ヨーロッパから追い出されるロシアのスパイたち

ヨーロッパには膨大な数のロシア外交職員が駐在している。表向きは外交職員だがスパイではないかと疑われている彼らが今、次々とヨーロッパから追い出されている。諜報機関関係者たちがVICE World Newsに語った。
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
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PHOTO: MIKHAIL KLIMENTYEV/SPUTNIK/AFP via Getty Images

2022年3月23日、ポーランドがスパイと疑われる45名のロシア外交官の追放を決定した。防諜関係者たちがVICE World Newsに語ったところによると、実は各国にロシア外交職員として諜報員が送られているそうだ。今後もヨーロッパ各国におけるロシア外交職員の取り締まりは止まらないだろう。

外交職員として大使館に諜報員を送り込むことは各国がよく使う手であるが、ある関係者によると、ロシアは同規模の他国と比べてあまりに過剰な人員を大使館に送っており、以前より非難されていたという。

EUのNATO加盟国の関係者3名は正式な取材を受けること、そして具体的な数字を述べることを拒否したが、ひとりの言葉をそのまま借りれば、パリ、ブリュッセル、ウィーン、プラハのロシア大使館は「肥え太ったガチョウのように、スパイで溢れている」とのことだ。

「ヨーロッパ全土のロシア大使館には、外交的必要性を大きく超えた数の人員が駐在している」と指摘するのは、ブリュッセルを拠点として活動するNATO防諜機関の高官だ。「もちろん多くの大使館に諜報活動の要素はあるものの、これほどまでに多くのロシア人がヨーロッパ中に駐在していることは、外交特権を乱用する厚顔無恥な試みだ」

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ポーランドは、諜報員である可能性が高い45名が特定されると、同国の諜報機関からの勧告を直ちに受け入れて国外へ追放した。その1週間前には、ワルシャワの大使館で働いていた2名がスパイ容疑で追放され、ポーランドの政府高官1名が逮捕されている。

2022年3月24日には駐ポーランドロシア大使のセルゲイ・アンドレーエフが、ポーランド当局により「テロ支援」を理由として大使館の銀行口座が凍結されたことを発表した。ポーランドのある高官は、ロイター通信の取材に対し詳細は明らかにしなかったものの、同国が制裁措置にのっとり手続きを進めており、ロシアに関係する銀行口座をターゲットとしていると述べた。

「2名はポーランド政府の情報へのアクセス権のある諜報員を動かしていたことで逮捕された」と同高官は説明する。「(3月2日に)ブルガリアはスパイ行為に関わっていた外交官2名を追放し、3月中旬にはさらに10名を(ペルソナ・ノン・グラータ”好ましからざる人物”に)指定した」

「これまでは、(国外追放というのは)3月初頭にブルガリアやスロバキアで起こったような、スパイ活動をしていたロシアの諜報員が捕らえられたときなどに使われる手だった」とNATO高官は匿名を条件に明かした。「しかし3月中旬からの流れとして、そのような事件を防ぐためにより積極的な措置がとられるようになるだろう。そのための最善の方法は、諜報員を帰国させることだ」

3月18日、ブルガリア、ラトビア、エストニアは、計20名のロシア外交官に対し、取り締まりの一環として数日以内の国外退去を命じた。これまではスパイ活動で逮捕されたわけでないロシアの諜報員を追放すれば同国との関係が悪化するのでは、という政治的懸念があったが、ウクライナへの侵攻によりそれが置き換えられた、と3名の関係者たちは口を揃える。

同じく3月中旬、スロバキアはある諜報活動(その様子は防諜機関により動画撮影された)を阻止したあと、3名のロシア外交官を追放した。

関係者たちによると、ロシアは10年以上にわたってヨーロッパで積極的な諜報活動を行なってきた。それがチェチェンの反体制派の殺害や、武器商人への神経剤による殺害未遂、チェコとブルガリアの武器庫への秘密爆撃作戦を導いた。

「かつてはEU全体が(ロシアの)作戦に先制することに対して消極的で、事件への対応しかしてこなかった。しかしウクライナの件を考慮することで変わってきている」と防諜関係者は語る。

「諜報機関が消極的なのは、こちらを監視しているスパイだとわかっている相手を妨害することだ」と同関係者は説明する。「国防と政治情勢のバランスをとる必要がある。現在はそれらを加味した結果、ロシア外交官を追い出す流れになっている」

ロシア外務省は、外交官追放についてポーランドを実質的に脅すような態度をとっており、「ロシアはこのような敵対的な攻撃に対し必ず報復する。それはポーランドの煽動者たちに考えることを求めるものであり、彼らを苦しめるであろう」という声明を発表した。

3月23日の夜、ロシア当局は同国内の米国外交施設から追放する米国外交官のリストを送付(詳細は明らかにされていない)。米国は今年2月に、国連のロシア外交官12名をスパイ容疑で追放している。米国の防諜関係者(正式な取材は拒否)がVICE World Newsの取材に語ったところによると、米国内のスパイ活動の追跡を担当しているFBIは、この2年でテロリズムから防諜活動に資源を移し、力を入れるようになっているそうだ。

「FBIはこれを、伝統的な責務への回帰と見ている。彼らが得意とする分野だ」と同関係者は語る。

ワシントン・ポストの3月23日の記事によると、FBIは米国の防諜活動へロシア外交官を勧誘するためのSNS広告を流したが、ワシントンのロシア大使館周辺がマイクロターゲティングされていたという。