先住民を自殺に追い込む「開発」という名の迫害

長い間、 先住民に対する土地所有権の保証は怠られている。彼らは、土地を失い、移住を強いられた。その結果、新たな病気、栄養失調などの危険にさらされ、追い込まれた先住民の自殺率は平均を上回る。

サバイバル・インターナショナル(Survival International)が発表した『Progress Can Kill』には、先住民居住地開発において、いかに先住民と開発者のあいだで交わされた契約が履行されないかについて、調査員の報告が掲載されている。カナダからオーストラリア、コンゴ、ブラジルに至るまで、世界中のケースが取り上げられているが、先住民を「文明化」しようとすると、彼らの生命を脅かしてしまうようだ。

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「先住民に発展を強制しても、それが彼らの人生に、更なる幸福と長寿をもたらしはしない」と報告は結論付ける。「むしろ、寿命は短くなり、生きる希望を失い、死を選ばざるを得ない」

その中でも特筆すべきは、 ブラジル南部のグアラニ(Guaraní)族、カイオワ・コミュニティだ。彼らの自殺率は、国内平均の34倍にも上る。ブラジルに住むグアラニ・コミュニティの規模は、推定40,000人とされており、パラグアイ、アルゼンチン、ボリビアの4国合わせて70,000人とされるグアラニ族の大半を占める。

1940年代、ジェトゥリオ・ドルネレス・ヴァルガス大統領は、「March to the West」という名の下に、農業開発を推奨した。 それ以来グアラニ族は、ブラジル憲法によって彼らに保証されているはずの、慣習的な土地を巡って闘ってきた。 しかし、なんら法的措置もなく、自治体が問題を30年間放置した結果、グアラニ族は、自ら命を絶つ、という究極の手段で抗議した。

ブラジルの人類学者スペンシー・クミッタ・ピメンテル(Spensy Kmitta Pimentel)は、この出来事を「無力さを知った末」の「抗議自殺」と表現し、この行動はグアラニ族の間に広がっていった。2013年だけでも、73件の自殺が報告された。そのほとんどが、10~20代の若者の自殺だ。 かつてはグアラニ族の食料源であった森林の大半が、アグリビジネス(農業関連産業)によって破壊され、2005年から2015年のあいだに、少なくとも、グアラニ族の子供86人が栄養失調で死亡した。

ブラジルのUNILA(Universidad Federal de Integración Latinoamericana)の人類学者、バーバラ・アリジは、「これは悪夢よりひどい現実です」と表現した。彼女によると、計画的に先住民の土地とその所有権を剥ぎ取るブラジルで、先住民の自殺は残念ながら「ニュースにもならない」そうだ。「グアラニ族にとって、土地はなくてはならないものです」「この問題を政府は先送りにするべきではありません。暴力事件は増える一方です」

2015年8月、グアラニ族のいち団が、マットグロッソ・ド・スル州にある3つの農場を占拠した際、24歳のセミアオ・ヴィハルヴァは顔面を銃撃されて死亡した。農場はグアラニ族の土地だ、とグアラニ族は主張した。最近では、農場主がグアラニ族の1人を狙って18回発砲し、うち2発が男性に命中したが、紙一重で急所を外れていた。ブラジルの憲法は、慣習的な土地の所有権を先住民に保証している、とアリジは強調するものの、権力者たちはこの権利を蔑ろにし、否定するようになっている。

グアラニ族の苦境は、より大きな問題を孕んでいる。土地とその所有権の亡失は、先住民を自殺に追い込む、最大にして唯一の原因になる。カナダで、ある先住民グループが土地を追われた結果、彼らの自殺率は同国平均の11倍になった。それに対して、土地を保証された先住民の自殺は1件もない。アラスカも同様の状況だ。

サバイバル・インターナショナルの運動家、ソフィー・グリッグは、「自殺率の増加は、自分たちの土地を追われ現代的な生活を強制された、先住民の疎外感と絶望感が打ち鳴らす警鐘だ」と懸念する。「彼らにとって大きな意味を持つ土地から引き離されるのは、自尊心の崩壊を意味する。彼らにとってその土地はただの土地ではない。彼らの先祖から受け継いだ土地だ」

問題は他にもある。先住民たちは食料供給源でもあった土地を失うと、彼らのバラエティに富んだ食生活は、糖尿病の原因になる過剰加工された安価な食品が占めるようになる。新しい移住先で、人種差別を受ける。子供たちにいたっては、生まれ育った環境から引き離され、全寮制学校への入学を強制され、独自の習慣や言葉を無理やり矯正されてしまう、とサバイバル・インターナショナルの報告書は指摘している。

土地の損失による様々な影響がいくら複雑に絡み合っているとはいえ、問題の解決は驚くほど単純だ、とグリッグは確信している。先住民の土地所有権を保証し、彼ら自身が望む開発が実現するよう決定権を預ければよい。

オースラリアの先住民の平均寿命は、非先住民に比べて10年から15年ほど短く、自殺率は同国平均の6倍にもなる。さらに、未成年の死亡率は約2倍、回避可能な原因による死亡率は約3倍、糖尿病による死亡率は約7倍、リウマチ熱とリウマチ性心臓疾患による死亡率は約19倍にもなる。

研究者の調査によると、慣習的な土地に住み続けた先住民は、移住した先住民よりも寿命が平均10年も長くなるそうだ。

こういった調査結果は、最近発表された国連の持続可能な開発目標、国の政策、国際開発目標などに反映させるべきだ、とグリッグは主張する。「そういった組織や団体は、先住民たちを『貧困』といった概念でくくり、多額の生活保護を与えることで安心し、彼らの現状を把握する機会を逃している。それでは全く意味がない」。ほとんどの先住民は、収入に関わらず、 生まれながらの土地で暮らしていれば、より健康的な生活が送れる。

ブラジルのグアラニ族は、悪化する自らの状況に対し、直ちに対応するよう政府に求めている。部族の古老たちは、現在進行中の対立を、生き残った先住民を徐々に抹殺しようとする計画的大虐殺だ、と表現する。彼らは世論に訴えるべく、らしくはない試みではあるが、抗議活動のために街頭に繰り出す。

「彼らは長年、部外者から隠れるようにして抗議活動を続けていましたが、絶望の淵に立たされてしまった今、世論に訴えようと必死になっている」。政府が介入して先住民の土地境界を画定しなくてはならない、とアリジは確信している。「行動を起こさなければ全てを失う。彼らはようやく、そう気付いたんです」