毎日、キャンプ場の調理場へ向かい、パソコン、携帯電話、カメラ、その他の電化製品の充電をする。使用するのは、トラックのバッテリーを充電できるほどの大きさのソーラーパネル。一晩越すには充分だ。朝になれば、改めて充電を行う。まるでドラマティックな要素がない、テレビ番組『サバイバー』のようだ。
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食料の貯蔵庫もあり、釣ったばかりの魚を食べられることも多いが、時には醤油を垂らした米しか食べられないときもある。中型のプラスチック容器に入っているテレンスのサバイバルキットには、携帯電話、モバイルバッテリーふたつ、USB扇風機、帽子、水筒、サングラス、ヘッドホン、虫除け、LEDの懐中電灯、小さなナイフ、ペン、ライター、パソコンが入っている。
数週間、新鮮な水でシャワーを浴びれず、自分の食料は自分で手に入れなければならないという環境は好みが分かれるところだろうが、テレンスは都会のマンションに閉じこもるより島で自己隔離することを選んだ。彼はマニラのアートやナイトライフが盛んな地域、ポブラシオンに暮らしているが、人通りのない週末をそこで過ごすなんて耐えられなかったのだ。
「ロックダウン措置が発表されたとき、ポブラシオンの景色が変わってしまうな、と思ったんです。この地域は共同体のようなものなのに、すべての店が閉まってしまうから。だから、『よし、別の場所へ行こう』と決意したんです」
彼は荷物をまとめ、飼い犬を友人に預け、マニラから300キロメートル離れたパラワンへと飛んだ。コロン島に着いたのは3月15日。ちょうどマニラ首都圏でロックダウンが始まった日だ。もともと1ヶ月の滞在を予定していたが、ロックダウンが2度も延長されたので、渡航禁止令が解除される5月15日まで滞在を延長するほかなくなった。それもロックダウンが解除されればの話だが(オリジナル記事公開日は5月7日、結局マニラでロックダウンが解除されたのは6月1日)。
「半分くらいは規制解除してほしいですね。早く戻れれば戻れるほど、生活の回復も早くなると思うので」とテレンスはいう。
テレンスは、パンデミックによる経済的損害や自分のデジタルデザイン事務所の将来について不安を抱いているというが、仕事が不安定なわりに、彼は驚くほど落ち着いている。
「人生はめちゃくちゃ不公平。だからこそ、いつだって人生を楽しまないと」
彼は毎日、島と沿岸の海域を所有しているタグバヌワ族のひとびとと共に過ごしている。パンデミック前の島では、社会的企業の〈Red Carabao〉と組んで観光客を誘致していた。しかし今は空の便の欠航が続いているため、地元住民たちは日々の仕事やスピアフィッシング、ワイルドヤムの収穫などに勤しんでいる。



自らの力で食料を収穫し、自分の家も自分でつくり、自分の船も修繕してしまうタグバヌワのひとびとを、テレンスは「超人」と称する。
「僕の目標は、スピアフィッシングで魚を獲れるようになること」とテレンス。彼は現在、地元住民同様の生活をし、長刀のなたを携えて歩いたり、ナイフなしで果物をカットできるように爪を伸ばしている。

さらに、素潜りを練習したり、裸足で山を歩けるように訓練もしている。しかし、郷に従うのも楽ではない。特に彼が苦労しているのは、地元のひとたちとの酒席だ。
アルコール度数の高い地元のジンをボトルで一気飲みするという経験をした彼は、「#OG!島で学んだこと:〈ジン・ブラグ(gin bulag)〉はもう二度と飲まない」とInstagramに投稿した。ジン・ブラグは、あまりにもアルコール度数が高いので、失明するおそれもあるとされている酒だ。タグバヌワのひとびとは普段あまりお酒を飲まないが、その日は新しい船を祝うめでたい席だった。テレンスは、午後6時にはもう気を失っていたという。
テレンスは島での生活を写真や動画に収め、SNSに投稿している。気が向いたときにはふざけた料理動画をアップすることもあるという。
「そういうのも必要なんですよね、正気を保つために」とテレンス。
「ロックダウンに終わりが来るのかはわかりませんが、自分が撮った写真や動画をみれば、最高の思い出がよみがえるのは間違いないですね」
彼はマニラのチームと連絡を取り合ってもいるが、緊急の案件がなければ1日のほとんどを地元住民たちと過ごす。

毎日、午後にはみんな仕事の手を休め、どこかの小屋に集まって小さなVCDのポータブルプレーヤーで映画を観る。観る作品はいつも同じだ。フェルナンド・ポー・ジュニアが主演するフィリピンの古いアクションムービーか、ラッパーのアンドリュー・E、またはティト、ヴィック、ジョーイの3人組が主演するコメディ映画。それからみんなで昼寝の時間だ。この島では、何でをするにもみんなで行う。
「ロックダウンは関係なく、みんな常にいっしょに行動してます」とテレンスは説明する。「常にいっしょにいて、あらゆる出来事を共有して、いっしょにご飯を食べるんです」

テレンスは6月まで島に滞在するつもりで、マニラに帰ったあとも島での生活様式を続けたいという。コロン島での生活が延長された結果、都会の生活がいかに個人主義的か気づいたのだ。
「都会では、まるで個人個人がひとつの島かのような生活です」とテレンス。ロックダウンの前、街でみんなが買いだめに殺到したのは、トイレットペーパーがなくなったら近所のひとに借りにいけばいいという発想がなかったからではないか、と彼は推測する。マニラにおける新しい日常を暮らしていくためには、この気づきこそが重要なのかもしれない。
「僕がこの生活から得た学びは、誰かに頼り、同時に自分も頼られることです」
テレンスが島での生活を記録した写真を以下に掲載。





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This article originally appeared on VICE ASIA.
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